真実の告白
ニコルとアルマが酔い潰れたアルをベッドに寝かしていた頃、食堂にはアサヒ、J、ゴメス、サマンサ、ミゲル、そしてガンツォが残り、後の者達は帰途についていた。
「そおいやぁ、アサヒ達がここに来てもう四カ月か。色々あったからあっという間だったよな。」
「それでどうなんだ?本題の方は、」
「ええ、正直まだ何もできてないってのが現状ですね…」
「もともとお国の用事でとおっしゃってましたが、そちらはよろしいのですか?」
「まぁ、それは……」
サマンサの問いに口籠もるアサヒ
「まぁ言いにくい事もあるだろうから、無理に言う必要はないんだぜ。なぁサマンサ?」
「はい、少し気掛かりなだけで、変な詮索をするつもりはございませんよ。」
「いえいえ、お気遣いして頂いて申し訳ないくらいです。全然そういう事じゃないんですよ。」
ゴメスという男は機微に聡く、アサヒ達は今まで幾度となく助けられている。それはサマンサにしても同じで、彼等が困っていれば手を差し伸べてくれていた。そんな彼らに本当の事が言えないでいる現状を心苦しく感じているアサヒなのだ。
「なぁ、お前達ってシンワから来たんだろ?今って色々大変なんじゃないのか?」
そんな気配を知ってか知らずか、ガンツォは、今噂されているシンワの魔族討伐の事を聞いてきたのだった。
「ん?色々って…」
「余計なお世話かも知れませんが、シンワのお世継ぎの第一王子が行方知らずとか、もしかしてその件じゃございませんの?」
「いやぁ……」
「お困りのご様子、大変申し訳ございませんでした。本当に余計なお世話でしたね。ただ、私どもが少しでもお力添えになれればと思っただけですから、何かございましたらご遠慮なさらずにおっしゃって下さいね。」
彼女らの気持ちが痛いほど有り難く、胸の辺りまで来ている真実を打ち明けたい衝動がアサヒの心を強く軋ませる。
「…アサヒさん、本当の事を話してもいいと思いますよ。」
Jが言い淀むアサヒに促すと、その言葉は彼の衝動を後押しする。
「あの……実は、俺達はシンワじゃなくて、宇宙から来たんです。」
「うちゅう?」
「うちゅうって言う国か?」
「国じゃなくて、空のもっと上です。」
「え?」
「空の上って、神々が暮らしてたって言うアレか?」
「ちょっとアサヒさん!何を話してるんですかっ!?」
ニコルが慌てて会話に入ってきた。
「えっ?ニコルって神さまなの?」
アルマが間の抜けた事を呟く。彼らはアサヒが真実を打ち明けたまさにその時に食堂に戻って来たのだ。
「馬鹿な事言ってんじゃねぇぞアルマ、ちゃんと話しを聞け。」
「ニコルもちょっと落ち着いてさ。皆んな落ち着いて聞いてもらいたいんだけど…」
アサヒはその場にいる者達に自分達の事を話しだす。
「まずは、ゴメスさん、サマンサさん、ミゲル、皆に謝らないといけないんだ。俺達はクバルに来て皆にウソをついてました。さっきも話したけど、シンワからではなく宇宙、そらの上にあるコロニーと呼ばれる島からやってきたんだ。」
アサヒはまず自分達がどこから来て、そしてなぜこの星に辿り着いたのかを説明する。
そして先程Jから説明されたマルチバース、異世界の事も話すのだった。
「……にわかには信じ難いですわね。」
真剣な顔つきで、考え込むサマンサ
「おっしゃる通りだと思います。」
「そおか、アサヒ達はここがその【ちきゅう】だと思ってたのか…、だから初めて来たときにあんな反応をしたって事なんだな。」
ゴメスは初めて宿に来た時のアサヒ達を思い出していた。
「はい、俺達もここが俺達の知ってる地球だと思ったんです。」
「だが似てるけど、色々と違ってたって事だよな?」
「ヴァル・キルマをアメリカとおっしゃっておりましたものね。」
「俺達も混乱したのは確かなんです。なぜこんなにも地球に似た世界に来てしまったのか、未だに理解出来てませんし。」
「そして、得体の知れないこの世界ですから身分を偽り、とりあえずの情報を集める事にしたと、いうわけですね。」
サマンサも分からないなりに、アサヒの話しを整理する。
「いやいや、まぁそこは分かるけど、その【うちゅう】ってとこは神話や古い言い伝えの事だろ?そんなとこが本当にあるなんて…、だってオレなんかヴァル・キルマから出た事ないし、世界がそんなに広いなんて信じらんないぜ。」
「いきなりこんな話をしても信じてもらえないよな。でも本当の事なんだよ。」
「んで、その【うちゅう】で戦争に巻き込まれて、そんときのとんでもねぇ兵器の所為でここに飛ばされて来たってわけだ。」
「うん……」
「皆さん私からよろしいですか?」
Jが話しだす。
「色々と聞きたい事がお有りだと思います。ただ、まずご理解頂きたいのは、我々にはあなた方に対して敵意はまったくありません。」
「んな事は分かってるよ。」
「もちろん存じております。」
「そりゃそおだろ。」
ゴメスもサマンサも、クバルにおけるアサヒ達の行動をよく理解していた為、Jの話しを素直に受け止める事ができた。
「ありがとうございます。では続けさせて頂きますが、今までの話しの中にもいくつか疑問点があるとは思いますが、一旦それは置いておくとして、我々の目的についてお話しさせてもらいます。当然なのですが、目的は故郷へ帰る事です。」
「当たり前だよな。」
「そしてその方法を探す事なのです。話しが戻りますが、もしこの世界が異世界であるならば、こちらとあちらを繋ぐ何かがあるはず、そしてそれは高い確率で我々が来た宇宙にあると思われるのです。」
「はい。」
「または別の可能性としてこの星は我々の地球に非常によく似た別の星の可能性もあります。ですが、今ある判断材料から先程話した異世界の可能性の方が可能性は高い様に思うのです。ただ何にせよ、宇宙に戻る必要があるのですが、残念ながら船が故障しておりまして宇宙に帰る事ができません。」
「そこは今までと同じだよな。だからハーレーに行ったわけだし。」
「そうなんです。ただ残念ながら、こちらの技術では完全な修理は不可能かと。」
「んじゃどおすんだ?」
「先日の復興祭でレイモンド卿が用意した舞台設備などは海を渡った国の物だとか、フィルモアやヴィザンツにはヴァル・キルマより高度な技術があるのではないですか?聖クライス教会の教えがありますからどの程度まで発達しているかは分かりかねますが…」
「確かにおっしゃる通りです。三十年以上前に留学しておりましたが、その時でさえ今のヴァル・キルマより高度な技術が首都にはありました。そしてフィルモアはさらに発展していると聞いております。」
「そんじゃあ、海を渡るしかねぇよな。」
「いやそんな簡単にはいかねぇだろ!それこそ貴族か大商人でもなけりゃあ、船には乗れないし。そもそも理由をどおすんだ?うちゅうに帰る船を直す為に入国しますなんて言えないよな?」
「だから、今このタイミングで真実を告白した。って事だよな、」
「うん、さすがゴメスさんだね。正直俺達は今手詰まりなんですよ。だから信用できる皆さんに手を貸して貰いたいんです。」
アサヒはテーブルに両手をつき、深く頭を下げるのだった。真実の告白と、彼らに協力を求める行為はアサヒ達にとってリスクとなり、サマンサ達を巻き込む事は彼らにも少なからずこの世界における禁忌とされる事への関与となり、露見した際にどの様な罰則があるか分からず、アサヒの心中は申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
「そおですね。…先程遠慮なさらずにと言った手前、お断りはできませんわね。」
困った顔でアサヒに告げるサマンサ
「いや、そんなつもりじゃなかったんですよ。何かすいません…。あの聞いてもらっただけで、協力は無理にとは言いません。今まで騙してて本当にごめんなさい。」
申し訳なさそうな表情で、再び頭を下げるアサヒに向かってサマンサが答える。
「いえこちらこそごめんなさい。つい意地悪な物言いになってしまいました。でもこれでおあいこですね。まだ色々と伺いたい事はございますが、出来る限りお手伝いいたします。」
悪戯な笑顔でアサヒを見るサマンサ
「さすが、サマンサ姉だな。俺も手を貸すぜ。なんだか変わったヤツらだとは思ってたがここまでとはな。面白ぇじゃねぇか!修理なら力仕事もあんだろ?そぉゆう事は俺達にまかしときな!」
今まで黙っていたガンツォがサマンサの答えを聞いて口を開く。
「いや、協力した事がクライスにバレたらどおなるか分からないんだぞ?」
「あん?クライスが怖くてガンツォ一家なんてやってらんねぇんだよ!」
「そっか、ありがとう。ガンツォ」
「とは言え、海を渡るのはそう簡単には無理だぜ。」
「私の方で考えてみますよ。何かしら手は御座いますよ。」
「クライスへの献上品ってのがあるけどなぁ…」
「しょうがねぇなあ、なんだかんだ言ってもアサヒ達には助けられたし、みんなもその気みたいだし、俺も力になるぜ。」
未だ困惑気味のミゲルだったが、サマンサをはじめその場の皆が、アサヒ達の申し出を快く引き受けてくれるのだった。
「…みんな、本当にありがとう。」
三度頭を下げるアサヒ、その胸中は感謝の念でいっぱいになるのだった。
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これにて【第一部 異世界?でも運送屋はじめました!】終了です。次回からは本格的に故郷に帰る為に動き出すチェン運送のメンバーの活躍が始まります。
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