ミハエル
気乗りしない軍施設への訪問だったが、アサヒは指示に従い警察署に向かう。タクシーの窓から見える夜10時過ぎの景色は商店街にある飲み屋以外の灯りは消え、週の中程という事もあり人通りもあまりなかった。遠目に見える工業区には灯りがあり居住区とは対照的に24時間稼働を表していた。
しばらくタクシーに揺られると、警察署のある軍施設のビルが見えてくるのだった。ビルには灯りが灯り工業区と同じく24時間営業の様相がそこにはあったのだ。しかも昨今の情勢不安の影響もあり軍は常にコロニーの内と外に警備体制を敷いていたのだ。
アサヒはビルに入ると、一階の受付に向かう。フロアにも大勢の人はおりやはり現在が緊張状態であるのを伺わせていた。
「今日入港したチェン運送です。職員から警察で調書をって言われて来ました。」
「はいはい連絡もらってますんで、こちらへお願いします。」
アサヒは通された一室にて簡単な調書を受けると30分程度で終わるのだった。
「ありがとうございました以上になります。ご苦労様でした。」
「はいお疲れ様です。あの最近の情勢ってどうなんですかね?」
「各地でテロは頻繁してますね。ニュースで流れるものは規模が大きなものだけなんで実際はこちらに詳細がきてないだけで未遂のものを含めれば倍数はあるんじゃないのかな。」
「へぇ…。」
「海賊関連もテロに繋がってるなんて話しもあるもんだから海賊摘発も強化してるんですよ。まあ、またなんか情報入ったら連絡お願いしますよ。」
「分かりました。」
調書が終わりビルの廊下を歩いている時、アサヒ声をかけてくる人物がいた。
「アサヒ大尉お久しぶりです。」
「ん?おぉ!ミッチー久しぶりだなぁ。除隊以来だね元気にしてたか?」
「はい、あれから10年になります。大尉もお元気そうで何よりです。ところでこちらには何用でいらしたのですか?」
「うん海賊にあったんで調書をね。それより大尉はやめてくれよ、今はただの民間人だしね。」
「そうでしたすみません。しかしその様子だと被害は無さそうですね。と言うより、海賊どもの心配をしたほうが良さそうでしたか?」
「ははっそんなのは昔の話だよ。今はただの運送屋だからね。今日だってTTCの荷物を持ってきただけだよ」
褐色の肌に大柄でいかにも軍人とした佇まいの男はアサヒの元部下のミハエルだった。
そしてアサヒの口からTTCの名前を聞いたミッチーは神妙な面持ち告げる。
「大尉、お耳に入れて頂きたい話があるのですが。」
「うんどーした?神妙な顔して、」
「こちらでは周囲が気になりますので、場所を変えてお話ししたいのですが。」
「あぁ、構わないよ。」
アサヒとミハエルは同じビルにあるミハエルのオフィスに場所を移し、先程の話しの続きをするのだった。
「現在自分は軍公安部に所属しておりまして、海賊事件に絡んだ重要案件を担当しております。詳しくはお話しできませんが、アサヒ大尉を襲った海賊はその件に関与している可能性があります。」
「そうか。けど俺達の運んで来た積荷は船のテスト部品って聞いてるし、武器とかなら海賊が狙うのはわかるけど売り捌くにも大した額にならない物をなんで狙うんだ?それともただの船じゃないって事なのか?」
「TTC絡みの荷物が狙われている事は調査で把握しておりました。昨今の情勢不安と関連して同様の事案が増えているのが現状です。」
「じゃあ、やっぱり中身は武器関係でそれを狙ってって事なのか?とは言えその程度なら警察で十分だよな。公安までって事はもっと深刻な話しなんだろ?」
「はい。」
「いずれにせよキナ臭い話しはごめんだな。オレはただの運び屋だし、なんか情報があれば連絡するよ。それに俺はもう軍籍を抜けたんだし機密情報を聞く立場じゃないんだぞ。大丈夫なのか?」
「そうでした。一般の方に話して良い事ではありませんね。個人的に大尉を信頼してますので問題はないと思ってはおりますがね。もし何かあればよろしくお願いします。それから明日ってお時間ありますか?」
「明日は昼頃から積荷の受け渡しだから、午前の二、三時間なら空いてるよ。」
「もしよろしければ、アームズの新型をご覧になって頂きたいです。試作兵装もあるので合わせてご意見をいただければ幸いなのですが。」
「いやいや、現役退いて10年の俺が意見なんて、ちょっと買い被り過ぎだろ?」
「とんでもない、今だに大尉の記録を抜けるパイロットはおりませんよ。私は平凡でしたが、常にお隣におりましたから大尉の技量は分かっているつもりです。今後の参考にさせていただきたいので是非お越し願います。」
「う〜ん、わかったよ。行かせてもらうけど期待しないでくれよ」
「ありがとうございます。では明日8時にお迎えに行かせていただきます。今日もホテルまでお送りしますよ。」
「ありがとう、でも今日はいいよ。寄っていきたいとこもあるし。」
「分かりました。では明日よろしくお願いします。」
「うんじゃあな。」
気乗りしなかった軍施設での予期せぬ出会いに、嬉しさと過去の思いが胸に去来するアサヒだった。
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