山小屋にて
バブーンの襲撃を切り抜け、無事に山小屋にたどり着いた一行、アサヒとJ、商人二人、マルコとアコ、そしてミゲル誰一人怪我なくここまで来れたのは、騎士団マルコの指揮が優秀だったのは言うまでもなかった
実際、先のバブーンの群れは大きく、そしてリーダーの知能も高かった、並のパーティであれば甚大な被害が出ていたはずだった
「アサヒさっきは助かったぜ」
ズーの装具を外しながら、ミゲルがアサヒに話しかけてきた
「なんか武術でもやってんのかい?みごとな体捌きだったぜ」
「あぁ、オレの国にある古武道とKARATEってヤツだよ」
その昔、アルたちを返り討ちにしたアサヒだが、古武道は師範代、KARATEはブラックベルトであった
古武道とは、銃剣等を用いた戦闘や無手での戦闘を体系化した武術で、一般的な武器全般の使用に精通している、さらに無手での対剣、又は飛び道具との戦闘技術もカバーしていた、事実兵役時代、新兵の戦闘訓練教官を務める程の腕前であった
「確かに見事な腕前でしたな、アサヒ殿」
多くの荷物を運んでくれたズーの世話をしている二人の下にマルコがやってきた
「先程はミゲルの危ういところを見事でしたな、更に隊列も一番手薄になる場所に入られましたな」
「え、どーゆことだ?」
「ふむ」
曲がり道では集団の外回りが遅れる場合があり、わずかな時間本隊と離れてしまう、そこに隙が生じて狙われやすくなる、守備対象に対して警護の数がギリギリの場合はその隙は敵からすれば好機となる、ましてやバブーンはアサヒたちの殲滅ではなく積荷の食糧が目的だ、ならば、離れた方を多数で襲うほうが成功確率は高くなり、必然的にそこが狙われ易くなるのだ、そしてアサヒは敢えてその場所に荷車を位置取り、さらには囮役までこなした、と、マルコは考えたのだ
「その様に感じましたが、私の思い過ごしですかな?」
「買い被り過ぎですよ、たしかに武芸は心得てますけど、たまたまうちの荷車に食糧があってバブーンの標的になっただけで、そんな難しい戦術はどーですかねぇ」
「ほ〜ん、まぁ難しい事はオレにはわかんねぇけど、助けてもらったのは確かだ、借りはそのうちきちんと返すからな」
三人の会話をアコが少し離れた場所から聞いていた
「アイツら悪いヤツじゃないのかも・・」
日が傾き森の陰が色を濃くしてゆく、ここは山の中腹あたりでシンブを目指す者達の中継キャンプ地となっていた、先人達の努力でこの周囲は開けており、いくつもの山小屋が設けられていた、そしてこの様な場所は全部で三つあり、ここはそのうちの一つだった
一行はいくつかある山小屋をアサヒとJ、商人達、そして警護と、三組に分かれて使うことにした
明日は早く出発するため、その準備をはじめる彼らだった
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その頃キャンプ地から離れた場所にある洞窟内では、武装した集団がいた
「頭、伝書鳩が来ました」
「なんだって?」
「はい、計画は失敗、被害はなし、帰りの二日目早朝に決行されたし、だそうです」
「はん、警護が優秀だったか、まぁいい、頂くんなら帰りの荷物の方が値は付くからな」
「脅すだけじゃないんスか?」
「なんで律儀にむこうの言うことを守らねーといけねーんだ?オレ達は騎士団じゃねーんだぞ」
「そりゃそーっスね」
ーーーーーーー
キャンプ地では、早めの夕食の準備に取り掛かっていた、キャンプ地には井戸からの水道もあり、設備は充分とはいかないものの整っていた、そしてマルコ達に夕食を作るので一緒にどうかと誘ってみるアサヒだった
「食材は用意してあるので、一緒にいかがです?」
アサヒは朝、出発前に市場で食材を買っていた
まずレンゴ(チキン的な)の骨つきモモ肉を捌き、取り除いた骨を鍋に入れ、下処理した野菜と一緒に煮込み、出汁をとる
出汁をとっている間に、ポタタ(ジャガイモ的な)を洗い、鍋に入れ茹でる
そして、先ほど捌いたモモ肉を4センチ程度の大きさにカットし表面に塩をふる
皮をむいて粗く潰したガリック(ニンニク的な)を油と共にフライパンに入れ軽く温める、ガリックの香りが出てきたら、モモ肉の皮面を下にし、弱火で焼いていく、七割ほど皮面に火が通ったらひっくり返し、表面に乾燥させたハーブをふりかけ蓋をしてニ分ほど焼く、かまどから下ろし蓋をしたまま予熱で五分ほどおいたらレンゴのハーブ焼きの出来上がり
そして、先程茹でておいたポタタに串を刺しスッと入れば中まで火が入った証拠
お湯を捨て、あつあつのポタタの皮をむく、熱いので手拭きなどで持つほうが無難である、皮を剥いたポタタを再び鍋に戻し、軽く潰し、そこに塩、ビネガーを少々、そして干し肉のクズを刻んだものを入れ味を整えたら、ポタタのホットサラダの出来上がり
最後、煮込んでいたスープの骨と野菜を取り出し、塩で味を整える、この時少し薄味にする、そこにサラダでも使った干し肉の刻みとパンの角切りを入れたら、ボリューム鶏がらスープの出来上がり
ちなみに、この世界の調理設備の大半はかまどで、薪の着火を魔道具で行うのが一般的であった
「夕食できたんで、皆さん一緒に食べませんか?」
アサヒは商人達も夕食に誘うのだった、しかし商人達はもう済ませたという事で断られてしまった
「おっ!これは豪華な夕食ですなぁ、このようなキャンプ地でこんな贅沢が出来るとは」
「うちのアサヒは強いし、料理もできるのですよ、フッフッフッ」
「お前が胸張ることじゃねーだろ」
ミゲルがツッコミを入れる、今回の旅で心配だったのはツッコミ担当がいない事だったが、ミゲルが見事に代役を果たしてくれた
ミゲルのツッコミを横目に育ち盛りで腹ペコのアコが料理に手を出す、一口頬張るとその顔が年相応の可愛らしい笑顔になっていった
「美味しー、すごいじゃん」
「本当か!?オレもいただくぜ!」
「ングング、確かに美味いなー、やるじゃねーかアサヒ」
「ははっ、ありがと、喜んでもらえて嬉しいよ」
「うむ、どれ私も遠慮なく頂くとしよう」
「これはなかなか、アサヒ殿は料理の仕事でもされておったのか?」
「いや、妻が料理好きでね、一緒にやってるうちに上手くなったみたい」
「では奥方もよほどお上手なのでしょうな、いつもこの様な美味い食事が食べられるアサヒ殿が羨ましいですぞ」
「いや、妻は十年前に亡くなってて、近頃はなかなか腕前を披露することもなくなってたんですよ」
「左様でしたか、知らぬとは言え無礼を致した、大変申し訳ない」
「いやいや、頭を上げて下さいよ、もう十年も前の話なんですから、そんな事より冷めないうちにどんどん食べてくださいね」
「うむ、ではお言葉に甘えて」
《アサヒも家族を亡くしてるんだ・・・》
アサヒ達の会話を聞いたアコが少し感傷的な顔をしてアサヒを見つめた
その頃、アサヒ達とは別の小屋では、商人達が今日の出来事を話していた
「やつら思った以上にできよる、まぁ、そもそも所詮サルでは役不足だったか、それにしてもよりによって堅物のマルコとは、自警団のみであればサルで事足りたやもしれんが、あやつは厄介だのう」
「うむ、しかし例の彼奴等なれば上手いことやってくれるではないかな、先程、伝書は飛ばしておいたのでぬかりはないであろうよ」
「しかし、サマンサめ余計な事をしおって、今までと同じ様にしておれば良いものを、あんな得体の知れん奴らに仕事を頼みおって」
「護衛の費用が掛かり過ぎだと、うるさくて敵わんわ、商いを安全にする為じゃ、そんな事は当たり前と言うもの」
「まったくじゃ、魔族被害の孤児やら何やらと、そんな事に金を回す必要がどこにあるか、そんなものに気を掛けておったらキリが無いわい」
「わたしらは苦労して荷物を運んでんだ、少しは美味い汁を吸わせていただいても罰はあたらんぞ」
「まったくだ」
「わっはっはっはー!!」
森の夜は早く、あたりは暗闇に閉ざされていく、そして山小屋には狡猾老獪な笑い声が不快な音をあげる、しかし樹々のざわめきが不穏な空気と共にそれを掻き消してしまうのだった
閲覧ありがとうございます
夜もう一話投稿できたらしましので
合わせ、よろしくお願いします




