甘い誘惑(アコ編)
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《私の名前はアコ、ヴァル・キルマ王国中部にある中継都市クバルで働きながら自警団をやっている。最近はアイドルという歌って踊る仕事もやる様になった年頃の女の子です。そしてこの話しは私にとって教訓となる出来事でした。それは貴女にとってもそうかもしれません……。》
「ねぇ何作ってくれるの?」
「まずはチョコレートからだな。」
その日、私はアサヒとゴメスの三人で市場に行き、献上品のお菓子を作る為に材料を買いました。たくさんの材料を買い込みゴメスの店に戻った私達は、材料を前に何を作ろうかと頭を悩ませていたのです。ただ一人私はまだ見ぬ新しいお菓子に胸躍らせていました。
それがこの様な結末を迎えるとも知らずに……。
「先ずはコクアの粉だな…、ゴメスさんこれってどうやって作られてるんです?」
アサヒがゴメスにコクアと呼ばれる粉について聞くと、そこに砂糖や油を足し、鍋で温めてだした。私達が飲み物としてコクアを飲むときは砂糖とミルクを足して温めて飲むのだが、アサヒはミルクを入れず、代わりに少しづつ油を足していった。
しばらくして、出来上がったとろみのついたコクアを水で冷やしながら混ぜていくアサヒ。そして冷えたそれを冷蔵庫に入れるのだった。
「え?それだけなの。」
「うん、これで上手くいけばいいんだけどね。」
アサヒいわく、配合が合っていればこれでチョコレートが出来るのだとか、私は半信半疑でした。
「ねぇ、ケーキは?」
「分かってるって、今から用意するよ。だけど、すぐには出来ないから待っててもつまらないぞ。」
「ふ〜ん、それじゃあ明日また来るよ。」
私は、翌日また訪れる事にしました。
その日仕事が休みだった私は、騎士団のマルコを訪ねいつもの稽古をし、一日を終えた私はベッドの中で明日を楽しみに眠りについたのでした。
翌日、いつもの様に午前の仕事を終え昼食がてら、ゴメスを訪ねる私
「こんにちはー、ゴメスさんいるー?」
店を訪れた私に、ゴメスはこう言いました。
「おう、なんかいくつか出来たみたいだけど夜来てくれってよ。アサヒが」
「ふーん、分かった。んじゃまた来るよ。ミゲルも誘っていいかな?」
「色々用意してたからいいんじゃないか?」
そして私は、午後の仕事に向かいました。
夜、夕食を食べミゲルと共にゴメスの店に向かいながら、こんな会話をしたのを覚えています。
「どんなお菓子が出来たのかな〜。楽しみ〜。」
「俺甘いの苦手なんだよな、酒のつまみになるようなもんはねぇかな。」
「そんなのないよ、今回は私との約束もあるんだから。」
ただただ期待に胸を膨らませていました。
しかし、これが始まりだったのです……。
「おー、いらっしゃい。ばっちり用意できてるぞ。」
店には、お客さんとチェン運送のニコルさんとピーター、そしてネェルがいました。
アサヒは厨房で、手伝いをしながら私を待っていたのです。
「さて、まずは普通にフルーツのショートケーキからだな。」
アサヒはそう言うと、皿を持って来たのです。
「何これーっ!」
「これはショートケーキっていうヤツだよ。スポンジにクリーム付けて食べるお菓子あるでしょ。そいつに似てるかな。」
「食べるー!!」
それは甘い香りと艶やかな白いクリームの上に色とりどりのフルーツを乗せた魅惑の食べ物だったのです。
私は、花に吸い寄せられる蝶やミツバチの様にそれを口に運ぶ事しか考える事が出来ませんでした。
「はむっ」
口いっぱいに広がる甘いクリーム、ふわふわでしっとりとしたスポンジは卵の旨みと柔らかい食感で、噛むととろける様に無くなっていく儚さ、そしてフルーツはその酸味と味を程よく主張していました。全てが口の中で一体となり私の喉を通り過ぎて行くのでした。
私は手を止める事が敵わず、あっという間にそれを食べ尽くすのでした。
「どお?」
「お・い・し・い……。」
「そっか、んじゃこれは?」
アサヒはその後も幾つかのケーキを私の前に差し出すのでした。
夢中で食べる事しか出来ない私
「やっぱり上手ですねー。久しぶりにケーキ食べられて幸せー。でもあんまり食べすぎちゃうと太っちゃうから気を付けないとね。」
「上手いっス!」
『アサヒさんはなんでも出来るんだね。』
「けっこう甘いな、俺は少しで充分だなぁ。」
皆が感想を言っていたが、私の耳には何も聞こえてはいませんでした。
「とりあえず、今日はこんなもんかな。明日は別のやつ作るから、またおいで。」
翌日、同じ様にゴメスの店に来た私は、用意されたケーキ達を次々と食べました。一つでは満足できず、同じ物を二つ、三つと平らげたのです。
そして試食は続き夕食後は必ずゴメスの店に行き、私はアサヒさんの作るケーキ達を食べ続けました。
五日が経ち、その日も私はゴメスの店に居ました。しかし、その日私を地獄に突き落とす出来事があるなんて微塵も思いもせずに……。
「今日はケーキはおいといて、これを食べてもらうね。」
皿には一口大の茶色の塊が、丸や四角の形で並べてられていた。
「なんだこれ?」
先に店にいたミゲルが、不思議そうな顔でアサヒさんに訊ねました。
「こいつはチョコレートって言って、クコアを固めたお菓子だよ。中にフルーツのコンフィとか入れたりしてみたんだ。」
「ふ〜ん。」
ミゲルが一つを口に入れる。
「ん?なるほどね。これは甘いけど、苦さもあるしいいねぇ。酒にも合うんじゃないか?」
「だよね。配合に苦労したんだけど上手く出来たと思うんだよね。」
「そうだな、なかなか口溶け感がよくなくてな。けどこれならいいと思うぜ。」
ゴメスもチョコレートをほうばり感想を話していた。
「私にもちょうだいっ!」
口に入れた瞬間から、溶け出したチョコレートは、程よい苦味と渋みをまろやかな甘さが包み、そして芳醇な香りが鼻をぬける。
一口噛むと中から香ばしいナッツのペーストの味が広がり、私の口の中に天国が広がっていきました。
「や・ば・い・・・」
「アコも気にいったみたいだね。」
「アコには大人味じゃねぇのか?てか、アコお前太った?」
口の中の天国を堪能していた私は、何を言われたのか理解できませんでした。
「え?」
「だからー、お前太ったよな。下っ腹ぽっこりしてるぞ。」
「ちょっとミゲルさん、女の子に失礼ですよー。」
ミゲルの口から、恐ろしい単語が発せらた事に気が付いた私は咄嗟に彼に言いました。
「うっせーーーっ!ハゲミゲル!!」
「なんちゅー口の聞き方すんだ!?事実を言っただけだろ!なぁニコル?」
「まぁ…、ちょっと気を付けた方がいいかもね。アコちゃん」
「僕はガリガリより、ぽっちゃりが可愛いくて好きっス。」
「ハ、ハ、ハゲルのアホーーー!くたばれっ!!」
あまりの衝撃に私は店を飛び出したのです。
気がつくと私は自分の部屋に帰っていました。そしてミゲルの言葉が脳裏に焼き付いた私は恐る恐る全身鏡を覗きました。
そこには……
「ギャーッ!!」
皆さんも甘い誘惑にはくれぐれもご注意する事をおすすめします。
閲覧ありがとうございます。
私事で恐縮ですが、体調を崩しまして投稿並びに執筆が出来ず、ご愛読いただいていらっしゃる皆様、大変申し訳ありません。
エターナる事なくきちんと完結させますんで、引き続きお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
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