宇宙①
アサヒはクルー達にここにいたるまでの経緯と出来事を説明するのだった。
予期せぬ地球への帰還から時を遡る事二日前、彼らは会社にいた。
「なぁ、今日の中身って何?訳ありっぽいけど物騒なものじゃなけれはいいんだけどさ。」
アサヒは今日の積荷の事をクルーで事務系の仕事をこなすニコルに尋ねていた。
運送屋の彼らからしてみれば、中身がなんであれ相場より高値を出してもらえる荷物はありがたいのだが、相場の倍以上の金額を提示された積荷の中身を詮索したくなる気持ちを抑えられずにいられなかったのだ。
「守銭奴の社長の事だから、またヤバイもんでも入ってんじゃないんスかねぇ?」
貨物船フェイロンのパイロット、アルバートがいつもの軽口をはさむ。
見た目と口調が若干のチンピラ風だが、航宙機の操縦は一流で、今までも彼のおかげで難を逃れた事は数多くあったのだ。
そして元アームズパイロットでキャプテンを務めるアサヒは海賊対策になっていた。実際に海賊の襲撃は何度かあり、その時はアサヒがカスタムされた民間ライドスーツで迎撃をしていたのだ。
「最近物騒だからね。変な物を運んで海賊に目をつけられても面倒なんだよな。」
「まぁその為のアサヒさんですから、元エースパイロットは伊達じゃない!!という事で。」
同じくクルー、ジェイコブ、デジタル系エンジニア、メカニック、工学デザインと、多彩な技術と知識を持ったアニメ好きの残念なイケメン。
彼の技術でライドスーツはカスタムされており、民間機を超えた性能になっていた。
「いやいやジェイコブくん。所詮ライドスーツだからねぇアームズと比べたら火力は桁違いだし。とは言えJのカスタムのおかげで機動力はなかなかのもんだよ。量産機並みに動けるしね。」
「確かに火力は仕方ないですが『機動性』だけじゃないです。機体管制の追従性もアームズと同等レベルにしてありますから。」
「はいはい、確かにレスポンスいいよね。さっすがロボ好き!大事なとこをよくおわかりですよね。」
「ちょっと待ってください。侮ってちゃだめです。最近は海賊事件が多発してるんですよ〜。最近だと軍用機も出回ってるらしいですし。先月ブラックピッグが襲われたときの映像にアームズが何機かあったみたいですからね。幸い、まだ死亡者は出てないそうですけど、この半年で急増してるみたいですよ〜。」
「あぁそんなニュースあったね。」
「ふ〜ん。」
クルーの紅一点ニコルは、小柄で愛嬌のある顔立ちと色白で肌理の細かな肌はルーツがアジア系を感じさせる可愛らしさを体現した女性なのだ。
彼女は事務仕事をメインに関連会社や運送業仲間と情報交換をして常に色々な情報を掴んでいる見た目とは裏腹にしっかり者であった。
「おうおう、無駄口ばっかたたいてねーで、さっさと出航の準備しねーか!給料減らすぞ、オラっ!!」
総勢100名を超す株式会社チェン運送社長のチェン、守銭奴、見た目と口の悪いハゲ親父、そしてニコルの父。だが会社の利益になる相手とは上手く付き合える賢いタヌキ。
意外と面倒見がよく、従業員は文句をいいながらではあるが拾ってもらったと恩を感じている者がほとんどであった。
そんな若者の一人が遅れて貨物デッキに入ってくる。
「おはようございまっス!」
遅く現れたことを悪びれもせず、元気いっぱいの挨拶で場を和ませる十代のピーター、入社二年目でクルー最年少なのだ。
そして、そのあとにもう一人姿を表したのがダメ親父、ラノ
これがチェン運送第一貨物課のクルー達六人である。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「おはよ〜。」
「おう、てかおっせぇよ。おっさんお前もだ。」
「すいませ〜ん。」
「あ、すみません……。」
「ラノ、もっとデカい声で挨拶しろやボケ!何言ってんのかわかんねぇぞ、お前!」
社長のチェンがラノを叱りつける。
「は、は、はいっ!」
「しゃんとしろや!!」
ラノに若干の憐みの目線を向けられたのも束の間、ニコルが仕事の説明に入った。
アサヒをはじめ、社内の優秀な人材で構成された第一貨物課は社内のOJTの場にされており、ここでついてこれなければ自ら辞めていくし、育てば使える人材になる。という事で、社長はよく第一貨物課に新人を預けていた。
更に、第一貨物課はダメな人材の修行の場にもなってたのだ。ちなみにピーターは入社研修を見事にクリアし見込みがあるので、そのままこの第一貨物課に在籍している。そしてラノは鍛え直しでここにいた。
ミーティングを終え軽い昼食を取った後、第一貨物課のクルーは港の出港ゲートにあるデッキに集まっていた。
「さて、最終チェックしたら出航しようか。」
「なぁニコル、今日の荷物ってTTCのだよな。なんかの部品にしちゃデカいし、丁寧に梱包されてるよな。」
積荷の入ったコンテナをライドスーツで搬入するピーター、貨物船の中ではラノが受け取りをしていた。その作業を見ながらアルがニコルに尋ねるのだった。
ちなみに、TTCとは基幹産業はモビリティ製造だが、ライドスーツやアームズまで扱ういわゆる軍産コングロマリットである。
「そうだね。私の知ってる限りだと同じ様な荷物は他の会社でも扱っているみたいだよ〜。詳細は分かんないけど今建造中の新型船のテスト部品を送ってるみたい。」
「船かよ、アームズの新型じゃないだな。」
アルは中身を聞くとがっかりする。バイク等に興味のあった彼は好きが高じてパイロットになったのだった。もちろん大型ロボットもその範疇にあったのでTTCの荷物と聞いて少し期待していたのだかアテが外れてしまったのだ。
《船か…、近頃は情勢が怪しいし、戦艦の類いか?》
アル同様にピーターと貨物船をデッキから眺めていたアサヒの頭に少しの不安がよぎる。しかし民間企業で働いたこの十年の間に、連合軍に所属して戦った日々の様な危険は一度も無かった事が、その不安をただの考え過ぎだと思わせるのだった。
大気圏内も運航可能なその船は縦長の胴体に羽を畳んだその形は三角錐に近く、大気圏内及び重力下での射出の加速度を最大限生かす形状になっていた。
彼らの船は、この時代の中型貨物船としては一般的なもので地球との往来にも使用されていたのだ。
積荷の搬入が終わった事を確認したクルー達はデッキを離れ、無重力の港内を正に泳いで貨物船乗り込む。本来なら港から伸びる支持アームに通路はあるのだか大概の船乗りは港内を縦に横に飛び交っている。そして船体に近づくとワイヤーガンを撃ち込み、自動巻取りで手繰り寄せると貨物船の搭乗口に入って行くのだった。
チェン運送のロゴが刻まれた揃いの宇宙服とヘルメットを装着したクルー六人はそれぞれのシートに身体を収めハーネスを装着する。積荷の固定作業を終えたピーターが最後にシートに収まると、いよいよ発射となるのだった。
コロニーの港にある射出用のリニアレールのカタパルトに全長35mのフェイロンの巨体がマウントされレールが港出口に移動する。ほどなくして出港の許可が下りると、管制官からの発射のカウント開始のアナウンスが船内に響いた。
「30秒前………10秒前…。」
「5、4、3、2、1、発射!!」
超伝導リニアの加速を全身に浴びつつレールを走るフェイロンとクルー達、彼らは一様に向かう先を見つめていた。




