前夜祭
いよいよ祭りが始まります!!
そして、しばらくコメディー色強めですのであしからず…
あっという間に祭りの当日の朝はやってきた。
チェン運送の面々はというと、まずアサヒのカレーライスはその後、微調整を加え、バリエーションとして、甘口、辛口の二種類をロールアウト、その名も【毛長牛と夏野菜たっぷりスパイスカレーライス】
しかし、カレーライスのお供問題がそこにはあったのだ。
なぜなら、お供と言えば、らっきょうか福神漬なのだが、材料の問題もあり再現はできず、やむなく野菜の酢漬けを添える事で一応の完成に至ったのだ。
その一方でJのアイドルデビュー作戦は最終段階を迎えていた。
振り返る事約一か月半前、ゴメスの店での作戦発表から、今日に至るまでに幾多の困難が彼らにあった事か…
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『アコちゃん一緒にやろうよ、ネェルもがんばるよー。』
「歌うのは嫌いじゃないけどさぁ【あいどる】って何すんの?」
言い出しっぺのJはすでにこの場にはおらず、代わりにピーターが答える。
「アイドルって言うのはですね、みんなに愛される存在っス!」
「いや、説明が雑過ぎだろっ!!」
アルのツッコミ炸裂!
「えっとアイドルはね、可愛い衣装を着て、皆の前で歌って踊るお仕事なの。」
「大体十代の娘がやっててな。一人の娘もいるし、十人以上のグループでやってたり色々とあんだよ。」
アルやニコルも加わり、アコにアイドル説明が始まった。
「歌のバリエーションも色々あるよな。」
「そーっス、基本振り付けは可愛いんスけど、中には激しいのもあるんスよ。」
「ピーターも地味に詳しいな。」
「J先輩に比べたら、まだまだっス。んでさっきJさんが言ってたDガールズは、今チョーゼツ人気のアイドルなんスよ。」
Dガールズとは、三人組アイドルユニットで、元はネット配信専門のVRアイドルだったのがあまりにも人気が出たため、リアル世界でヒューマノイドと女の子の混成型ユニットとして誕生したアイドルグループなのだ。
当然詳しい話しは割愛し、アコへの説明を終えた。
「ふ〜ん、まぁ面白そうだけどさ、私のキャラじゃないって言うか…」
「いやいや、アコちゃんそんな格好じゃなかったら可愛いっスよ。てかアイドル衣装絶対似合うっスよ!!」
「えーなにそれ、あんた私の事そんな風に思ってたわけ?まぁ別にいいけど、あんたがそこまで言うなら、やってもいいけどさ。」
始めは嫌そうな素振りだったアコは、ピーターの発言に気を良くしたのか、そんなに熱心に言うなら、やっても構わないぞというスタンスで了承したのだ。
そしてこの時、ピーター以外のチェン運送のメンバーにアコはツンデレ認定をされる。
店を後にしたJはというと、自室に帰り、手持ちのDガールズのデータを漁り出していた。
「うーむ、オリジナルでいくか。デビュー当時の物にするか…」
彼は衣装に頭を悩ませていた。
「やはり【君に届け♡】を歌うとなれば、この衣装が一番しっくりくるか・・・」
「よし!決めた!!」
あれこれと動画を見ては考え、楽曲を聴いては悩んでいたが、約束の夕方には曲とそれに合わせた衣装も決まったのだ。
「うむ、もうこんな時間でしたか、彼女達に逢いに行かねば!」
夕方約束の時間、ゴメスの店にアコとネェル、そしてJが集まっていた。
「それでは発表します、まずは曲ですが【君に届け♡】そして【まごころをあなたへ】の二曲を歌って頂きます。先ずはこちらを見てもらいましょう。」
Jは用意したタブレット型ディスプレイでDガールズの動画を見せる。
「ちょっと待って!何これ!!なんでこんな中に人が入ってんの!?」
初めて見る動画の映像に驚くアコ、しかしJは冷たく言い放つ。
「私の故郷の技術はすごいんです。」
そして、問答無用と強い口調で次の言葉をたたみ込んだ。
「それより、そんな事はどーでもよいので曲と振り付けをしっかりと見て覚えてください!!」
「あ、はい。」
Jの勢いに押され、それ以上何も言えないアコなのだ。
「てか、まだやるって決めてないし…」
「なんですか(怒)!?」
「はい、ごめんなさい!」
どーやら、アコは押しに弱いよーだ。
ともかく、晴れてクバル初(?)のアイドルは誕生した。
そしてここから怒涛のレッスンが始まる。
練習場所はチェン運送の倉庫で、仕事の終わる夕方から、時に深夜まで行われた。
ネェルは、その高い演算解析処理能力を余すとこなく発揮し、歌そして振り付けをあっという間に完コピする。しかしJはネェルに更なる高みを求めたのだ。
「うむ素晴らしい出来です。だがしかし!!完コピしただけですね。ネェルあなたらしさが全くありませんよ。本物を目指すのならば、あなたらしいパフォーマンスを見つけてください!!」
『はい!師匠!!』
すでに、意味がわからない……
かたやアコは初めて聴く音楽、そして踊りに悪戦苦闘を強いられる事になった。
「違う!もっと明るく!!伸びやかに!!」
「はい!」
「アコやれば出来るんだ!少しづつでいい、一歩一歩着実にアイドルになってるぞ!!」
「アコはドジでノロマなタト(亀的な)だけど、歌と踊りを好きな気持ちは負けません!!」
いや、もう本当にね……
そして、彼らを倉庫の外からそっと見守るカレー好きのぽっちゃりがいる事にJだけは気付いていた。
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「あっという間に復興祭の当日ですね。」
「はい、ステージも出来上がっておりますし、レイモンド卿のおかげです。」
当日昼過ぎ、役場前の中央広場では、会場設営があちらこちらで行われており、役場の目の前には立派なステージが出来上がっていた。
「夕方にはレイモンド卿もいらっしゃると伺っておりますし。打ち合わせも兼ねて夕食にお誘い致しましょう」
「かしこまりました」
今日の前夜祭では、コンテスト参加者とその他出店者の準備と、本祭の説明会を会場で行い、本祭の予行演習も兼ねて関係者のみで執り行われるのだ。
出店者の中にはアサヒとゴメスもいた。
「明日から楽しみだな。」
「そーですよね。カレーライスの人気はどーかなぁ?」
「俺のお墨付きだぜ!優勝だってあながち夢じゃないと思うぞ。」
そして時刻は夕方になる。
「お集まりの皆さま!お待たせしました。」
「私、復興祭準備委員会副代表ブルーノが前夜祭開催のご挨拶をさせて頂きます!!」
自警団代表ブルーノが復興祭、前夜祭の司会を務めていた、そして前夜祭の開催が宣言される。
「復興祭本祭に向け皆さんご苦労様でした。そして、本日は明日の本番に備え、鋭気を養って頂くとともに明日からの本祭成功を願い、皆さんよろしくお願いいたします。」
「それでは皆さん楽しんでください、前夜祭の開催でーす!!」
挨拶の終わりに合わせて、ステージでは音楽隊の音楽が始まり、飾り付けられた照明に火が灯る、関係者のみで人はまばらではあったが、参加者は一様に高揚感につつまれていった。
そして明日からの本祭は更に盛り上がっていく…
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