クバルの街並み
修正版です。
アサヒ達が和やかな昼食をとっている頃、ゴメスは出発の準備の為に宿を先に出ていた。そしてアサヒ達は昼食を終え宿の前に集まるのだった。
「ゴメスさんどこっスかね?」
「宿の前で待ってろって言ってたから、そのうち来るんじゃないかな?」
「ちょっとアサヒさんっ!アレ!」
ゴメスを待つ彼らの視界に馬ではない生物が二匹大きな荷車を引いて現れるのだった。その生物は御者に操られ道をまっすぐにアサヒ達に向かって来るのだった。
アサヒ達が驚いて眺めていると、その生物は彼らに近づき速度を緩めるのだった。
「おう!悪い悪い待たしちまったなぁ。」
荷車の窓からはゴメスが上半身を出し、アサヒ達に手を振るのだった。
「あの…、これって、何ですか!?」
「ん?何ってズーの事か。この国じゃこれが普通だけど、お前さん達は初めてか。見た目は可愛いが結構早いんだぞ。」
「いや、可愛いくわ……、」
「デカすぎて怖ぇんスけど。」
可愛いと評されるズーという生物は例えるなら、ヒヨコとダチョウを足して更にマッシブにした走鳥類でヴァル・キルマでは一般的で薄茶色の羽根に全身を覆われた全高2m弱の巨体に大きな嘴、黒目がちな瞳は人間慣れしており御者の言う事を素直に聞いていた。
「リアルチョコ○じゃないっスかー!!」
「ファンタジー感が素晴らしいっ!」
「なんか可愛いですよね〜。」
『大っきい鳥さん可愛いねぇ。』
若者と女子、そしてJには受けが良いようでなんの抵抗もなくその巨体を撫でるのだった。
若干抵抗のあるアサヒとアル、そしてその他の者達は荷車に乗り込んでいく。荷車の中は十人程が座れる様になっており窓からは街の様子が見える様になっていた。
そしてズーに引かれて荷車は動きだし彼らは市場に向かうのだった。
荷車に揺られながら見るクバルの街並みはさほど技術が発達している様には見えなかった。立ち並ぶ建物は大きくて三階建程度で木と石材で造られた物が大半であり、行き交う人々の服装もゴメスやアンナ達と同じく、木綿で出来た服が多くアサヒ達が着る化学繊維素材らしい服は全く見当たらないなかった。
「綺麗な街並みだろ。サマンサが色々がんばったんだぜ。近くにも村や集落があるんだがこんなに整備はされてないんだ。そこは農業や牧畜、野獣の狩猟をしてて収穫できた物を今からいく市場の商店に卸してるんだ。」
「この辺りでは一番栄えてるんですね。」
「とは言え王都の方がもっとすごいけどな。」
「落ち着いたら王都にも行ってみたいですね。」
「そういえば、アサヒたちはどこに向かってたんだ?」
荷車に揺られ街を進みながらゴメスがアサヒに訊ねる。
「ビールって街です。」
「聞いた事ねぇなぁ。アメリカだっけ?そんなとこも知らねぇし、そもそもなんであんな森ん中にいたんだ?」
「俺達の船、航宙機が故障して森に不時着しちゃったんです。」
「なんだ《こうちゅうき》てのは?」
「あっ!えっと……、」
つい自分たちの事を話してしまい口籠もるアサヒを尻目に、呑気なピーターが不思議そうに答えた。
「空を飛ぶヤツっスよ。」
「はっ!?空飛ぶって、王族か金持ちしか持ってないヤツだろ?」
「あぁっ、そおなんですよ。俺達は運送屋で仕事の途中だったんスよ!ね、ね?」
「そうなんです、王族に頼まれた秘密の荷物なんで詳しい事情はちょっと…。」
アルとニコルが上手くフォローを入れる。
「そうだったか、通りでゴーレムも連れてたわけだ。」
うっかり自分たちの事を話してしまい、慌てて嘘をつく彼ら。しかし現状が分からない以上うかつにこちらの情報を伝えるのはトラブルの元になりかねず、なんとか話を誤魔化す他にないアサヒ達だった。
「まぁ、色々あるだろうから仕事の話はやめとくわ。そんでこれからどうするんだ?」
「ええ、それなんですけど船の修理を最優先したいんですが資金や資材が必要ですし、自分達の国に連絡しようにも手段がないので…、ですからしばらくはご厄介になってしまうかと…。」
「そうか、できることはしてやりたいが修理は多分難しいぞ。なんせそんな物を扱った技術者はこの街にはいねぇだろうからなぁ。とはいえ市場に行けば役に立つものがあるかも知れねぇぞ。工業製品も扱ってるから色々参考になるかもな。」
アサヒとゴメスが会話している横で、アル達は街を眺めていた。荷車は宿のある道から大通りへと進んで行く。
大通りは幅10m程ありその両側には日用品などの雑貨屋や観光土産屋などが立ち並んでいた。
「ねぇアルあれ見て、スクーターみたいなのに乗ってる。」
「あぁなんだろうな。」
大通りではズーが引く荷車とは別の二輪の乗り物に乗る者も居た。やはりアサヒ達が暮らしていたコロニーや知識の中にある地球とは違う世界がそこにはあったのだ。
荷車は大通りを直進し、噴水のある広場へ出ると左へと曲がる。
広場奥には壁に囲まれた大きな建物があった。
「あれがサマンサのいるこの街の役所だ。んで、ここを曲がってしばらくしたら市場だぜ。」
アサヒ達が視界に入る光景をつぶさに観察しているとゴメスが声を上げた。
「さぁ着いたぞ!この町で一番デカい市場だ。ここなら大抵なんでも揃うはずだ。」
ゴメスの言う通り、市場の入り口からは沢山の商店が立ち並んでいるのが見えた。中央通りであろう大きな道には露店も立ち並んでいた。
そしてズーと荷車は市場に併設された広場に止まる。
「ご苦労さん。小一時間で戻るからまた頼むな。」
「はいよ。」
ゴメスが御者に話すと一行は荷車から降り中央通りへと向かった。
市場は休日の朝には沢山の買い物客がいるのだが平日の昼過ぎということもあり、ほどほどの人達がそれぞれの店で目当ての品を選んでいるのだった。
「俺は夕食と明日の分の買い出しをしてえんだが荷物持ちに付き合ってくれないか。」
「もちろんお手伝いしますよ。」
「ところで、せっかく来たんだしお前達も欲しいものがあったら買っていけばどうだ。金は持ってんだろ?」
「あっ!この国の通貨って何ですか?」
「ヴァル・キルマに限らず、大概のとこは金貨と銀貨だぜ。あとはクライスの純金貨くらいだが庶民は滅多に見る事はねぇな。」
「これって使えませんよね?」
ゴメスの問いに、アサヒは財布から紙幣を出した。
「なんだこの紙?お前らの国はこれが金なのか。ここじゃ間違いなく使えねぇぞ。こんなの出したらぶっとばされるな。」
「電子マネーはもちろんダメっスよね?」
「当たり前だろ。」
ピーターの問いにはアルが答えるのだった。




