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人と野獣の可能性


「はっ!?」


 部屋の窓際にあるベッドの脇で、アルは上体を起こす。しかし目覚めてすぐにはここがどこなのか分からず辺りを見渡すのだった。

 しかし自分のすぐ傍で寝息をたてるジャガヌートの存在に気付くと、昨日の出来事が鮮明に甦り、意識が飛びそうになるのを我慢してレンフォの羽根をむしった事を思い出した。


「そうかアンジュの村か。」


 独言ながら、寝息をたてているジャガヌートをなでる。膝下にある自分に掛けられた布を畳み、そっと部屋を出てリビングに行くアル


「おはようございます。俺、あのまま寝ちゃったみたいっスね。」


「夕食に起こそうと思ったんだが、あの子がくっついていたんでな。親だと思っているのかもな。」


「ははっ、だとしたらとんでもない親父だな。アル兄」


「うっせぇ。」


 リビングにはパオロとアルマがすでに起きており、昨日の武器や道具の手入れをしていた。


「親だなんてガラじゃないっスよ。」


「まだ独身か、家族はいいぞ。誰かいい子はいないのかね?」


「まぁ、いるっちゃいるんスけど…、ちなみにパオロさんのご家族は?」


「嫁はもう亡くなったよ。子供達は独立して他の町にいる。たまに帰って来てくれるよ、孫を連れてな。」


「そおなんスね。じゃあ今は一人暮らしなんですか?」


「うむ、だから気兼ねなくしてくれて構わんぞ。そういえば夕食を食べてないから腹が減っておるだろう。せっかく自分で仕留めた獲物だ、食べなさい。」


「そうだよ、アル兄初の獲物だ。レンフォはクバルじゃ高級食材なんだぞ。」


 パオロはレンフォのハーブ焼きを作り、パンとスープと共にアルに振る舞う。


「おーっ!美味そう!!」


「こっちは、あの子の分だ。よく寝て、しっかり食べれば早く回復するだろう。」


 更に、パオロはジャガヌート用にレンフォの肉とパンをミルクで煮た物を用意してくれていた。


「ありがとうございます。アイツと一緒に食べていいですか?」


「あぁ、好きにしたまえ。」


「起こしてきます。」


 アルは、部屋に戻りジャガヌートの頭を撫でながら声をかける。


「おい、メシだぞ。」


 ジャガヌートは目を開けると、アルの股に頭を擦り付け甘える素振りをみせる。


「なんだお前、赤ん坊みたいだな。」


 アルはジャガヌートを抱き抱えると、そのままリビングのパオロとアルマの下に向かった。


「すっかり親だよな。」


「うむ、やはり現実とは思えん光景だな。我が家にジャガヌートを招くとは…。」


「でも、思ってたイメージと違いますね。子供だからかもしれませんけど、ジャガヌートって、もっと獰猛な生き物かなって思ってましたよ。」


「しかし、目の前の光景が間違いない現実だな。」


 パオロはテーブルの下にミルク煮の入った器を置くと、アルはそこにジャガヌートを優しく下す。


「フンッフンッ…。」


 ジャガヌートは、始めに何度か匂いを嗅ぐと恐る恐るミルクを舐めだす。

 食べられる物だと確信をすると凄い勢いで、パオロのミルク煮を食べ尽くしてしまうのだった。


「お前、元気になってよかったな。てか、腹へってたんだな。俺も初獲物食べるぜっ!」


 空になった器を舐め続けるジャガヌートの横でアルもパオロの料理を食べる。


「うおっ!レンフォ美味いっスね!!」


 レンフォのモモ肉は、ナイフを差し込む度に肉汁が滴るほどジューシーで身と皮の間の脂も臭みがなく甘い旨味でいっぱいだった。

 初めての獲物という感慨も加わり、この時のレンフォのハーブ焼きはアルの生涯忘れる事の無い特別な味になったのだった。

 

 足元のジャガヌートは、器のミルク煮だけでは足りないと、横で椅子に座るアルに前脚をかけ、アルの食事にも興味を示すのだった。


「こらこら、行儀の悪い子だな。おかわりはまだあるぞ。」


 パオロは、床の器におかわりのミルク煮を注ぐ。ジャガヌートは器に顔をつっこみ夢中で食べる。艶やかな黒い毛並みの顔、口元に白いミルクをいっばいに付けてガツガツと食べ進める。ときおり舌ベラで口の周りを舐める仕草は獰猛さのカケラもなかった。


「ヤバいっ!ジャガヌート可愛いーー!!」


 その光景を見るアルマが絶叫するのだった……。



 その日の夕方、三人と一匹はフェイロンに向かう西の森の入り口付近にいた。

 昨日の約束通りジャガヌートの面倒をみる為にテントを張り、アルとジャガヌートはここで過ごすのだ。

 護身用にショートソードと盾、そしてガンツォからもらった両手持ちのロングソードもテントに忍ばせていた。

 日が落ち辺りが暗闇に包まれていく。三人は焚き火をつけ、夕食を食べる。


「街道作りの下見のつもりが、おかしな事になったよね。」


「悪かったな。でもやる事はちゃんとやったし、コイツが元気になれば森に返すんだしよ。なんの問題もねえだろ?」


「確かにね、今日案内してもらったルートなら少しの伐採で、広くはないけど道にはなるからな。街道作りは順調に出来そうだな。」


 秋が近づき夜は少し冷える中、焚き火を囲むアルとアルマの間にジャガヌートは横たわっている。傷の手当から一日しか経ってはいないが、すっかり元気になってきていた。

 そんなジャガヌートを撫でながらアルマとアルが話している。


「それにしても、ジャガヌートがこれほど人に懐くとはな……、この子とアル君だけなのかも知れんが、なぜか、君たちを見てると人と野獣の新たな可能性を感じてしまうな。しかもこの子は私達も仲間と認識している様だし、知能は非常に高そうではあるな。」


「そおなんスね。お前頭いいんだな。」


 パオロは夕食の肉をジャガヌートに食べさせながら驚きを口にする。そして穏やかな時間が過ぎていく。

 夕食を済ませ、片付けを終えたパオロは村に帰る支度をするのだった。


「何かあれば、すぐに村に戻るんだぞ。それといくら懐いたとはいえジャガヌートだという事を忘れてはいかんぞ。まぁ、この子に限って、万一も無さそうだがな。ふふっ」


 帰り支度のパオロとアルマの足元にじゃれつくジャガヌート、とても危険がある様には思えず、つい口元が緩むのだった。


「俺もここで寝よっかな。」


 アルマもすっかりジャガヌートを気に入り、すでに恐い存在ではなく可愛いという認識に変わっていたのだ。


「まぁ良かろう、森も近いし一人より二人の方が私も安心だ。」


「念の為装備も持って来てるから何かあっても、逃げるくらいはできますよ。」


 パオロは村に帰り、アルとアルマそしてジャガヌートはテントでの一夜を過ごす事となった。

 


閲覧ありがとうございます。


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