勘違い姫の心の声。
私のことで、苦しまなくていいんですよ。
(僕は苦しんでなんかない)
ただ、好きな人の側で笑っていて、欲しいの。
(君が好きだ)
私はどんなコマにもなります。
(そんな事はやめてくれ)
あなたの笑顔を見るに、後どれくらいあの子に意地悪すればいい。
教科書は破った、足を引っ掛けた、スカートに水もかけた……もう、何も思いつかない。
あっ、そうだわ。
(何をする気だ、やめてくれ)
彼女の勘違いが加速する。
♢
執務室で月一の報告を騎士に受けていた。
「報告ご苦労様、また引き続きよろしく頼む」
「かしこまりました、殿下」
シンシアはまた懲りずに、男爵令嬢ーーリリアに可愛い意地悪をしたのか……彼女に付けた護衛騎士からの報告を聞き頭を抱えた。
僕はリリア嬢が好きではなく、君が好きなんだ。
なぜ、彼女には伝わらない。
もしかして、学園の入学祝いの舞踏会での事が原因か。
『君の髪飾りが綺麗だ』
『えっ、私の?』
(誰だ、この子は? 髪飾りなんて付けていないだろう? それに僕は君ではなくシアに言ったんだ……ん? シンシア?)
そんなに難しい顔をしてどうした。
あの舞踏会の日。僕の言った言葉がシアではなく。たまたま近くにいた、リリア嬢に言ったと思ったからか。
初めて会う令嬢にそんなこと言わないだろう。
何度も違うとシアに、伝えたのに聞いてくれない。
それともシンシアが足を出して、それを避けたリリア嬢が転びそうな所を助けたからか。それともシアが悪者にならないように、常に彼女を見ていたからなのか。
いつしか僕の隣にこなくなり、可愛い意地悪をリリア嬢にする。そして、シアの可愛い意地悪が、彼女ーーリリア嬢の口から数倍になって僕に聞かされた。
教科書が少し破けていただけて、あたかもすべての教科書が破かれたと。小さな意地悪がこうも大きく言えるものだと感心する。嘘をつくな。シアに気づかれない様に、護衛騎士を数名彼女につけている。
(……シア)
胸元のポケットから青い石が付いた、ペンダントを出して再生した。
『私、エドワード様が好き、婚約者になれて幸せです』
君の声をいつでも聞ける様にと……魔導具に録音した、婚約した頃の彼女の声。
1日一回は聞いている、自分が変態だと言われてもいい。彼女のーーいまのシンシアの生の声でこの言葉を聞きたい。
ボソッと呟けば側近が眼鏡を光らせて、書類を僕の机に置いた。
「遠慮せずに聞けばいいのですよ。シアはあなたの婚約者なのですから……でも、あなた様もリリアとか言う、男爵令嬢と学園内で一緒にいすぎではありませんか?」
「知るか、気がつくとあの子が隣にいるんだ。シンシアと話がしたい」
「エドワード殿下、私は屋敷でシアといつも話しておりますよ。はい、書類です」
「……ありがとう」
(なんだ、その挑発的な笑顔は。シアの五つ上の兄でーー僕の側近のハロルド。妹、大好き星人め、自慢か!)
羨ましすぎる!
「ずるいぞ、ハロルド。僕だって聴けるものなら聞きたい。シンシアが側に来ないんだ。いつも来てほしくない、リリア嬢ばかり来やがる」
手に力が入り、大切な書類がクシャげた。
「落ち着いてください、重要な書籍が破けます。それにエドワード殿下の言葉が子供の様にーー素に戻っておりますよ」
「うるさい、シンシア〜」
ハロルドは、ぐしゃぐしゃな書類に手をかざして、元の状態に戻した。ハロルドの魔法はいつ見ても凄い。
「この胸にシンシアを抱きしめたい、キスしたい」
その言葉に妹大好き星人ハロルドが眼鏡を光らせて反応する。彼は眼鏡をカチャッの人差し指で上げて。
「そんな事をして、シンシアを泣かせたら。いくらあなたでも許しませんからね」
周りが凍てつく。彼の氷属性の冷気が執務室の中に漏れだして、執務室の温度が一気に氷点下まで下がる。護衛の騎士は寒さでかなかなと震え出した。
火属性の僕には効かないが、騎士を守るために温かな体に火を灯す。それにハロルドには一言、言いたいことがある。
「彼女と僕は婚約者なんだから別にいいだろ! 僕はシンシアが好きなんだから」
いま何を思い、何を考えているのか彼女の全てを知りたい。
♢
次の日。学園の廊下でシンシアを見つけて、すかさず近寄った。
「シンシア嬢、おはよう」
「おはようございます、エドワード殿下」
いつ見ても綺麗な礼をするな、シンシア。
(可愛い、シア)
《今日はエド様に挨拶とお会いできたわ、嬉しい。エド様って、いつ見ても素敵ね》
エド様?
僕が素敵?
彼女は周りを気にして、ほっとした様子を見せた。
《よかった。今朝はエド様の近くにリリアさんがいないから、キツイ言い方をしなくていいわね》
シアが僕を見て、ふんわり微笑んだ。
久しぶりに見る、僕の好きなシアの笑顔だ。
「エドワード殿下、今日は良い天気ですね」
「そうだな」
《あーんもう。何を話そうか迷って、き、緊張して天気の話をしてしまったわ。どうする。この前に読んだ本の話し? あれはダメよ、濃い恋愛の本だったし、今日の授業? それじゃ面白くないわ。滅多にないことだから、欲張ってしまう》
なんだ、この声は?
シンシアから聞こえているのか?
「エドワード殿下?」
《そんなに見つめてどうされたの? まさか、朝食に食べた苺ジャムが口元に付いているのかしら?》
彼女は胸元から慌てて、ハンカチを出して口元を拭いた。
聞こえた声がシンクロした。
まさか、僕に彼女の心の声が聞こえているのか。
《エド様の悩む、その姿も素敵》
まて、僕に丸聞こえじゃないか。
王城に届ける緊急の書類がなければ、この後も彼女のこの声を聞きながら、一緒に過ごせたのに。
すぐにハロルドに渡して、戻って来よう。
「シンシア嬢、この書類を王城にいるハロルドに届けに行ってくるよ」
「お兄様に? お気をつけて向かいください。ごきげんよう、エドワード殿下」
《エド様と少しでもご一緒できて嬉しかった。お優しくて、素敵な人なのだもの。幸せになって欲しいわ。そうだ、今日のお昼休みテラスで作戦を練りながらお茶しましょう》
僕を幸せになって欲しい。作戦。シアはまた何かする気なのか……。
《エド様のために頑張るぞ!》
何かを密かに企む彼女を見送った。
♢
書類をハロルドに届けて、昼休みにテラスに行く前にリリア嬢に捕まった。
「エドワード様〜」
(……リリア嬢、会いたくなかったな)
彼女は男爵令嬢なのに他の貴族の長子、僕との距離が近過ぎるのではないか、婚約者でもないのに。
「エドワード様はどこに行っていたの、探したわ」
(僕が喋らなくても、いつも1人で喋っているよな)
「そうだ、エドワード様。テラスに新作のケーキを食べに行きましょうよ」
何が新作のケーキだよ……返事を返さず、歩きだすとテラスに移動すると思ったのか、彼女は当たり前なように着いてくる。
「待って、一緒にいきましょうよ」
そして当たり前のように、僕の腕に手を絡ませようとしたが阻止した。
「エドワード様?」
「着いてくるのなら勝手にすればいい」
「もう、照れなくてもいいのに」
シンシアじゃあるまい、君に照れるわけがない。しかし、この子は僕のすぐ横を歩き、テラスに着くまで1人で喋っていた。
(あ、シアだ)
彼女はテラスの奥の席に座り、じっと、苺のケーキを見ていた。近付くと彼女の声が聞こえた。
《これをどうすれば?》
その、ケーキをどうするの。
シアは、僕が近付いても気付かないくらい、ケーキに集中しているようだ。
「こんにちは、シンシア嬢もテラスにいたんだね」
声をかければシアはケーキから顔を上げた。
《エ、エド様、どうしてここに? あっ、リリアさんとお茶をしに来たのですね》
すっと、彼女は席を立ち会釈した。
「ごきげんよう。我らが若き太陽、エドワード殿下」
年上の大臣や宰相が僕に良く言うが……君の口から初めて聞いた。
《この前、王城で貴族の方が言っているのを聞いて、一度言ってみたかったの。エド様は私の太陽なお方だもの》
表情には出さないが声が弾んでいる。シアは『若き太陽』と言いたかったのか。それに僕が君の太陽だなんて照れる。
「ここは学園なんだ、そんなにかしこまらないでくれよ」
「は、はい」
《あっ、ぽーっとエド様を見つめていたわ。さあ、作戦をやるわよ》
シアは作戦をやると言い。すーっと息を吸い、ツンとした表情を浮かべて、もう一度頭を下げた。
「失礼いたしました、エドワード殿下。……でも、殿下はどうして側近も付けず、婚約者の私を誘うのでもなく、リリアさんと2人で来られなのですか?」
きりりとした瞳で、シアに見つめられた。
「彼女とは書類を王城に出して来た帰り。偶然、そこで会っただけだよ」
正直に言うと、隣にいたリリア嬢がくねくねして、上目遣いをした。
(うわぁ……)
「ひっどぉ〜い、エドワード様」
《エド様はこういうのがお好きなの? こう? それともこう?》
シアがやると可愛いが、それだけはやめて欲しい。上目遣いはぜひ、お願いしたい。
「わたしが新作のケーキが出たと言ったから、エドワード様が『一緒にテラスに行こ』って、リリアを誘ってくれたのに、嘘はダメですよ〜」
「はぁ〜」
こいつ勝手に着いてきた癖に、平気で嘘を言えるな。
《エド様がリリアさんをお誘いになったのですね……頑張るぞ。2人を仲良くさせる大作戦!》
僕とリリア嬢を仲良くするって⁉︎ シア、大きな勘違いだ。それより大作戦だと何をするきだ。
シアは扇子を胸元から出して、リリア嬢をさした。
《よし、悪役らしく言うわよ》
何を言うんだ、シア?
「リリアさん、いくら王族のエドワード殿下に誘われたからって、断りもせずに着いてくるのはおかしいですわ。彼には私という婚約者がいるのですよ。身分をわきまえなさい!」
「そんなぁ~ここは学園ですよ。生徒同士なんだし、身分なんて別にいいじゃありませんか」
「学園だから? 何をおっしゃっているのですか? あなたは舞踏会などの社交場でも、エドワード殿下、他の貴族方に馴れ馴れしく擦り寄っていると。その方たちの婚約者から聞きましたわ!」
「え〜馴れ馴れしくなんてしてません。みんながわたしに優しいだけでよね〜」
僕に同意を求めるように、パチンとウインクをした。
(はぁ、この子に言ってやりたい)
君に優しくしているのは一握りの浮気者の貴族だけだと。婚約者を愛する者は僕を含めてみんな迷惑がっていると。
でも僕が言うとこの子は泣き出して、周りに人が集まるわ、シアがまた悪者になってしまう。
《な、なんなの? いくら男爵令嬢だからって、リリアさんは全く貴族世界を理解していない。あなたが言い寄った男性は、婚約者がいる方ばかり……あ、彼女の言動にイライラしてしまいましたわ》
でも、シアの言う通りだと思う。婚約者というのは政略結婚もあるが、貴族ーー家同士が書類などを交わして決めた婚約。
相手がいるのに近寄る方がおかしい。
「やだぁ~シンシア様はわたしにエドワード様を取られて、悔しいのですね。嫉妬なんてみっともない」
挑発するように言い放ち。くすくす笑う、リリア嬢の姿に、シアは唇を噛んだ。
《なに、嫉妬してはダメなの? 我慢して聞いていれば好き放題言って!》
シアは我慢できなくなったのか声を上げた。
「「みっともないなんてありません。好きな方が自分ではなく、他の女性の方と一緒にいるのです。それを見て嫉妬する方もいます、何も言えず傷付く方がいることが、あなたにはわからないのですか?」」
言った後にシアはハッとした顔をして、扇子を広げて顔を隠した。
《しまったわ、ムキになってしまった。私はエド様の恋を応援したいのに……自分の気持ちが前に出してしまうなんて!》
ちょっとまで、僕の恋。まさかリリア嬢とくっ付けるために、シアは彼女をいじめているのか。
(僕が好きなのは、シアが好きなんだぞ!)
「だからって、わたしのこといじめるは酷いですよね~エドワード様」
リリア嬢は僕に同意を求める視線を送った。
この際、周りなんてどうでもいい。
はっきりさせようと、自分の気持ちを言葉にした。
「いじめるはいけないが。リリア嬢がいろんな男性に言いよるからではないのかな? シンシアも僕の気持ちが知りたいのなら、直接、僕に聞きなさい」
「……っ」
《シンシアですって⁉︎ エ、エド様が、私のことをシ、シンシアと呼び捨てで呼んだわ! それに、エド様の気持ちを聞け? 彼はリリアさんが好きなのではないの?》
(どこで、そんな勘違いをしたんだ?)
彼女がじわじわ、頬を耳を体を赤く染めていくのが、目に見えて分かった。
(僕を見ず、勘違いをした君に少し意地悪しよう)
「シア、顔が赤いけど、どうしたの?」
《か、顔が赤い⁉︎》
扇子で顔だけ隠しても、身体中が真っ赤だよ。
ほんとに君は可愛いなぁ。
♢
「な、なんで?」
僕の言葉を受けてか、リリア嬢は怒りで顔を赤くさせた。
「エドワード様はわたしのことが好きじゃないの? 髪飾りを褒めたり、いじめを庇ってくれたり、学園で私を見ていたりしたじゃない!」
「紛らわしいことをしたのは謝る。あの舞踏会はシンシアの髪飾りを褒めたんだ。いじめだって君の行いが自ら引き起こした。僕はシアにいじめを辞めさせたかった。それに、リリア嬢を僕から誘ったことは1度もない」
言い切ると、リリア嬢は体をプルプルさせた。
「おかしい、わたしは誰からも愛されるヒロインなの、主役なの……なのに、こんなのっておかしい! 小説の通りに行動したのにフラグが立っていないなんて! もう、邪魔よどいて!」
(小説?)
「きゃっ」
「シンシア!」
リリア嬢はシアを押しのけて走り去っていった。彼女は他の婚約者たぶらかしたり、学園の風紀を壊すな。これを機に学園から追い出したい。
(いや、いまはそれより)
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですわ。エドワード殿下」
シアはリリア嬢に押されて、苺ケーキに顔から突っ込んでいた。しかし、シアは顔に付いたケーキよりも、頭の中は僕とリリア嬢のことでいっぱいの様だ。
《リリアさんはエド様に好きだって言われた、とか。舞踏会のエスコートしたいだって、リリアさんとダンスを1番に踊りたいとか、抱きしめて離してくれないのとか、エド様から側に来るって、言っていたのは……全部、彼女の嘘?》
(全部、嘘だね)
真っ直ぐで正直なシア。リリア嬢はそんな彼女に嘘偽りを言っていたのか……。それを信じて、シアは僕の幸せを祈り、可愛い意地悪をしていたのか……
シア、らしいな。
「行くよ、シア」
《えっ、シア?》
「あ、あの何処に?」
「僕の休憩室さ、人払いをしてくれ!」
「エドワード殿下、かしこまりました」
近くにいた護衛騎士を呼びつけて、僕はシアの手を握り、テラスから移動した。
♢
ケーキまみれの彼女を、僕だけの休憩室に連れてきた。いまはシアを横抱きに抱きしめてソファーに座っている。
《こ、この格好……嬉しいけど、恥ずかしい》
(照れて、真っ赤だな)
しばらく、シアを抱きしめた。
落ち着いて来たのか。
「あ、あの、エドワード殿下」
「エドだ、そう呼ばないと返事しない」
《えっ、えぇ。心の中でならエド様と呼べるけど、言葉を出して呼ぶのは勇気がいるわ》
「シア、呼んでくれないと」
ペロッ。
《きゃっ、エド様が頬を舐めたわ》
「おやめください、エドワード殿下」
「また呼んだな。顔についたケーキを舐めてやる」
「汚いですから、おやめください!」
止めようとする彼女を無視して、ぺろ、ぺろとシアのケーキを舐めた。真っ赤な彼女をもっと見たくなり。彼女を抱き上げてソファーで向き合う形で座った。
《嘘、エド様ぁ~》
「ほんとうに、こんなことはおやめください」
照れて、涙目のシア。
うん、可愛いな。
(あっ、ヤッベェ〜)
《きゃっ、な、なに? お尻の下に固いものが当たったわ? これは何?》
ごめん、シア。好きな子を触っているんだ、男って、そう、なるよな。
「エドワード殿下」
「エドだよ、シア」
困った顔もいいな。
これは癖になりそうだ。
《エド、エドさま……》
「エドって呼んで、シア」
《……ううっ》
「エド様」
呼ばれた瞬間、ぶわっと何かが湧き出た。
シアを好きで、愛してる僕しかいなくなった。
「シア、好きだ」
我慢できず彼女の唇を奪った。シアの瞳がこれほどかってくらい大きく見開かれて、そして微笑んだ。
《エド様と、キ、キスしたわ。……嬉しい》
「私もエド様が好き、大好き」
もう一回キスしようとしたが。
「「はい!! エドワード殿下、シア、これ以上はアウトです!」」
「お、お兄様⁉︎」
「ハロルド!」
シアが僕を抱きしめようとした手が離れていく、ハロルドーー貴様はいつからそこにいたんだよ。
「まったく、書類の不備で学園に来てみれば……仲がいいのは良い事ですが、くっつき過ぎです。私のシアが汚れます、殿下は汚す気ですか!」
「汚すか!」
「汚れます! エドワード殿下は既に我慢できないところまで、きていますよね」
「なっ……そ、それは、そうだが」
「何処がですか?」
どこって、シアに言えるか!
「いや」
「シンシアは気にしなくて、いいんですよ」
《まさか私が、エド様に何かしてしまったの?》
したにはしたが、これは仕方がない好きなシアと、キスして密着したんだ。
「シア、ここは兄の私に任せて書庫で待っていなさい。一緒に帰りましょう」
《お兄様と一緒!》
「仕事はいいのですか?」
「えぇ、この書類が終われば今日の分は終わっていますからね、エドワード殿下?」
ハロルドの視線が怖い。
「あぁ、終わっているよ」
そう告げると、嬉しそうに書庫に行くシアを見送った。
「エドワード殿下、立てますか?」
「自分で立てる! はぁ……シア、可愛かった」
僕はハロルドに見送られながら、休憩室の化粧室に向かった。
♢
1ヶ月後。僕は執務室で頭を抱えていた。
「そうなるか~」
「なりましたね」
リリア嬢の処分はまだ誰にも被害が出ていないと、彼女は学園に残ることになった。
「しかし、あの令嬢も懲りないな……頭痛がするよ」
「そう、ですね」
はぁーーと、重い空気を吐いたハロルド。
「お前も、狩人のリリア嬢に言い寄られてるんだって?」
眼鏡を上げながら頷く。リリア嬢は手当たり次第、婚約者持ちではなく。独り身の貴族に、色目を使うようになったと報告が上がっていた。
「学園に書類を運ぶだけなのに、あの令嬢に見つかると後ろを着いて回るんですよ。かなりのしつこさです」
「そんなに嫌なら早く婚約者を作れよ。そしたら、言い寄られなくなるだろ?」
「嫌です。まだ、シアと一緒にいたい」
「お前は……」
妹大好き星人だな……まぁ、わからないでもないけど。
互いのため息が同時に出た時。
コンコンと執務室の扉が鳴り、ハロルドが扉を開けた。
顔を覗かせたのはシアだ。
「エド様、お兄様、サンドイッチを作ってきたのですが、ご一緒に食べませんか?」
「食べる、庭園に行こう!」
「では、私はお茶の準備をしてきますね。シア、エドワード殿下と先に庭園に行ってなさい」
「はーい、エド様行きましょう」
「あぁ、行こうか」
手を出すと、シアは照れながら手を組む。
その僕にシアの心の声はもう聞こえない。
どうして聞こえなくなったって?
(それは、どうしてかはわからない)
ただ、僕がシアに送った髪飾りについていた石が【願い石】と言って願い事を叶える石だっと、調べさせた城の魔導師に報告を受けた。
聞こえなくなったのは、僕かシアの願いが叶ったからだろう。
僕としてはシアの心の声をもう少し聞きたかった。あんなに可愛い心の声はないよな。
「シア、サンドイッチはなんだい?」
「今日はエド様の好きな、サンドイッチにしたんですよ」
「それは楽しみだな」
いま、シアは僕の側にいて。
僕に好きだと言ってくれるから、いいっか。