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レイモンド商会

みなさんメリークリスマス!


年末になって忙しくお過ごしでしょうが、お身体を大事にお過ごし下さいね。


それでは今年最後の新作投稿になるので連投します!


 アサヒとサマンサ達がクバルを出発してから二日目の夕方、陽はその姿を西の地平に沈めようとしていた。そして彼らは王都キルマーの目前にまでたどり着いていた。


「何事もなく着きましたね。」


「はい、無事でなによりでした。今日は一旦宿に泊まって、明日レイモンド商会に伺いましょう。」


「はい、それにしてもやっぱり王都って言うだけあって大きな街ですね。正面にある門も大きいし、なんか緊張しますよ。」


「ええ、クバルと違ってこの国の行政の集まる街ですからね。それに海に面しておりますので港もありますし、明日は用事を済ませたら観光でもいたしましょう。」


「いいですね。是非観光したいです。」


「皆さんにお土産も買いましょうね。」


 王都まではまだ距離はあるのだか、一行の向かう先には街の正面を飾る石造りの豪奢な門が待ち構えている。そしてその奥には国王ハルバート・フォン・キルマーの居城か聳え立ち、街のスケールの大きさを見せつけていたのだ。


 鳥車が門に近づく、遠くからでもその大きさは分かっていたが、近くから見上げるそれは奥行10m、横幅20m以上、高さも20mを優に越すほどあり王都の入り口に相応しい尊大さで来る者を迎えるのだった。


「凄いですねぇ。シンブに行った時のソードカットは自然の雄大さがありましたけど、この門は人が作った芸術的な物を感じますね。」


「キルマー城も立派な物ですよ。一部観光用に開放されておりますし、時間があれば行ってみましょうか。」


 王都の正門をくぐり抜けた二人は陽が沈みあちらこちらにある街灯が明るく照らす道路を進む。きちんと整備された路面を快適に走る鳥車はすれ違う鳥車や人に紛れ、まだ明るい商店の連なる豊かな人の営みの中、今日の宿を目指した。


「クバルより大きな建物が多いですね。」


「ええ、やはり王都ですから色々な商店やその本店が軒を連ねておりますよ。明日レイモンド商会に伺いますが、立派な建物ですよ。」


「上手くいくといいですね。」


「ええ、ですがきっと大丈夫でしょう。レイモンド卿は珍しい物や新しい物がお好きですから。」


 宿に着いた二人は、期待と不安を胸に明日に備えその夜は早くに床に着くのだった。




 翌日、レイモンド商会の執務室にはレイモンドとグラハムの姿があった。


「さて、今日はサマンサと運送屋のアサヒが来るんだったね。チョコレートか…、どんな物なんだろうねぇ?楽しみだよ。」


「はい、ですがサマンサはともかく、アサヒにはご注意下さい。ジャクリーヌ様」


「ん?なんでだい。」


「クバルの一件ではガンツォと共に世話になりましたので、」


「あぁ、そうか。まあ問題ないだろ。」


 その頃アサヒ達は朝食を済まし、身支度を整えていた。


「さて、そろそろレイモンド商会に行くとしましょう。」


 護衛の騎士団を残し二人は用意された鳥車に乗ってレイモンド商会に向かう。


「この地区は商業区で色々な店がたくさんございます。何か気になる物があれば後でお寄りになりますか?」


「はい、何か役に立ちそうな物があるかもしれないので、せっかくなんで見させてもらいます。」


 クバルの市場や商店街は二階建ての建物がほとんどだったのだが、王都キルマーの建物は三階又は四階建ての大きなものが多く、正に大都市の風情が漂っていた。

 その一画にある一際立派な建物の前に鳥車が停まる。


「さあ着きましたわ。こちらがレイモンド商会の本店です。」


 その建物は一階部分が商店になっており、日用品などの雑貨が綺麗に陳列されていた。その商会の横には入り口があり、大きな回転扉の上にはレイモンド商会の看板が掲げられていた。回転扉をくぐり中に入ると受付にいた女性が二人を迎えるのだった。


「いらっしゃいませ。レイモンド商会にようこそ。クバル首長のサマンサ様とチェン運送代表のアサヒ様ですね。ご用件は承っております。会長は執務室におりますのでご案内致します。」


 受付の女性は美しく王都の中でも一流企業であるレイモンド商会の顔を務めるに相応しい風体で、身なりは洗練され、その所作も一流のものであった。


「レイモンド商会って大きな商会なんですね。俺の恰好が普通過ぎてちょっと恥ずかしいですよ。」


「気になさる事はありませんよ。レイモンド商会は貴族はもとより、王族ともお付き合いのある企業ですので礼儀作法などにも気を使っていらっしゃるのですよ。」


「レイモンド卿って凄いんですね。」


 受付の女性は二人を扉の前に案内し、傍にあるボタンを押した。


「えっ!エレベーターってあるんですか?」


「はい、クバルにはございませんが、キルマー城や一部の建物にはございますよ。珍しい物ではありますがね。フィルモアやヴィザンツにももちろんございますし、あちらの技術の方がヴァル・キルマより進んでおりますよ。」


「ですよね。聞いてはいましたけど、なんかびっくりしました。」


 今までクバル近辺でしか活動していなかったアサヒは近代技術を垣間見た事で、フィルモアやヴィザンツへの期待を膨らませるのだった。

 そしてエレベーターに乗り最上階に着いた二人は、レイモンドの待つ執務室へと案内された。

 コンコンとノックをし扉を開けた女性が中のレイモンドに声をかける。


「会長、お二人がいらっしゃいましたのでお連れしました。」


「ありがとう、通しておくれ。」


 女性に促され、二人は部屋に入る。


「本日はお時間を作って頂きまことにありがとうございます。お手紙にてお伝えした物をご用意しましたので、御目通り願えますでしょうか?」


「遠路はるばるご足労頂いて、ご苦労様でした。初めましてアサヒさん、お噂は聞いておりました。どんな方か興味があったので今日は楽しみだったのですよ。」


「はい、私もレイモンド卿のクバルでのご活躍は知ってましたので今日お会いできるのを嬉しく思ってました。」


 部屋の中ではレイモンドが笑顔でアサヒ達を迎える。その傍らには視線の鋭いいかにも仕事の出来る風体の秘書の男がおり、アサヒ達をお辞儀で迎えるのだった。


「まぁ、堅いのは抜きにしてまずは座ってお茶にしましょうね。」


「それでは私は失礼致します。」


 受付の女性が部屋を後にすると、執務室にいた秘書が三人分のお茶を用意して持ってくる。


「失礼いたします。」


 サマンサ、アサヒそしてレイモンドの順にお茶を配り終えると秘書は入り口付近のデスクに戻るのだった。


「さて、早速チョコレートを見せて頂きましょう。」


「はい。」


 アサヒは用意した籠から綺麗に包まれた小箱を取り出し、説明をしながらその包み紙を開ける。


「こちらがチョコレートです。この様に包んで販売してはどうかと思ってます。」


 包み紙をはがし中の木箱の蓋を開けると、一つ一つ形の違う艶やかな茶色の塊が姿を見せる。フルーツやナッツが飾られたチョコレートは木箱の中で上品に並んでいた。


「これはこれは、一つよいですか?」


「どうぞお食べください。」


 すると秘書がアサヒとレイモンドの間に割って入って来る。


「お待ち下さい。無礼を承知で申します、先に私が頂いてよろしいでしょうか?」


「なんだい?ジーンは心配性だねぇ。」


 秘書はレイモンドの身を案じ、毒味を申し出るのだった。それを察したアサヒとサマンサは申し出を承諾する。


「はい、こちらこそ配慮にかけておりました。私とアサヒも一緒にいただきますわ。」


 アサヒがまず一口食べると、続いてサマンサと秘書もチョコレートを食べる。


「ん!?これは……!」


「いかがですか?」


「大変失礼をしました。正直申し上げて大変美味でございます。是非会長もお召し上がり下さい。」


「ずるいなジーン、先に食べたかっただけじゃないのかい?」


 そしてレイモンドも箱のチョコレートを一つ摘むと口にした。


「………うん。なるほど、これは素晴らしいね。」

「苦味と甘さがよいバランスだね。原料はコクアかな?口溶けといい、味といい、よくこれを思いついたものだねぇ。」


「お褒めいただき、ありがとうございます。」


「これなら貴族はもちろん、王族も喜ぶはずだね。」


「そこで本題なのですが……」


 レイモンドの試食が終わり、サマンサは今後の商売について切り出した。

 まず、このチョコレートというお菓子の原料になるコクアは原産地がチェロキー大陸南部からコカ大陸中部にあり、ヴァル・キルマ王国やタイダラ王国ではすでに栽培されている植物であった。

 その為、材料は豊富に確保でき安定して生産できるので新たなクバルの特産品として売り出すには非常に好都合で、温度管理をすれば長期保存や輸送が可能であることから輸出にも適した食品である事。そして、配合の違いでバリエーションを増やせるので今後は更なる商品開発も出来ると、レイモンドにプレゼンをするのだった。


「うんうん、なるほどね。サマンサ首長が推すだけの事はあるわけだ……、そうか、分かりました。正直言って完璧ですね。文句の付け所はありません。これならクバルの、いや、ヴァル・キルマの特産品と言っても過言ではないでしょう。」


「では、この話しは乗っていただけるという事でよろしいですか?」


「はい、もちろんです。」


 サマンサのプレゼンが成功し、レイモンドから快諾を得られたと喜ぶ二人、そしてサマンサはアサヒを送り出す為の一押しを加える。


「なんなら、次の渡航でフィルモアに持って行ってもよいかもしれませんねぇ。」


「是非お願いします。そこで相談なんですが、その折りにはアサヒを同行させて商品のプレゼンをさせてはいかがでしょう?」


 しかしそこへ秘書が口を挟んだ。


「お待ち下さい会長。大変申し訳ありませんが、一旦この話しは預からせて頂いて構いませんか?こちらでもう一度精査してご返事させていただきたい。」


「なんだいジーン、相変わらず慎重だねぇ。」


「はい、サマンサ様のご説明は充分な物でございましたが、だからと言って全てを鵜呑みには出来ませんので、今後お付き合いをするにあたり当方でも裏はとらせて頂きます。もちろん会長のご意向には沿った前提でございますが。」


「すいませんね。ジーンは非常に優秀だが、同じくらい慎重でね。とはいえ私はこのお話しに興味があります。近々返事をしますので、期待してお待ちくださいね。」


「分かりました。お返事をお待ちしております。」


 そしてレイモンドとの商談が幕をとじたのだった。


「とりあえず終わりましたね。レイモンド卿の反応は結構良かったですよね。しかもフィルモアに持って行くって言ってたし、上手くいきそうかな。」


「そうですね。感触はよろしかったですね。正直フィルモアに持って行くのは厳しいかと思われましたが、あの様におっしゃっておりましたし、なんとかなるかもしれませんね。」


 アサヒとサマンサは、レイモンドとの交渉が前向きに出来た事に安堵しながらレイモンド商会本社を後にするのだった。


 アサヒとサマンサが出ていった執務室では、レイモンドと秘書が先程の話しをしていた。


「チョコレートか……、相変わらず面白い人ですねぇ。祭りのカレーライスといい私達の知らない物を何故知っているんでしょう。」


「会長、面白がるのはよろしいですが、やはりあの男は得体が知れません。チェン運送には少しばかり気を付けた方がよろしいのではないですか?」


「心配性だねぇジーン。彼がいくら腕が立つといっても所詮ただの人だよ。いざとなればどうとでもなるだろ?そんな事よりこれからも私を楽しませてくれそうじゃないか。」


「あの時より私はジャクリーヌ様の身を守るのが務めと思っております。これからもそれは変わりません。御身に降りかかる危険は排除させて頂きます。」


「あぁよろしく頼むよ。だが、つまらない世の中にはもう飽き飽きしてるんだ。あの時の様に心の底から楽しみたいじゃないか。その為の多少のリスクなら、それも愉悦の一つだよ。」


「かしこまりました。ジャクリーヌ様の御心のままに、ですが何かあれば私が盾となります。」


「分かってるよ。でも僕はあの時の様に二人で楽しみたいんだよ。」


「私には勿体ないお言葉、誠に幸甚に存じます。」


閲覧ありがとうございます。


よかったら、ブクマ、感想などお願いします。

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