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王都キルマーへ


 王都へ向かう鳥車の一団が街道を進んでいた。アサヒとサマンサの乗る鳥車一台と、それを警備する為の騎士団の二台が連なり走っていた。王都に向かう街道はシンブへのそれと比べるときちんと整備されており、走るズーの足取りも軽やかであった。

 その道中、アサヒは王都についてサマンサに訊ねるのだった。


「あの、王都ってどれくらいで着くんですか?」


「何もなければ、二日ほどで到着いたしますよ。今朝一番で出発しましたので、途中の町で一泊して翌日の夕方過ぎには王都ですわね。」


「そんなもんなんですね。ちなみにどんな街なんですか?」


 ヴァル・キルマ王国、王都キルマーには現国王ハルバート・フォン・キルマー四世の居城があり、ヴァル・キルマー王国の首都である。国王中心の政治体制ではあるが議会も組織されており立憲君主制国家なのだ。

 議会は上院、下院からなり、上院は貴族から選出、下院はそれ以外からの選出となっており下院の数は上院の倍数ある。その為法案などに民意が比較的反映される仕組みとなっている。また、国王と議会にはお互いに否決権があり、国王と議会の承認を経て議決がされるので絶対君主とはならないのであった。


「とは言え、やはり貴族の影響力はかなり強いのでなかなか私の理想とする平等な自由主義とは言い難いのです。」


「難しいんですね。その現国王はどんな方なんですか?」


「国王ハルバート様は、先代、先先代と同じく民衆よりの方です。キルマー家は初代から民衆主体の政治を心掛けていらっしゃった家系でしたが、それは貴族の総意ではありません。今でこそ議会が出来、下院の発言権も強くなりましたが、完全な民主主義とは程遠いものかと、ですが現国王も初代の教えを受け継いでいらっしゃるようです。」


「やっぱり、力のある貴族がまだまだ権力を持っているって事なんですね。」


「貴族の方々が財力や発言力を持つのは、それらを支える民衆あってこそです。それをきちんと理解されている方もいらっしゃれば、そうでない方もいらっしゃいます。」


「ちなみに、レイモンド卿はどちらなんですか?」


「私の知る限りは、民衆よりの方だと思ってはおりますが、レイモンド家は先代でお家没落寸前までになっておりまして、それを現当主のジャクリーヌ様が持ち直したという経緯があります。」


「それじゃあ事業経営の才能があったって事ですよね。」


「その通りです。貿易業をおやりになって一代で復活されたのですから、それはそれはやり手だったのでしょうが、やはり目立ってしまったのでしょう。周りの貴族からはかなり疎まれておりました。」


「それでも、今も貿易がメイン事業なんですよね?」


「そうです。ただ、偶然なのかレイモンド卿が事業を始めてしばらくすると、何故かライバルだった貴族や豪商が、不幸な事故や盗賊に襲われるといった事が立て続けに起こる様になったのです。レイモンド卿も事業をまだ今ほど大々的にやっておられなかった頃に盗賊に襲われた事があって、それ以来特に気を付けてはいたそうです。」


「レイモンド卿は警備を固めて、他の貴族や商人は警備が甘くて被害が大きくなったと、とはいえ、出来過ぎな話しじゃないかって事ですよね。」


「事の真相は分かりません。時流がレイモンド卿に良い風に働いただけかもしれませんが、タイミングが良すぎると申しましょうか、上手くいきすぎではないかと当時は噂になりましたが、追及した者も行方知れずになったとか……。」


「真相は藪の中って事ですか。」


「証拠は何一つありませんし、とは言え今フィルモアと一番に繋がりのあるのはレイモンド卿と言えます。ですので、かの方を頼るのは最好手でしょうね。」


「ですね。まぁフィルモアに行くのが俺たちの目的ですし、レイモンド卿の邪魔になる様な事もないはずですから危ない目に遭うなんてのはないですよね。」


「そのはずです。今回のお話しも商売の名目ですのでアサヒさん達の目的は伏せておいて問題はありませんし、大丈夫かと思われます。」


 鳥車に揺られながら、そんな会話をしているとアサヒは何故サマンサらがこれほど自分達に協力してくれるのか、と思うのだった。


「あの今更なんですけど、なんで俺達にいろいろとしていただけるんですか?」


「え?困っていらっしゃる方がいたら、手を差し伸べるのは当たり前ではありませんか?アサヒさんも魔族が街を襲ってきた時に勇敢に立ち向かってくれたじゃありませんか。」


「それは、俺の目の前で何かあった時に、自分がやれるのに、やらずに背を向けるってのが出来ないってだけですよ。騎士団の方達みたいに責任感があるとかでもないですし、とは言え、見過ごすのは好きじゃないっていう感じですね。」


「我々の信仰も同じですよ。それぞれは繋がっていて、お互いに支え合って存在していると、過去の歴史は同じ種族の人間同士の争いから世界は滅亡寸前に至ってしまったと教えられています。ですので、お互いに手を取り合い暮らしていこうというのがクライス聖教会の根幹にありますから。」


 クライス聖教会とは、この世界で唯一ある宗教で、フィルモア王国内にある聖皇国クライスを総本山としたものである。

 聖教皇なる人物を中心とした宗教国家で、その信奉者からなる組織が国家運営をしていた。

 元老院と呼ばれるフィルモアを代表とする各国の要人ら数名が実質の最上位組織としてあり、現在の世界の秩序の基盤を作ったのである。そんな中で過去の遺物の管理等を聖皇国クライスが行っているのだ。

 そして、魔族に対抗する為の組織として聖教騎士団があり、その下部組織が各国にある騎士団であった。そして彼らは魔族や、彼らが作った秩序を乱す者達の監視、討伐を行っていた。


「聖教会は、この世界の人がみんなが信仰してるんですよね?」


「はい、もちろんです。皆教会の教えに沿って日々生活しております。そして初代教皇様は今もご存命でいらっしゃると言われており現人神として崇められております。ただその御姿を拝見する事はできませんけれど。」


「聖教会の歴史って何百年ってあるんですよね?そんな生き続けてるなんて人間じゃなくないですか?」


「ええ、ですから神様であると信じております。まぁ、真偽の方は確認のしようがありませんけどもね。」


「なるほど、それは信仰の問題って事ですか。」


「はい、その通りです。教えの本質を理解する事、何故それを守らなければならないかを知り、そして何をすべきかを考える事こそ私達が果たすべき責任だと思うのです。ただ、教会の教えを守る為に作られた組織は年月を経て変貌していったのでしょう。教えを守る事のみが正義で、その真の意味を分かろうともせず。」


「どうゆう事です?」


「私達は王や貴族、そして民と区別されております。ですが聖教会の教えは、人は皆平等でお互いに繋がり支え合って生きている。と、そして、過去の過ちや神話を教訓として生きよ。と、ですが、民を守る為の貴族は私腹を肥やし、そして今の教会は教えを曲解し、それを守る事のみが正義であるとして、それ以外を悪とみなしております。ですが、人はもともと自由であるべきだと思うのです。教えの真の意味は、日々変わりゆくなかで人として道を外さぬ様に生きなさい。だと私は理解しております。そしてそれを政治として体現するのが私の役目だと信じているのです。」

「ごめんさい。話しが逸れてしまいましたね。とにかく私はアサヒさん達を信じております。そして共に生きる仲間だとも思っておりますから手を差し伸べる事になんら疑問も持ちませんよ。」


「ありがとうございます。いつか恩返しさせてもらいます。」


「それには及びませんよ。私はもうアサヒさん達から色々としていただいておりますから。」


「はい?」


「シンブとの配送の件や復興祭、そしてクバルの名産品になるチョコレート、私共では思い付かなかった事や物をたくさん教えて頂きましたから、恩返しするのはこちらの方です。」


「お役に立ってるんですかね?」


「はい、充分に。」


 そして一日目の旅は、キルマーへの街道途中の宿場町に到着して終わるのだった。


閲覧ありがとうございます。


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