探訪者
騎士団との密談の数日後、ジャクリーヌは事件の後処理の為に執務室で書類の片付けをしていた。ゲルマ商会からの書類などに紛れて情報屋からの封筒がそこにはあった。
内容は、襲撃に関わった組織と捕まった盗賊の詳細であった。
襲撃事件の首謀者の組織はカリウス・シモンズを頭にしたキルマー最大の犯罪組織シモンズ一味で、その後ろ盾にマゼンダという素性の知れない組織が存在している事が書かれていた。そして捕まった盗賊は十代半ばの少年三人組の二人で、一人は逃げてまだキルマーに潜伏しているのだという。そしてその少年の名はグラハムというのだった。
「マゼンダ……?ふぅん、まぁよくわからないモノを考えても仕方ありませんね。三人組の盗賊か……。」
封筒の中身を読み終えたジャクリーヌがしばらく考えこんでいると、執務室に父アルフォンスがやってきた。
「ジャック、商会は大丈夫なのか?」
「ご心配には及びません。いささか問題はありましたが、今対処しているところです。」
「あまり目立つ真似はせぬ方がよいのではないか?お前に商会を任せたおかげで商売は上手くいきだしたが、いらぬ諍いに巻き込まれてお前や商会に害が及んではなんの意味があるか。」
「お気遣い痛み入ります。ですが、今は私が会長として商会を預かっております。多少のリスクも承知の上です。ここは今しばらく私にお任せください。」
貧しくとも清く正しく生きる事のみを是とする父に、ジャクリーヌは初めて異を唱えたのだ。言葉は失礼のない様にまとめられてはいたがそこには父からの独立、あるいは決別に近い感情があった。
『父は現実を見ないでいるだけだ。清く正しくいたところで幸せになれるわけじゃない。ただの自己満足で悦に浸っているだけで何の解決にもなりはしない。むしろその方が悪い。私は父とは違う!私は私の望む物全てを叶える。その為の努力は惜しまない!』
ジャクリーヌはこの時から自分の内に閉じ込めていた感情を少しづつ思いだしていく。
それは幼い頃、物心ついた時に初めに湧いた感情。
『自分は優れている』
他者は自分より劣った存在でしかなく、比べると優越感しかない。他者は自分を引き立てるだけの存在、それ以外の価値はない。
飛び抜けた知能と観察眼は彼の深層心理の他者への慈しみや愛を感じる感情を希薄にしてしまったのだ。しかし幼い彼は母の無償の愛とその生き方を尊び、今に至るまで自分を抑えて生きて来た。しかし、その母も今はすでに亡くなり、残った父には侮蔑の感情を持った事で閉じ込めていた感情が目を覚ますのだった。
「さあ、謎解きの始まりですね。ピースは揃ってきました、フフフッ久方ぶりに胸が高鳴りますね。」
数日後、その若者を匿っているという人物を見つけたのだと情報屋から連絡があり、ジャクリーヌはその人物を訪ねるのだった。
王都キルマーの煌びやかな大通りとは程遠い貧民街の一画に、お世辞にも普通とは言えないほったて小屋の前にジャクリーヌは立ち、中の住人に向かって声をかけた。
「すみません。誰かいらっしゃいますか?お訊ねしたい事があるのですが。」
「はい、どなたですか?」
中から、初老の女が出てくると訝しげな表情でジャクリーヌを見つめる。
「グラハム君をご存知ありませんか?不審に思われるのも当然かと思いますが、騎士団とは何ら関係はありません。実は以前暴漢に襲われているところを彼に救ってもらいました。それ以来懇意にさせてもらっていたのですが、近頃連絡できなくなってしまいました。そんな時に彼が今困っていると聞きつけたので何か役に立てればとあちこち探しているのです。」
ジャクリーヌは自分がグラハムの友人であると偽り、さも心配している表情で彼の事を訊ねる。
「そうでしたか、あの子は根が優しくて私らみたいな貧乏人に食べ物やお金を持って来てくれてましたの。でも何か危ない事をしているみたいで心配してたんです。この前も大仕事があると言って出かけたのはいいのだけれど、いつも一緒だった二人はおらず一人でここに来ましたの。」
その女性はグラハムから聞いた話しをジャクリーヌに聞かせるのだった。そこでグラハムはダニーに騙され囮に使われた事、そしてグラハムはダニー達に復讐し、捕まった仲間を助けるつもりでキルマーに潜伏しているのだと知る。しかし彼の姿はすでにそこにはなかったのだ。自分がここに隠れている事がバレると迷惑になると出て行った後だったのだ。
「あの子を助けてやってください、まだ近くにいるはずですから。」
「分かりました。必ず彼を見つけて力になります。」
ジャクリーヌは優しい笑顔を浮かべ、女性に謝礼を渡すと彼女の下を後にした。
「さて、グラハムを探しますか。色々と情報を持っているかな?それとダニーか…、この落とし前はキッチリ払って頂かないといけませんね。」
小雨の降る肌寒い季節、ジャクリーヌは路地裏で一人の少年を見つけると声をかけた。
「君はなぜこんな所に居るんだい?」
ジャクリーヌは優しい笑顔を浮かべ、少年を見つめる。怪訝な顔でこちらを伺う少年
「経緯は知っているよ。アイツらに復讐するんだろ?だったら僕の仲間になりな。」
初めは驚く少年だったが、その顔が覚悟を決めた顔に変わると、ジャクリーヌを正面に見据え立ち上がった。
「自己紹介がまだだったね。僕はジャクリーヌ・ド・レイモンド、レイモンド家の長男。君達が襲った荷車の持ち主だよ。」
「俺は、グラハム。ジーン・グラハムだ。」
二人は再び出会ったのだ。
ジャクリーヌはグラハムを商会の一員として迎え入れ、ダニーのいるシモンズ一味を潰すと約束する。そしてグラハムはゲルマ商会を潰すのを手伝うと約束し、お互いの目的の為に手を組む事になったのだ。
ジャクリーヌはまず、グラハムの身なりを綺麗に整える。レイモンド商会の一員としての立場と貴族に仕える者としての礼儀作法を教え込む為に。
「それじゃあジーン、まずは君の知っている情報を話してくれ。」
シモンズ一味はその数四十人ほどで、ダニーは下っ端のまとめ役をしているのだとか。キルマーの商会を襲っては荷物や金品を奪うのが主な収入源だったが、最近はマゼンダという組織からの依頼で人攫い等も行う様になっていた。しかしマゼンダは謎が多くボスのシモンズ以外はマゼンダという呼び名しか知らないのだった。
「やはり君もマゼンダの事は分からないんだね。騎士団のあの対応もそうだが、関わるのはよした方がいいみたいだが……。」
「まぁいい、今のところ実害があるわけでもなし、まずはシモンズか。」
「マゼンダってのは分からねぇが、ダニーのクソ野郎のアジトは分かってる。」
「相変わらず口が悪いねぇ、気を付けてくれよ。で、こちらの戦力は僕と君だけ、どうする?二人で乗り込んで暴れるかい?」
「そうしてぇとこだが、いくらなんでも無理だろ。なんか良い考えがあるんじゃねぇのか?」
ジャクリーヌはこの時すでに復讐の計画を立てていたのだ。
まずは、ダニーを含むシモンズ一味を壊滅する計画、そしてシモンズ一味に強奪を持ちかけたゲルマ商会を乗っ取る計画を。
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予告なのですが、近々第一部を大幅にリニューアルします。加筆と修正をして再投稿しますのでよかったらまた見て下さいね。




