不思議な世界
修正版です。
アサヒ達は支配人室に到着すると扉をノックした。
「コン、コン、コン、」
「すいません、ゴメスさん居ますか?アサヒです。」
扉が開くとそこにゴメスの姿はなく、代わりに優しそうな顔の女性が出迎えるのだった。
「どうぞお入り下さい。あいにくゴメスは仕事中で厨房におりますので御用は私が承りますね。」
女性はゴメスの妻でアンナといい、この宿の切り盛りを一緒にしているのだ。もちろんアサヒたちの事も承知しており、サマンサからの申し入れもあり彼らの助けになる様に言伝られていた。
「お仕事中にすいません。あの、この街と国の話が聞きたいんですけど今って大丈夫ですか?」
「もちろん大丈夫ですよ。ちょっと片付けを終わらせますから、そちらに掛けてお待ちくださいな。」
アンナは部屋にアサヒ達を招き入れると、そそくさと仕事を片付けるのだった。
部屋に案内されたアサヒ達は、それぞれソファに座り待つことにした。
「アサヒさん。あそこの壁を見て下さい。」
「地図か…、おそらくこの街だな。」
部屋の壁には観光客用だろうか小冊子に書いてある様な簡易の地図が張ってあった。
「北側に役所で、西に市場で東はなんだろ?それと南に商店街で、あの丸が付けてあるのがこの宿みたいだな。」
アサヒが座りながら見ていると、アルが壁の近くに行き地図を眺めるのだった。
「クバルか…、聞いた事ないよな…。」
「お待たせしました。で、ご用件は街と国の事でしたわね。」
地図を眺めているとアンナが片付けを終わらせアサヒ達の下へ来ると、この街と国の事を説明するのだった。
「とりあえずアサヒさん達はこちらの国は初めてでしたよね。まずはこの街からお話ししますね。この街はクバルと言って、ヴァル・キルマ王国の中では商業中心の街になります。南から農作物や畜産品、そして北からは発掘品から作った工業製品が集まって王都キルマーなどへの中継で栄えた街なんですよ。」
このチェロキー大陸は、クバルを中心に南に農業の盛んなファムと畜産の盛んなターキーがあり、北にある大森林はシンブと呼ばれ多くの発掘場と隣接してハーレーがあるのだとアンナは説明をしてくれた。
「シンブにはたくさんの発掘者がいて、その数は王都と同じかそれ以上と言われております。正にこの国の基幹産業なんですよ。」
王都キルマーは大陸の東海岸沿いにあり国王の居城もそこにあるのだった。
そして一通りの説明を聞き終えたアサヒは街の案内を頼むのだった。
「なるほど、ご丁寧な説明ありがとうございました。クバルは比較的発展した街なんですね。詳しく街を知りたいので案内とかってお願いできますかね?」
「分かりました。では昼食後なら時間もありますので主人に案内をさせる様に手配しますね。」
「すいません助かります。色々とありがとうございます。」
アンナから話しを聞き終えたアサヒ達はラノの様子を見に部屋に向かう。
「お〜い、ラノ生きてるか〜?」
アルが扉を開くと中にはニコルとラノがおり、ラノは頭に包帯を巻き垂れ下がった眉と相まって非常に情けない姿をさらしていた。
そしてニコルはそんなラノに朝食を細かくちぎり介抱をしていた。
「おいおい、けっこうボコられたなおっさん。つっても大袈裟だろ?ニコルもそんなに甘やかしちゃダメだろ。」
アルもその姿を見て同情した様子だったが、ニコルに甘えるラノに不機嫌そうな表情を浮べるのだった。
「まだあちこち痛むんですよ。アイツらいきなり襲ってきやがって、しかも訳の分からない事を言ってたんですよ。」
ピーターが不思議そうに訊ねると、ラノは襲われた時の事を話すのだった。
「何言われたんスか?」
「魔王の手下だとか人攫いだとか…、ゴーレム使いは誰だっ!って言われて剣で脅されたんですよ。」
「コソ泥顔だからな。おっさんは、」
「またそんな事言ってー、怪我してるんだからあんまり言っちゃダメですよ。」
馬鹿な事を言ってると呆れた顔のアルにニコルは渋い顔を向けた。しかしラノの言葉にアサヒは反応するのだった。
「そうなんだよ。さっきも魔王って言ってたんだよ。」
「聞き間違いじゃないんスか?」
アサヒにピーターが答える。
「いや、ライドスーツの事もゴーレムとか呼んでたし…。」
「あの…、」
言い淀むアサヒにニコルが真面目な表情で話しかける。
「そうなんですよ。私もアコさんやゴメスさんの話に出てくる魔王が気になってたんですけど、まだちゃんと聞けてないんですよ。」
「それと色々と分からないから私達の事もちゃんと話せなくて、だから近くの町に向かう途中で道に迷ってる程度にしか伝えてないんです。」
ニコルもアサヒやラノと同じくこの世界の住人の話に違和感を覚えていたのだ。
「ライドスーツをゴーレムって呼んでたし、みんないい人で色々してくれるんですけど、なんか変なんですよー。」
ニコルの話しにアルも怪訝な表情を浮べる。しかし何か思い出した様な顔でニコルに訊ねた。
「あっ!ライドスーツって今どこにあるんだ?」
「さすがに運べなかったからあそこに置いてきましたよー。」
「まぁ盗まれることも無さそうだし、そのうち取りにいけばいいか…。」
「まぁとりあえずそんな事より、この国って言うかこの世界って色々とおかしくないか?」
二人の会話にアサヒが割り込み、話しを続ける。
「言われてみれば確かにそうっスね。ゴメスさんやサマンサさんの服もだけど、俺らのと全然違うし、なんかおとぎ話とか昔話みたいな雰囲気だしな…。」
「まだ街を見てないからなんとも言えないけど、この宿だって作りが今風とは言えないだろ?とにかく色々と分かるまでは、こっちの情報は隠した方がいいかもな。俺が話すから皆んなもそれに合わせる様にしてくれ。」
食堂での会議でJ達の暴走でうやむやになった今後の方針を決めたアサヒは現状把握ができるまではこちらの情報はなるべく伏せておく事にするのだった。そしてアンナから聞いた話をニコルに伝え、今からの行動について話すのだった。
そして一通りの話しを終えたその時、ドアがノックされゴメスが部屋に入って来るのだった。
「お前らここに居たか。昼メシが終わったら町の案内してやるからな。」
一言言ってゴメスは部屋を出る。そして朝と同じ部屋に案内されたアサヒ達の目の前にはテーブルに並べられ美味しそうな匂いをさせた料理が待ち構えていた。
「おぉ、うまっそぉ!!」
アルやピーターがテーブルの料理に感動して声を上げる。
「さっきアンナさんに聞いたんですが、厨房で仕事ってことはゴメスさんは料理を作ってるんですか?」
「おう、宿はアンナに切り盛りしてもらってオレはメシを作ってんだ。」
「せっかくなんで温かいうちにいだだきましょー。」
満面の笑顔のニコルが待ちきれないと声を上げると皆一斉に料理に手を出すのだった。
「「いただきまーす!」」
ゴメスの厳つい見た目とは裏腹に色とりどりに盛り付けられた食事は、めまぐるしく流転した数日を過ごした彼らに久々の安息を与えた。
人生の営みの中で仲間や家族と食卓を囲むという行為は心の安定と幸福をもたらすのだ。それはアサヒたちも同様で美味しい料理を皆で囲み食べる事でこの不思議な世界でもくつろぎの時間を持つことができたのだった。
「美味しー!」
「ヤバいっス!鬼うまっス!!」
「ゴメスさん見事ですね。どこかで修行してたんですか?」
「おう、宮廷料理人を十年ばかりな。」
「宮廷って偉い人にごはん出してたって事ですよね?すご〜い!!」
「すげぇだろ?結構やるんだぜ。そんでだ、昼からだけどまずは市場に行くつもりなんだがな。ちょっとばかし遠いんで乗り物を用意するわ。」
ゴメスはそうアサヒ達に告げると部屋を出て行くのだった。
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