ACF
修正版です
アル達が交戦状態の港を脱出した頃、襲撃者たちの母艦は資源と電力供給用コロニーの陰に潜んでいた。工業コロニー郡の密集したこの宙域には生産用資源衛星と電力の確保の為にこの様なコロニーがいくつもあり、その一つがすでに襲撃者によって制圧されていたのだった。
「あ〜あ、だりぃなぁ。今回は後方待機かよ。」
襲撃者の母艦では長髪に無精髭、そして顔に大きな傷痕のある男がメインデッキのスクリーンに映し出された戦闘中のコロニーを見ながら周囲の目も気にせずにぼやいていた。
「何が出てくるかわからん以上主力は温存しておきたいのでな。貴様には連合の新兵器の奪取という大仕事が控えておる。それと与えた新型があるんだ。もう暫く我慢しておれ。」
「へぇへぇ。」
デッキ中央にあるキャプテンシートに座っていた男が、顔に傷のある男のぼやきに答えると、傷の男は手をひらひらと振り軽口で応えた。
キャプテンシートの傍に立っていた副官らしき男は、その態度に苦々しい表情を浮かべ語気を強めに言い放つ。
「貴様は自分の仕事をこなす事に集中しろっ!さっさと船に戻って待機しておればよい!」
「了解であります上官どの!」
顔に傷の男は大袈裟に挙手敬礼し踵を返すと、せせら笑いを浮かべ無重力の中空に身体を浮かすとそのまま扉のむこうへと姿を消しメインデッキを後にしていった。
その後ろ姿を不愉快な顔を隠さず睨みつけ見送った副官が上官の男に怪訝な顔で訊ねる。
「ファン大佐殿、何故にあの様なテロリスト上がりをお使いになるのですか?」
「まぁ腕は立つからな。うちの正規軍でヤツと互角にやれる者は少ないだろう。それに、いざとなれば我々の盾になってもらえばいいだけの話だ。」
「は!」
副官は上官の返答に背筋を伸ばし渋顔で短く応えるとそれ以上は訊ねる事はしなかった。
「にしてもだ。ヤツらはまだ自分たちが世界の中心だと思っておる様だな。旧世紀から何一つ変わっておらん。それにTTCにしても同じアジアの同胞だというのにわれわれACFにも加わらず、いつまでも連合なんぞに尻尾を振りおって…。」
「まことに情けない事です。」
「世界はとうの昔に変わったのだよ。その事実を受け入れる事が出来ぬなら理解らせるだけの事、超重粒子加速砲など情報は筒抜けなのだ。」
「出る杭は打つ、という事でありますな。」
「ふん、二度と出てこぬ様に徹底的にな。」
ファンはスクリーンに現れた新兵器搭載艦を眺めながら不敵な笑みを浮かべるのだった。
そしてその頃、戦闘宙域と化した港をなんとかくぐり抜けたフェイロンは、未だ戦闘の光が煌めく港を背に近隣のコロニーに進路を向け進んでいた。そんなフェイロンに所属不明機からの通信が入る。
「こちらアサヒ!アル、みんな無事か!?」
「アサヒさん!今んとこ皆んな大丈夫です!オレらは隣のコロニーに向かってます。どこにいるんです!?」
「お前達とは反対の軍港を出たとこだ。OKフェイロンの位置はわかった。こっちの機体識別を送る十分後に合流するぞ。」
「おい、J確認頼む。」
「え、これって連合の識別じゃないですか。何をしているんです?アサヒさん」
「説明はあとだ。とにかく無理はするな。合流するまでうまく逃げてくれ。」
アサヒからの連絡を受けクルー達は一様に安堵の表情を浮かべるのだった。しかし彼らが向かう先では、隠れていた襲撃者の母艦がゆっくりとその姿を表し戦場に向けて動き出していたのだ。
「さて先遣隊は上手くやったようだな。例の新兵器搭載艦も燻り出した。あとはヤツらがきちんと仕事をこなすかだな。」
「腕は確かなようですが、やはり忠誠心に疑問があります。大丈夫でしょうか?」
襲撃者の母艦では副官が未だに懐疑的な面持ちでモニターに映る戦場を見つめていた。
「貴様、ヤツの名前を知っておるか?」
「いいえ、存じておりません。」
「ジーニィ・イーサ・シャルターナ。中東の王族のファミリーネームがシャルターナだったはずだがな。」
「では、元王族だとおっしゃるのですか?」
「さぁな。偽名かもしれぬが連合とは因縁浅からぬ仲ではあるのだろうな。」
「では、その点では利害の一致はあると言う事でしょうか…。」
「ふふん、お互い利用すればよかろう。さてそろそろ我等も始めるとするか。」
「は!各隊すでに出撃準備出来ております。」
副官は待っていたとばかりに返事を返すのだった。
「よし、出せ。」
「はっ!各小隊出撃!」
副官が命令を下すと、ブリッジの管制官が復唱し着艦デッキのクルー達に通達される。
既に出撃準備の整っていたアームズ達がカタパルトから射出され順次発艦する。重武装された無骨なアームズたちが母艦の両サイドから次々と撃ち出されると隊列を組んでいった。そしてその後を追う様に僚艦からの小隊が発射されていった。
「やっと出番だぜ。威勢のいいヤツはいるかぁ?出撃準備はいいぞっと。ジン、マナート出るぜ!!」
何隻かいる僚艦の中から他と違うシルエットのアームズが出撃するのがモニターに映し出される。
その流線型のボディは獲物を狩るネコ科のしなやかさと獰猛さを体現するかの様で、全高に匹敵する大きさのブースターを背負った姿を虚空に疾らせる。そしてバイザーに妖しい光を灯し獲物を狙うのだった。
短いカタパルトから射出されたその機体は、続いて射出された僚機と共にまるで踊る様に他の隊列の前に出ると群れをなして狩りをする獣の如く、そして重武装のアームズとは比較にならない加速で獲物がいる戦場へと漆黒の宇宙を駆け抜けていった。
「さて、上手くやってみせろよジーニィ。」
モニター上ではすでに小さくなったマナート三機を見つめながらファンが呟くのだった。
襲撃者の母艦がコロニーに向け移動を開始しアームズ達が展開した頃、フェイロンはアサヒとの合流を待ちながら逃げていた。
「危険宙域は抜けたみたいだな。軍の船も出てきてるし、後はアサヒさんだな。」
「ねえアル、レーダー見て!所属不明機三機かなり早いです!アームズ!?」
「距離は!?」
「30km切りました!更に後ろにも反応あります!大部隊!!」
「不味いな転進逃げるぞ!!」
レーダーの中、驚異的な速さでフェイロンに迫り来る不明機。
そしてそのさらに後方にも部隊が展開しており、それはコロニー襲撃の仲間なのは明らかであった。
彼らは不運にも襲撃者の母艦の進路上にいたのだった。
先行していたジンのマナート部隊は、転進し逃げて来た航路を逆戻りするフェイロンを捕捉していた。
「隊長前方に民間機っス。昨日の報告であった逃げられた運送屋っスね。景気付けに落としますか?」
昨晩の海賊の襲撃は彼らの仲間によるもので、昨今頻繁していた海賊事件は今回のコロニー襲撃に関係しておりチェン運送は巻き込まれる形になってしまったのだった。
「おいオレたちの獲物は連合だ。民間人には手を出すな。」
「はい、すいません。」
「とはいえ、こんなとこウロチョロしてっと巻き込まれても文句は言えねぇけどな。」
急旋回し逃げるフェイロンのすぐ後方にはすでにアームズ達が追いつき、その射程圏にフェイロンを捉えていた。だがロックオンの警告が船内に鳴り響く事はなかった。
「やべえっ!追いつかれた!」
そしてジンを乗せた獣の群れは瞬く間にフェイロンに追いつくと、アルと船内にいたクルー達は攻撃を覚悟し恐怖に包まれる。
しかしマナート部隊は一瞥をくれただけでフェイロンの横をただ通り過ぎて行くのであった。
「なんだ?見逃してくれた……。」
フェイロンのブリッジからは遠ざかるアームズのブースターのプラズマ光が見えた。それと同時に見覚えのある【焔】の識別信号がレーダー上にマーキングされるのだった。
あと数話で宇宙編修正版が終わります。
初めての方、再読された方もありがとうございます。
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