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その男、ガンツォ

 

 クバル北東部、住人たちの大半が貧困層を占める居住区がそこにある、その一角に他と違い一際大きな屋敷がある


「おい、今日はガキどもまだなのか?」


 時刻は午前11時を回りしばらく経っている、筋骨隆々の厳つい体格の大男が、彼の妻であろう女性に尋ねた


「そろそろ来るんじゃないかしら」


「ところでアニ、調子はどおだ?」


「大丈夫よ、何かあればちゃんと言うから心配しないで」


「ん、分かった」


 賑やかな声が聞こえ、玄関の扉が開くと何人かの子供たちが屋敷に入って来る


「かしらー、はらへったよー!」


 屈託のない笑顔にみすぼらしいボロボロの服を着た少年少女たち


「おかえり、いつも元気そおねぇ」

「相変わらず汚いわねぇ、何日お風呂入ってないのかしら?」


「わたし、ろくにちはいってないー」


「おれごにちー」


「あらやだ、だから匂うのね、獣くさいから、ご飯食べたらお風呂に入るわよ」


 そんな会話をしている間にも、続々と子供たちが入って来る

 そして、子供たちを大きなテーブルの並ぶ広間に案内し、並べられた食事を与えるのだった


「おう、メシ食う前にちゃんと手を洗えよ」

「食うもんはたくさんあるんだ、他のヤツのを取るんじゃねーぞ!」


「ほら、そんながっつかないで、しっかり噛んで食べなさい」

「マリア、女の子なんだからナイフとフォークくらい使える様に練習して」


 子供たちは席につくなり食事に貪りついた


「来れるヤツはいつでも来いよ、メシくらいはなんとかしてやるからな」


 集まってくる子供たちは、様々な理由でストリートチルドレンとなり住居はもちろん、食事もまともにできていないのだ

 とは言え、生きていく為にゴミを漁り、金目のものを集め、日々の糧にして生きている


「頭失礼します、グースが来ました、通して構いませか?」


「おう、応接室に案内してやれ」


 グースと呼ばれた初老の男は、クバルの市場を拠点に商売をしており、北や南と各地を行商していた、クバルやキルマーの貴族とも繋がりがあり随分と稼いでいる様なのだ

 グスタフが部屋に入ると、グースと付き人の二人で待っていた


「初めましてグスタフ殿、お忙しいところをお時間をとらせて頂き、感謝しております」


「堅苦しいのはやめてくれ、何の用だ?」


 グスタフ・ガンツォはクバルのその筋では名の通った人物で、ガンツォ一家と呼ばれるファミリーを持っていた、彼らは夜の町や賭博場を仕切っており、クバルの裏の世界を生業としていた

 本来ならば関わりのないグースが、彼を訪ねてきたという事は、表だった話ではない事は明確だった、しかし送られてきた手紙の報酬は魅力的で興味をそそるものだったのだ


「はい、折り入ってお願いがありまして」


 最近クバルで新しく商売を始めた者たちがおり、クバル首長のサマンサの後押しもあり、北や南への物流を彼らに担ってもらう計画があるのだとか、しかし、今まで行商を行っていたグースからすると面白くない話になるのは明白で、近々ある行商でその彼らと同行するといい、その時に彼らに嫌がらせ等の妨害行為をしてもらいたいという内容であった


「ほー、要するにそいつらをビビらせて、手を引かせたいって事か」


「左様でございます」


「積荷は頂くぞ、構わねーな」


「もちろんです、我等には手を出さない様お願い致します」


「はっ、自分らは損害なしってか」


「その代わりにお代を支払いますので」


「全額前金だ、それで受けてやる」


「グスタフ殿であれば、よもや失敗る事もありますまい、お代は用意してありますので」


 グースは付き人から袋を受け取ると重そうにテーブルに置く、中身を確認し軽々と袋を持ち上げグスタフは部屋を後にする


「くわしい話は手紙をよこせ、要が済んだらさっさと帰んな、ここはお前らが来る様なとこじゃねー」


「それでは、よろしくお願い致します」



 広間では子供たちが、アニータと食事をしている、食べ終わった子供は待っている者と入れ替わり順序よく交代していった


「さぁ、お風呂に行くわよ」


 アニータは何人か引き連れ風呂場に向かう


「早く来やがれガキども」


「アニータがいいよー」


「うるせぇ!オレ様で我慢しやがれ!さっさと服を脱げ!!」


 グスタフとアニータには子供はおらず、貧民街の子供たちを自分の子供の様に面倒を見ているのだった


「ったく、アイツらいつでもきったねーなぁ、一回でタオルがダメんなっちまうぞ」


「しょうがないじゃない、嫌なら家に入れない様にしようかしら?」


「んな事は言ってねーだろ」


「分かってるわ冗談よ」

「ところで、さっきのは何?」


「あ?」


「グースの事よ、あまり良い噂は聞かない男でしょ?」


「ケチな仕事の依頼だ、だが報酬はなかなか良いんだぜ」


「そおね、お金は多いに越した事はないけど、大丈夫なの?」


「ヤツの商売敵に嫌がらせするだけだ、大したことはねぇな」


「だといいけど、近頃マゼンダの動きも活発だから充分注意してね」


「あぁ、分かった」



      ーーーーーーーー



 ソードカットがある山麓の洞窟にグスタフと仲間が集まっていた


「頭、伝書鳩が来ました」


「なんだって?」


「はい、計画は失敗、被害はなし、帰りの二日目早朝に決行されたし、だそうです」


「はん、警護が優秀だったか、まぁいい、頂くんなら帰りの荷物の方が値は付くからな」


「脅すだけじゃないんスか?」


「なんで律儀にむこうの言うことを守らねーといけねーんだ?オレ達は騎士団じゃねーんだぞ」


「そりゃそーっスね」

「それと、町からも伝書が届きました」


「あ?よこせ」


 伝書には、ガストンと言うもう一人の商人がマゼンダと呼ばれるガンツォ一家とは別の組織にも仕事を依頼しているとの事で、その内容は例の運送屋の所持しているゴーレムを奪う事だそうだ

 ガストンもグース同様の豪商で、やはり黒い噂が絶えない男なのだ


「あのクソジジィども、いい根性してやがる」


 マゼンダとは、世界を股にかける犯罪集団トリニティと、言われる組織の一つで、ヴァル・キルマの各地で勢力を伸ばしていたのだ

 マゼンダの構成員達は、ガンツォ達と同じ様に貴族や豪商から金品を強奪する程度の悪党だったのだが、この十年足らずで、殺人、強盗、人身売買など、ありとあらゆる犯罪に手を染める様になり、ガンツォ一家とは対立をしていたのだ



 二日後、キャンプ地に訪れたグスタフはアサヒ達と交戦になり、彼らの実力を知り、ただでは済まないと悟った瞬間に撤退を決めた


「じゃあなー、商人のジジィたちによろしく言っといてくれやー!」


 木の影に隠していたズーに飛び乗る一行は、そのまま森の闇に消えていった


「はっはっー!おい!アイツらの間抜けヅラみたか!?」


「ただの煙幕なのに、ビビってましたねー」


「クッソー、あのヤロウ体捌きが尋常じゃなく早かったぞ!当る気が全然しねーし!」


「気にすんな!金目の物が手に入りゃあ用はねぇんだ、帰って美味いもんでも食うぞ!」


「それにしても美味そうな匂いだったなぁ〜、あれ食べたいぞ〜、アルマァ」

 

「今度アイツらに頼んでみな!」


「そりゃいいや!はっはっはっはー」


 そして仕事を終えたグスタフ達は屋敷に戻って来た


「お帰りなさい、無事でよかったわ、それでお仕事はどうだったの?」


「ジジィどもの荷物を頂いてやった」


「あら、話が違うんじゃなくて?」


「アイツらマゼンダにも仕事を依頼してやがって、気に食わねーから頂いてやったぜ」


「もともとそのつもりだったんでしょ」

「で、例の運送屋はどうしたのかしら?」


「おう、それなんだがよ、一人面白いヤツがいたぞ」

「めっぽう強くてな、アルマが歯が立たねーってよ、泣きついてきやがったぜ」


「で、あなたはどうなの?」


「俺様に敵うわきゃねーだろ」


「ふふっ、どうかしらね」


 今回の依頼で出会った運送屋に嫌な気はしなかった、むしろグースとガストンがマゼンダに依頼した内容に嫌な予感を募らせるグスタフだった

 そしてそれがクバルを襲う悪夢の始まりになるとは、この時誰も想像できずにいたのだった




新章のスタートです

登場人物が増えるので、そのうちまとめを投稿しますね

楽しんで頂けるとありがたいのですが・・


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