西の森
役場の首長室では、サマンサとJが技術者をクバル近郊に呼ぶ為の計画が練られていた。
「それでは、まずは工房の用意ですわね。責任者にはJさんになってもらうという事でよろしいでしょうか?」
「そうですね。のちのちは他の方にやって頂く事になりそうですが、ひとまずという事で、場所はクバル北西の街道沿いにしましょう。その裏手からフェイロンまでの道を整備させて頂きます。」
「お船の大体の位置はどちらですの?」
サマンサはクバル周辺の地図を持ち出し、机に広げる。
「この場所ですかね。」
「なるほど、西側の森は未開の土地ですので、船までの街道作りには護衛を付けたほうがよろしいかと思います。それと工房はアンジュという村の近郊がよろしいかと、その村はクバルと西の森をつなぐ街道の中間地点としてちょうどよいと思われます。」
地図上には、クバル、アンジュ、西の森等が記されており、クバルからシンブに向かう街道の途中で分岐した道の先にはアンジュの村がある。そしてその先には西の森が広がり、その中にフェイロンは眠っているのだ。
「たしかに、アンジュ経由が都合は良さそうですね。ちなみにフェイロンまでの街道作りはあまり知られたくはないのでガンツォ一家にお願いしようと思うのですがいかがですか?」
「よろしいと思います。彼等であれば自警団と同じか、それ以上の武力はありますでしょうから問題ないかと。諸々の予算については街のほうである程度ご用意できると思います。」
建前ではクバルやその近郊の村で使用されている魔道具等の修理とはいえ、実際にその様な施設が街の近郊に出来るのは、住民からすれば非常に便利になり、復興計画と、その前からあった再開発計画の内容に沿うものでもあり、そういった事情から今回の話しはJが思っていた以上にすんなりとまとまったのだ。
サマンサからすれば、臨時とはいえJが責任者として工房を仕切ってもらえる事は、渡りに舟といったところだったのだ。しかも後継者の心当たりまであるとなれば、J達の目標達成後の施設の存続も心配しなくて済む為、多少費用がかさんだとしても、なんら不都合はないのだった。
「あくまで街の発展の為という体ですが、我々の問題ですので、なるべくは自分達でやらせて頂きます。幸い仕事の人員も増えましたし、管理さえできれば運送も問題ありませんし。」
「いえいえ、遠慮はご無用ですよ。元々は街の再開発計画の要項に魔道具の流通と修理に関しても盛り込んでありました。それが魔族襲来の所為で街の外部の開発が滞っておりましたし、Jさんがジョセフ所長という事で責任者になっていただければこちらの計画も迅速に進められますわ。」
「所長ですか、責任重大ですね。しかしこちらのお願いを聞いていただくのですから、その役目、責任を持ってきちんと努めあげましょう。」
「お船の件、また何かありましたらおっしゃってください。」
「はい、ありがとうございます。それでは早速ハーレーに向かいたいので、カルロスさんやヨシムラさんへの書状をお願いします。」
「お任せ下さい。書面をしたためますのでお持ちになって下さい。」
「ありがとうございます。工房等詳しい図面は私で用意しますので数日お待ち下さい。」
一通りの打ち合わせが終わり、Jは役場を後にした。
「さて、まずは計画書ですね、先にやれる事はさっさとアル達にやってもらいましょうか。」
その頃、アルとアルマはガンツォの屋敷で話しをしていた。
「話しは分かった。んで具体的にどおしたいんだ?」
「まだ決まってないんスよ。」
「なんだよ、そりゃ?」
「とにかく、まずは船までの道を作るんだろ?アル兄よ。」
「そおだな〜。」
「おい兄ちゃん、船の場所はどこなんだ?」
「街から北西の森ん中っスよ。」
「未開の森か…、ちぃと厄介だなぁ」
「そおなんですよ頭、野獣の縄張りなんですよね。」
「野獣って、ジャガヌートでしたっけ?あとバブーンって猿とか。」
「そいつらは北の森に多くてな、未開の森には、レンフォってのがいるんだ。いつもメシに出てくるレンゴの野生種なんだがな、凶暴な上に群れてやがる。」
「何が厄介って群れのボスが結構な大きさになるんだよ。」
レンフォとは家畜として飼育されているレンゴの野生種で、レンゴは体長60cm程度に対して、通常サイズのもので1m程度のサイズである。しかも群れのボスになると更に大きくなり通常サイズの一回り以上も成長するのだ。
「噂じゃあ、ズーくらいのデカさのヤツが居るらしくてな、西にある村の連中は森の主で、白いなんとかって呼んでるみてぇだ。」
「マジっスか!?ズーだって初めて見たときは怖かったし。しかも凶暴って…」
「ズーは人懐っこくて大人しいし、割と可愛い見た目だけど、レンフォはなぁ…」
「アイツらの縄張りはデカいからな、しかも知恵がねぇから面倒なんだよ。」
「気性が荒くて、一匹でも構わず攻撃してくるし、首を落とさねぇと暴れ回るんだぜ。」
「アル兄そんな森から来たんだな。襲われなくて運が良かったな。」
「ジャガヌートでも幼体だったり、怪我して弱ってると餌食だからな。」
「マジか…、んなとこに街道を作れるのかよ?」
「まぁ、身体は羽と脂肪で斬りづらいが、首が細いからそこを狙うってのと、夜は目が見えないってのがあるから対処の仕方はあるんだがな。」
「んじゃ、移動は夜にすりゃあなんとかなるか。」
「まぁ、街道を作るならそれなりに戦える準備はしねぇと、うちの奴らならおあつらえ向きだわな。まぁその件はまかしときな。」
街道作りに協力をしてもらえる事になり、アルは自分用の武器の相談をする。
「それはそうと、俺たち魔族の襲撃以来ずっと鍛錬してたんスけど、そろそろ俺用になんか武器が欲しいんスよ。なんかいいのないっスかね?ガンツォさん」
「武器ねぇ…、とりあえず兄ちゃんの実力がどんなもんか見せてみろよ。」
ひとまず街道作りの話しを終え、アルとアルマ、そしてガンツォはアルの武器選びをするのだった。
ガンツォ曰く、それぞれに合った武器を選ぶ為に、どんな戦い方をするのかを見たいという事で、アルとアルマで模擬戦をする事になったのだ。
三人は庭に出ると、何種類かの武器の前に眺めながら話しをする。アルはあれこれ持ってはその重さを確かめる様に剣を振っていた。
「しばらく一緒に鍛錬してたんだろ?基本は分かるよな。」
「はい、覚えはいいんで問題はないはずです。」
「それなりにやる自信はありますよっ!」
やはり男の子である、武器を目の前にしてテンションが高くなるアルなのだ。
「このでっかいの格好いいねぇ。どかんとぶった斬れそうだぜっ!」
「そいつは両手持ちの長物だ。兄ちゃんじゃあ、まだ無理だろうな。」
「そおなんスね…。」
「これとかアルマと同じ感じでいいんじゃないっスか?すんげぇ軽いし。」
「そいつはレイピアつって、切るんじゃなくて突き刺すのが得意な武器だ。アルマは器用でスピードがあるから使えるが、扱いが難しいから兄ちゃんにゃあ向かねぇな。」
「そおなんスか…。」
「俺って結構すげぇんだぜ。」
「調子に乗るな。」
「すんません…」
「まぁ、種類は一通り揃ってるから、まずは普通にこの片手剣でやってみな。」
「こいつは今まで使ってたやつだから、余裕っスよ!」
片手剣を持ちブンブン振り回すアル
「ほぉ、軽々持てるんだな。見た目通り力はそれなりにあんだな。」
アルは片手剣、アルマはレイピアを持ち、それぞれ身体に防具を纏い、実戦さながらに攻撃を当てても大丈夫な様に準備をする。
「んじゃ、やってみるか?準備はいいな?」
「うっす!」
「はいっ!」
「よーし、構えて……、始めっ!」
お互いに剣を抜き、間合いを計りながら、じりじりと動く。アルマが一気に距離を詰めレイピアの鋭い突きを放つ、アルはそれを余裕で躱すと、アルマの懐に入り胴にタックルを仕掛ける。しかしアルマは、それを想定した様に横に避ける。アルは突っ込んだ勢いのまま、片手を地面に着いてしまう。そこへ、一歩下がって踏み込みの力をつけたアルマの突きが襲いかかる。アルもその攻撃を予想していたかの様に、手を着いた姿勢から前方に転がり、攻撃を躱した。
アルは前転した勢いのまま素早く立ち上がり振り向く、そしてアルマもアルに向け剣を構え直す。お互い正面に向き合い、一旦距離を置いて構え直すのだった。
「なかなかいい動きするねぇ、アル兄」
「当たり前だぜ、アルマの速さは分かってんだよ。」
お互いの特徴を理解しあい、軽い笑みを浮かべる二人
「ふ〜ん、兄ちゃんかなり動けるなぁ。それに力もあるみたいだ。」
「よし、今度は俺が相手してやる。好きなの選べ。っと、その前にアルマから来い。久しぶりに相手してやるよ。」
「ありがとうございますっ!!」
二人の模擬戦を見たガンツォも漢の血が騒いだのか、一緒に闘うと言い出すのだった。
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