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本祭(我が名はレイモンド)

本祭がスタートします。

見どころはやはりレイモンドですね(笑)

 前夜祭を終え、翌日朝から本祭の準備の為にステージ上には沢山の人が集まっていた。

 その中にはレイモンドと舞台の演者らがいる。そこへサマンサと彼女の部下がやって来た。


「おはようございます。レイモンド卿」


「これはこれはサマンサ殿、朝から見回りとはご苦労様です。どうぞこちらへ、」


 レイモンドに促され、ステージにあがるサマンサと部下


「お気遣いありがとうございます。レイモンド卿もステージの確認でございますか?」


「ええ、如何ですこのステージは?今回はヴィザンツより最新の音響と照明の魔道具を用意致しました、舞台や音楽もよりいっそう盛り上がると思いますよ。」


「何から何まで本当に感謝いたしております、私どもも開催式の舞台が楽しみでございますよ。」


「それはそれは、ご期待に沿える様、私努力致します。それはそぉと昨日お話しした通り私も商売致しますので、後ほどご説明にお時間いただけますか?」


「はい、かしこまりました、後ほどオズワルドと共にお邪魔させて頂きます。」


 レイモンドの商売とは、武器や防具をフィルモア等があるアリア大陸から輸入しヴァル・キルマやタイダラで販売する、いわゆる武器商人なのだ。

 そして今回の祭りで、フィルモアからの大型兵器の実演と、銃火器のお披露目をするというものだった。

 もちろん魔族の襲来があり町の防衛を強化するという騎士団の需要を見込んでいるのだが、今回招待される各町への売り込みも算段していたのだ。

 要するに、クバルの様になりたくなければ早めに町の守備を固めてはどうかというわけで、ただの気の良い貴族ではないということだった。

 事実として、ここ何年か各地で魔族の活動が活発化し、国家及び町では防衛の強化が始まっている。更には魔族との大掛かりな戦闘も噂されてる昨今はレイモンドの様な武器商人は地方国家では特に影響力を持つのだった。


「舞台設営も問題ありませんので、あとは本番を待つのみですよ。ところでサマンサ首長も音楽祭に出演なさるとか、何をおやりになるのですか?」


「はい、私若い頃にヴィザンツに留学をしておりまして、そちらで覚えた芸を披露させて頂こうと思っておりますのよ。」


「そうでしたか、それは楽しみですね。」


「私もレイモンド卿の舞台楽しませて頂きます、それでは後ほど。」


 ステージ近くの出店スペースでは、他と比べ大きな屋台が準備されていた、そこはレイモンドに用意された店なのだが、屋台と言うよりもはや小さな店舗呼べるきちんとしたものだった。まだ品物は並べられてはいないが店の奥には厳重に梱包された木箱と、それの警備に当たっている騎士団が数名いる。


「あれなんだろな?」


「屋台も大きいね、しかも豪華だなぁ。」


 復興祭本祭の開催式は夕方からで、サマンサの挨拶の後、舞台を行い、コンテストの説明ののち本祭が始まるのだ。

 そしてコンテストの屋台と、その他の屋台はエリアが分けられている。

 まだ早い時間ということもあり、参加者もまばらであったが、レイモンドの店は場所とその大きさ、そして豪華さから皆興味を抱いていた。

 そして祭りの開催中この屋台には、各種武器防具が並び、騎士団や自警団、そして各街や自治体が頻繁に訪れる事になり、レイモンドは多くの受注を受ける事になるのだった。

 

 それぞれの期待と思惑をはらみ、いざ本祭の開催時刻は迫っていく。



      ーーーーーーーー


 

 復興祭初日、夕方まだ日は高く辺りに夏の暑さを撒き散らしている。

 間もなく開催時間、中央広場にはたくさんの人々が集まっていた。開始前だが屋台はオープンをし、すでに何人かはアルコールを片手に盛り上がりを見せている。人々の熱気は残暑と会場を更に暑くさせていった。


「おう、アサヒ調子はどおだ?」


 ガンツォがアサヒを訪ねて来た。子供達の救出から約一ヵ月すっかり回復したガンツォは、この祭りの屋台設営関連の準備で大忙しだったのだ。


「あぁおかげで順調だよ。ガンツォも身体どお?」


「俺様にゃあ、あれくらいはどおって事ねぇぜ!」


「よく言うよ、俺達の顔みたら気を失ったくせに。荷車に載せるの大変だったんだぞ。」


「ワッハッハッ!終わった事だ。忘れろ!」


 他の住民同様ガンツォもこの祭りを心待ちにしていたのだ。子供達に少しでも楽しい思いをさせてやりたいと願っていた彼にとって復興祭は恰好の機会で、もちろん自分達のしのぎもあるが、子供が遊べる屋台を何軒が出し無料で遊ばせてやるつもりなのだった。

 そして昨日の前夜祭での予行演習も問題なかったアサヒ達は開催時刻を待つのみなのだ。


 そしてついに司会の自警団代表ブルーノがステージに登る。その手にはマイクが握られている。


「みなさん!お待たせいたしました!!今から復興祭開催セレモニーを始めたいと思います!まずはクバル首長サマンサ女史より挨拶がございます。」

「それでは、サマンサ首長御登壇お願いしまーす!!」


 ステージ脇から照明を浴びながら、美しく着飾ったサマンサがゆっくりと歩を進め、ステージ中央に向かう。スタンドマイクの前に立ち、すでに喧騒に包まれた会場を見渡すとにこやかな顔でその首を垂れた。


「会場にお集まりの皆様、まずは晴れて復興祭本祭の開催式を迎える事が出来ました事を感謝致します。これもひとえにお集まり頂いておりますクバルの皆様の努力の賜物と感動しております。長々しい挨拶はこれくらいに致しまして、これより復興祭を行います。皆様大いに盛り上がって下さいませ!」


 サマンサの挨拶の後、喧騒に包まれていた会場では一際大きな拍手と歓声が沸き起こるのだった。そしてサマンサがステージを後にすると照明が落とされ緞帳は下ろされていく。


「ゴロゴロゴロゴロ……」


 突然の太鼓の重低音と共に、照明の閃光が瞬く。辺りに不穏な空気か流れ出す。ステージの幕の隙間からは白い靄が流れだし、客席まで漂い出した。どよめく客席を他所に司会のブルーノは舞台の紹介を始める。


「これより、今回の復興祭を企画、そしてご援助頂いたジャクリーヌ・ド・レイモンド卿による舞台《クバルの復興》をお届けいたします。皆様ご静粛に観賞お願い申し上げます。」


 鳴り響く稲光りの太鼓の重低音と共に壮大な音楽が静かに始まりそして幕が上がる。


 ステージ正面には、クバル正門を模した装置があり、その前には魔族の衣装に身を包んだ演者達がおどろおどろしく蠢いている。

 正門上部にスポットライトが当たり、一人の男が姿を現した。


「我こそはクバル騎士団団長オズワルド!」

「魔族ども!この町を貴様らの好きにはさせぬぞ!!勇敢なる騎士団、そして自警団よ!我と共に魔族共を蹴散らすぞっ!!」


「オオォォォーー!!」


 照明が正門を照らすと門が開く。勇ましい音楽の中、騎士団と自警団が大きな雄叫びと共に躍り出てくる。


「せぃやー!」


「とりゃー!」


 舞台狭しと、至るところで騎士団や自警団と魔族の戦闘が始まる。その一部はステージを降り、客席の目の前で行われた。

 ぶつかり合う肉体、刻み合う剣戟の金属の音、その迫力に客席も大いに盛り上がっていく。


「魔族が町に入り込んだぞー!!」


 ステージ左手の自警団が叫ぶ。


「一旦引いて、中央広場に誘い込むぞ!!住民を最優先で守れ!命を賭して町を守り抜くぞー!!我に続けー!!」


「オオォォォーー!!」


 オズワルド役のレイモンドの号令で、騎士団と自警団は正門から引いていき、ステージは暗転する、激しい戦闘音と音楽が小さくなり、次第に静寂が訪れる。

 そして大きな爆発音と共に幕が上がると、魔族の親玉らしき者と対峙するオズワルドが現れる。その周りには正門同様、魔族と騎士団、自警団がそれぞれ対峙する形で陣取っている。

 そお、中央広場を模したステージで、両者の戦いの幕が今開かれようとしていた。

 オズワルドはその手に持つ剣を魔族に向けると、声高に告げる。


「貴様を倒し、再びクバルに平和をもたらすのだ!!」


 そして激しい戦闘は再び繰り広げられていく。

 オズワルドを上回る背丈の魔族は、雄叫びを上げると、太く長い腕でオズワルドに襲いかかる。

 攻撃を盾で防ぐも、その膂力に押し込まれていくオズワルド。


「何という剛力!クッ!!」


「がんばれー!」


「負けるな、オズワルドー!!」


 観客席から応援の声が飛ぶ。その声援に合わせ攻防が続く。

 そして舞台を観ていたミゲルが思わず呟く。


「なんかすっげぇ大袈裟だな、レイモンド卿の事はよく知らねーけど目立ちたがりっぽいよな。」


「まぁ貴族なんて、そんなもんじゃないの?」


 アコが冷めた顔で答える。


「自己顕示欲がすごそうだね。」


 そんな会話をしている間にも舞台は進行していく。


「団長!!」


「すまない、お前達!」


 数名の騎士団と自警団が、オズワルドに助太刀に入ると形勢は逆転する。

 オズワルドがトドメの一撃を魔族の親玉に叩き込むと、断末魔の叫びと共に、魔族達は舞台袖に消えていった。


「グギャァァァ……」


「我々の勝利だー!!」


「ウオォォォーーーー!!」


 オズワルドの勝ち鬨に呼応して、騎士団と自警団が雄叫びを上げ勝利を祝う。

 客席も一緒になって悦び盛り上がっていた。

 またもや舞台が暗転し、崩れた正門を住民や騎士団、自警団みんなで修理をする。もちろんその中にオズワルドもいる。


「さぁ、あと一息だ!力を合わせて頑張ろう!」


 和やかな音楽が流れ、トントン、カンカンと修理する音とともに正門が直っていく。

 音が止み完全に修理され、以前より立派になった正門の上には照明を浴びたオズワルドが立っている。正門の前には、住民や騎士団、そして自警団がオズワルドを見上げている。


「さぁ皆聞きたまえ!!我が名はレイモンド!!今ここに!クバルによるクバルの為の復興がなされた事を宣言する!さぁ素晴らしい未来を共に祝おうではないかーーー!!」


「あれまぁ、ついに自分の名前言っちゃったよ、あの人」


 アコが呆れ気味にもらす。しかし客席は大きな熱気に包まれ、いつの間にかレイモンドの名前を呼ぶ声も聞こえていた。そして舞台は幕を閉じる。


 こうして開催式はコンテストの説明をして無事終わり、ついに本祭は始まるのだった


閲覧ありがとうございます。


お気に召したら、ブクマ、評価等お願いします。

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