おかえりとただいま
「クソッ!逃げられたか」
投げられた玉がただの煙幕と気付き、襲撃者たちを追おうとするマルコだったが、すでに彼らは森の奥深くに姿を消した後だった
「アコ!被害の確認だ!アサヒ殿無事ですか!?」
「オレは大丈夫、それよりアイツらの親玉が来た方に商人の小屋があったはず、あの人達が心配です!」
小屋の中には、ネムリ玉で気を失った二人が横たわっていた、息をしている事を確認し彼らの荷物を見ると、ズー達は与えられた餌を啄んでそこに居たが荷車は跡形なく消えていたのだった
翌日の朝、まだ動けない二人をそれぞれミゲルとマルコが背負う形でズーに乗せ、一行は帰路に就く
そして、二日後の夕方近く、彼らは無事クバルへと到着をした
ミゲルとマルコは、二人を連れ診療所に向かう、一方でアサヒ達はハーレーからの荷物を降ろす為に市場へと向かうのだった
クバルに到着する日と時間はおおよそ分かっていたので、前もって市場に来るようアルたちには話していたのだったが、彼らの姿はそこにはなかったのである
「ちょっと早く帰って来れたから、アル達はまだみたいだな」
「そうみたいですけど、アル達なら早めに来ていてもよさそうな気がしますが」
Jの言う通り、彼らならそうなる事も想定済みで用意をしているはずだった、しかし今日は違っていたのだ
それに何やら胸騒ぎを感じるアサヒとJの下にピーターが現れた
「おかえりなさい、アサヒさん、Jさん!」
「おーい、ただいま〜」
「あれピーターだけ?アルはどーかしたの?」
アサヒ達がシンブに到着したその夜、ライドスーツとラノが消えた事と、ここ数日アルがあちこち探し回っている事をピーターは話すのだった
「はぁ?ラノだけならまだしも、ライドスーツも無くなったって、どーゆー事だ?」
「わかんないっス、はっきりしてるのはライドスーツを最後に使ってたのがラノさんだったって事っス」
アサヒとJは現状の把握はしたものの、理解には及ばず、まずは店に戻ることにした
「ただいまニコル、ネェル」
「おかえりなさい、アサヒさんJさん、あの、ピーターから話は聞きましたか?」
「あぁ、聞いたけどどーゆー事なんだ」
「私たちも分かんないんです」
「とにかく、アルに戻ってくるよう連絡するよ」
非常事態のためアサヒは通信機を使い、アルを呼び出し、すぐに帰ってくるよう伝えた
しばらくし、アルが店に帰ってきた
「すいませんライドスーツとラノが・・・」
「うん、話は聞いてとりあえず現状は確認した、で何か分かった事はあるのか?」
アルは、町中、町の郊外にある森、そしてフェイロンがある森を探したが手掛かりがなかった事を告げる、そして聴き込みもしたが当日の夕方、市場で目撃をされて以降の詳細も不明だという
余談ではあるがフェイロンは不時着した森に置き去りになっているのだが、定期的にアサヒ達は様子を見に行っていた、そして、念の為に樹木などでカモフラージュして偽装を施していた
「う〜ん、ライドスーツは無くなって、ラノは行方不明、別々の話なのか、それとも一緒になのか・・・?」
「夕方にライドスーツを盗みだすのは難しいでしょうね、輸送するのも大変ですし時間帯も目立ちます」
「しかもこの世界では、操縦するゴーレムはレアだと言いますから、売るとなると足がつきやすくなります、となると盗難の目的はライドスーツ自体の可能性が高くなります」
「さらに、こちらの世界で操縦できる方は非常に少ないでしょうし、目撃情報もないという事を含めて、ラノさんが持ち出した確率は高くなりますね」
Jはラノが夕方仕事終わりにライドスーツを隠し、夜中目立たない時間に移動したと考えたのだ
「ラノさんが脅迫されて持ち出したか、そそのかされて持ち出したか、どちらにせよ、ラノさんとライドスーツは一緒に消えたと考えるのが自然でしょうね」
「設備があれば通信機で居場所の特定は可能ですが、それも不可能ですし、現状お手上げといったとこですね」
さすがJと言うべきか、アサヒをはじめチェン運送のメンバーが考えていた事の全てを分かり易く瞬時にまとめ上げた
「だとして、誰がなんの為に盗むんだよ!」
「さぁ、例えば盗賊等の犯罪集団とかですかね」
「犯罪に使われるのか・・」
「まじかよ・・・」
店内に沈黙と重い空気が流れる中、ピーターが口を開く
「まだ、そーと決まったわけじゃないっスよ、そのうち帰って来るかもしれないっス」
前向きな発言だったが、誰一人同調するものはいなかった
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時を遡る事二週間程前、ラノがレイモンドに出会った頃の事である
「昨日は仕事休みやがったけど、今日は来るんだろーなクソジジィ」
「まぁ、たまには許してやろうよ」
「いや、アサヒさん甘くないっスか?アイツ甘やかすと、すぐサボりやがるんでガツンとやった方がいいんスよ」
「それは分かるけどさ、あの人もう50代後半の初老だし・・」
この世界の生活にも慣れてきた所為もありラノは本来の生活態度にすっかり戻っていたのだ
彼は独身で、毎日飲み歩き、休みは賭博で時間を潰すといった生活をしていた
「はぁ、毎日毎日仕事かよ、なんでこんなとこまで来て仕事しないといけないんだ?」
あいかわらず文句を並べるラノ、しかし、チェン運送の仲間達はラノの本性を知らない
この日、ラノは出勤をしたが、やはりミスを連発した、その為、アルやアサヒに叱責をされるのだったが、いつも通り反省はなく他人の所為にするのだった
「あーダルい、今日も飲みに行くか、レイモンドさん来るかな」
「あの店また連れてってくれないかな」
その日もいつもの飲み屋に行くラノ、しかし時間がたってもレイモンドは現れる事はなかった
「なんで来ないんだよ、アイツ」
レイモンドに対しても文句を言い出すラノだった
そして、次の日もその次の日もレイモンドが姿を現す事はなかったのだ
「レイモンドのヤツなんで来ないんだ、もうキルマーに帰ったのか?」
「まぁいいか、アイツに貰った金はまだまだあるし・・・、それより、あの店に行きたいなぁ」
レイモンドに連れられ行ったあの怪しげな地下の店、ラノはあのときの事を忘れる事が出来ずにいたのだった
そして、翌日は休みだった事も手伝い、ラノは《サバト》と呼ばれた例の店に向かう
ズーの鳥車に揺られ、あのひとときを思い出すラノ、得も言われぬあの快楽をまた味わいたい一心に思考は奪われていった
目的の場所に辿り着き階段を降りると、この間の二人が変わらず立っていた
「おかえりなさいませ」
レイモンドがいない事に及び腰になっていたラノだったが、彼を見るなり深々と、首を垂れる二人の態度に更に気分が高揚するのだった
扉が開き、またあの香りと煙が漂う、胸いっぱいに吸い込むと、とたんに気分がハイになっていく
「おかえりになるのをお待ちしてましたよ、ラノ様」
「ああ、はい」
妖艶な美女に迎えられ、ラノは目眩く時間を過ごしていく
サバトの奥では派手な仮面にモノトーンの衣装に身を包んだ男がラノを眺めて、ほくそ笑みを浮かべていた
そして、ラノは連日サバトに足を運ぶ様になっていった
「おかえりなさいませ、ラノ様」
「あぁ、ただいま」
いつもの様に、倒錯的な時間を過ごすラノ
しかし、今日はいつもと事情が違ったのだ
「さぁ、もう帰るぞー」
「いつもありがとうございます、お代はこちらに」
「おう、この中から出しといてくれ」
レイモンドから貰った金の入った袋を女に渡すラノ
「ラノさま、ご冗談はいけませんよ」
袋には、数枚の銀貨が残っているだけで、代金とは程遠い額しかなかった
「は?ちょっと袋を返せ」
中身を確認したが、やはり銀貨が数枚のみであった
「今はないだけで、明日持って来るから待ってくれよ」
「困りましたねぇ」
店の外から、例の二人が入ってくる
「ラノ様、私らは商売でやってますんで、金がないじゃあ済まないんだよ」
「舐めてんのか?」
「いや!そんなつもりはぜんぜんないんです、必ずお金は持ってきます」
「明日じゃなくて、今出せって言ってんだよ、なぁ」
「おい、二度と動けないのと、有り金出すのとどっちだ?」
酔いが急激に冷めてくるラノ、恐怖に慄き、その場を動くことさえできずにただ、縮こまり、その足は小刻みに震えだしていた
「まぁ、お待ちなさい」
「レイモンドの紹介で来られたラノ殿だ、その様な乱暴は良くないね」
「はい、オーナー」
奥から、派手な仮面を付けた男が現れ、追い込まれ、後は死を待つだけの小動物の様になったラノに救いの手を差し伸べる、しかしその手が悪魔の手だとはラノは気付かない
「今日はよいでしょう、レイモンド同様、私も貴方を気に入りましたよ」
「またここに来たいのならば、来ればよい、ただし、我々の仲間になるのであればね」
仮面の男はラノをマゼンダへと誘う、そしてライドスーツを盗んで来いと
「この話しを聞いた以上、貴方には二つの道しか残されてはいない」
「もちろんお分かりだね、好きな方を選ぶといい、やるのであれば、明日ここに来なさい、そうでないなら、貴方には苦痛と死が待っている」
「我々を舐めない方が君の為だ、しかし仲間になるのであれば終わりのない快楽を与えようではないか!」
ラノはすでに詰んでいたのだ、そして、アサヒがシンブに到着した日を迎える
「分かってんな?」
「はい、仕事が終わったら、この小屋にゴーレムを隠します、そしたら夜中に森のアジトに移動させますんで」
「失敗るんじゃねーぞ」
そう、ラノはマゼンダに寝返る事を選んだのだった
閲覧ありがとうございます
暑い日が続きますので、皆さん熱中症にくれぐれもご注意ください
涼しい室内でラノベでも如何でしょうか
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