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懐柔


 アル達三人は、ジャガヌートとレンフォとの遭遇でレンフォとの戦闘になった。そして八匹いたレンフォを残り二匹まで倒すと、レンフォは逃げて行くのだった。

 アル達は見事にレンフォの群れを撃退したのだ。


「はぁはぁ、見たかっ俺様の実力を!!」


「いやいや、パオロさんが三匹で俺が二匹、アル兄は最初の一匹だけだし。」


「ハッハッハ、まぁそう言うな。初めてとは感じぬ思い切りの良さだったぞ、見事だ。」


「ショートソードでよかったな、アル兄」


「やっぱガンツォさんの見立ては正解だな。あんなに素早いヤツに、デカい剣なんか当てらんねぇわ。」


 レンフォを撃退した三人は一息つく。アルはその場にしゃがみ込み、手に持つショートソードを眺め、戦士として初の戦闘の余韻と、それを勝利で飾れた事の喜びを噛みしめていた。

 

「あっ!アイツは大丈夫なのかっ?」


 しゃがみ込んでいたアルは、何かを思い出した様に立ち上がり、ジャガヌートを探す。

 全身に切り傷や擦り傷を付けられ、そこからは未だに血が滴るジャガヌートの幼体は、傷だらけの身体を横たえ木の根元にうずくまっていた。

 アルはジャガヌートに駆け寄り、傍に座り込むと、その幼体の頭を優しく撫でるのだった。


「おーい、まだ生きてるよな?とはいえ傷だらけだなぁ。」

「おいっアルマ!薬と包帯持ってきてくれっ!!」


「はぁ?何するつもりだよ。アル兄」


「んなもん決まってんだろ、コイツの手当すんだよ。」


「アル君、よく考えろよ。レンフォはコイツを狙ってたんだ。今回はたまたま我々の前に現れたから助ける形にはなったが、森の中ではこれが日常だ。今手当をしてもすぐに動ける様にはならんし、多分レンフォはまたコイツを狙うだろう。結局は同じ事が起きるのだぞ。」


「だからって、ほっとけないっスよ。」


「だからぁ、今手当しても助からないって、パオロさんは言ってんだよ。アル兄の気持ちは分かるけどさぁ…」


「……よし、連れて帰る!」


「はい!?」


「元気になったら、森に返せばいいんだろ?それまでは俺が面倒みるぜっ!」


「それは危険だな。このジャガヌートの幼体はまだ幼い、本来ならば雌親と一緒にいるはずだ。多分はぐれてこの森に入って来たところでレンフォに狙われたんだろう。もしかすると親が探している可能性だってある。それに、ジャガヌートが人に懐くなんて話しは聞いた事がないぞ。」


「そおだぞアル兄、危ないからやめといた方がいいって。」


「いや、怪我が治るまでは見てやります。村に危険が及ばない様に森ん中にテント張って、面倒みれば問題はないんスよね?」


「…う〜ん、それであれば村への危険は最小限にはなるが、アル君の危険は変わらんぞ。」


「俺の事は大丈夫っスよ。村が危険にさらされなけりゃあ問題ないっスよね?したら連れてってもいいっスよねっ、ねっ!?」


「それならば問題はないが…、う〜む、アル君がそこまで言うのであれば仕方ない。しかし条件がある。村はそれでよいが、やはりアル君の身が心配だ。何かあった時はそのジャガヌートを盾にしてでも逃げてくれ。この仕事を受けた以上、君達に何かあれば私の信用に関わる。それと、アル君だけには任す事は出来ない。私とアルマ君のどちらかと必ず二人でジャガヌートの世話をしよう。この条件を飲めないのであれば連れてはいかん。」


「ありがとうございますっ!よろしくお願いします。」


「まじかよ……。」


 パオロに深々と頭をさげるアル、それを困り顔で見つめため息をつくアルマだった。


 アルは二人をなんとか説き伏せる事に成功し、ジャガヌートを連れ帰る了承を得たのだ。パオロとアルマは、アルの情熱と勢いに圧される形でジャガヌートの件を容認したが、やはり懸念は残るのだった。


「よし、まずはジャガヌートの手当だな。アルマ君用意を頼む。」


「はぁ…。」


 パオロとアルマは手際良くジャガヌートの傷の治療をする。その間アルは優しく頭を撫で続ける。


「少し滲みるから暴れるかもしれん。アル君押さえていてくれ。」


「はい。」


 パオロに促され頭を撫でながら、身体を抱え込むアル。傷に薬を塗りつけると、痛みがあったようでジャガヌートはアルの腕に噛み付くのだった。


「いってぇな。大丈夫だから大人しくしろって。」


 噛まれた腕を振り払おうともせず、優しく頭を撫で続けるアルに、ジャガヌートも口を腕から離し、噛んだ腕を舐める。

 ジャガヌートもこの見たことの無い三匹の生物が自分に危害を加えるつもりがない事を悟り、大人しく治療を受けるだった。


「よし、とりあえずは完了だ。傷は多いが命に別状はないだろう。骨折も無さそうだししばらく大人しくしておれば回復するだろう。」

「さて、アル君も腕を見せなさい。」


 ジャガヌートの治療を終えたパオロはアルが噛まれた腕を水で洗い流し薬を付ける。


「くぁ〜、滲みるっスね〜。」


「我慢しろよ、アル兄。ジャガヌートだって

我慢しただろ。」


「んだよ、もっと優しくしろよ。」

 

「ハッハッハ。痛いものは痛い。仕方なかろう。で、今からはどうするのだ?目的地までは後少しではあるし、ここから先で特に注意すべき箇所はないが、案内はここまででよしとして引き返すか?」


「そおっスね。ここから先の地理はある程度把握できてますんで、もう充分っス。なんか色々ありがとうございました。」


「よし、では支度をして帰るとするか。」


 残す道のりは後少しとなり、パオロからの提案もあった事で、三人は村に引き返す事を決めるのだった。

 アルは治療の終わったジャガヌートの横に並んで座ると、うずくまるジャガヌートの頭を撫でる。


「無事でよかったなお前、しばらくは俺が面倒みてやるからな。」

 

 アルは包帯を巻かれたジャガヌートの胴体に優しく手を当てる。早く治れと願いを込めた手の平の温かさが伝わったのか、ジャガヌートは身体を起こし、アルの膝元に身を寄せる。それはまるで親の懐に安心して収まる赤子の様であった。


閲覧ありがとうございます。



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