恐るべき真実 2
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私は十一らしき人物を探すため、積み荷の陰に隠れて移動している。鷹束の管理する倉庫なら、私を知る者に会うかもしれない。叔父の息のかかった人物に見つかれば、即座に捕まり研究所に戻されてしまう、と考えて。
彼と別れて十年が経つ。
十一は背が伸び、大人っぽくなっているだろう。会ってもすぐにわからないかもしれないが、横に三つ並んだ特徴的なほくろがあるので、見つけられる自信はあった。
背の高いすらっとした男性の中に、彼の面影を残す者はいない。中肉中背の男性にも、ほくろはなかった。
夕刻になり、倉庫内の人影はまばらだ。
真っ暗になれば見えなくなるから、急がないといけない。人気のない倉庫に移動した私は、ぽつんと佇む人影を見つけた。いっそ関係者を訪ねたフリをして、あの人に彼のことを聞いてみようか?
人との接触は最小限に抑えること。
「知らない」と言われたら、深く尋ねないこと。
その二点を自分に言い聞かせ、私は太った白髪の男性に近づいた。
「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが……」
男が振り向く。
肩の下まで伸びた白髪と横に広がる大きな身体、垂れた顎のせいで首はほとんど見えないが、年は意外に若そうだ。白く濁った目は、陶器のようにも見える。
「ええっと。私、人を探していて……」
その瞬間、男の目が突然険しくなった。
「侵入者発見、侵入者発見。直ちに排除します」
「……え!?」
体格に不似合いな、機械的で甲高い声。
目を丸くした私の首元に、男の太い腕が伸ばされる。
「待ってください。あの、怪しい者ではなくて……」
慌てて飛び退く私に、男が繰り返す。
「侵入者発見、侵入者発見。直ちに排除します」
男の動きは鈍く、躱すのは容易い。私は逃げることに専念し、出口を目指す。
「しまった! 行き止まり……」
焦っていたせいで、方角を間違えたらしい。
積み荷に遮られ、私は立ち止まる。
そこへ、男の拳が飛んできた。
バキッッ
とっさにしゃがんだため、拳は背後の木箱を砕いたようだ。木片がパラパラと頭の上に降ってくる。
まさか――。
この人も、身体を薬で強化されている?
「排除します」
「待って、話を聞い……」
再び繰り出された拳を、私は間一髪のところで避けた。別の木箱が粉々になり、銃の台座が顔を覗かせる。
「ここは……武器の保管庫!?」
だから侵入者を破壊するよう、命じられているの?
男は本気だ。
それなら私も、遠慮している場合ではない。
私の力は緊張すると現われる。すなわち、鼓動が早まることで、身体が強く硬くなっていくのだ。
走り回って脈が上がった今なら、きっと大丈夫。
「侵入者、排除します」
「させませんっ!」
伸びてきた男の拳を、両手でまともに受け止めた。研究所では薬を投与されるだけでなく、素手での戦い方も学んだ。
「……?」
太った男が、初めて動揺の色を浮かべる。
私に掴まえられた手を、動かせないせいだ。
振りほどくことすらできないため、戸惑っているみたい。
「私、ここで倒れるわけにはいかないんです。ごめんなさい」
「んぎぎぎぎ…………」
男の額に汗が浮かぶ。
どうやら力は、私の方が上のよう。
私は彼の拳を片手に持ち直し、次の攻撃に備えた。
「排除します」
予想通り反対側の拳が飛んできたので、こちらは片手で掴まえる。
向かい合い、両手を組む私達。
目線の位置はほぼ同じ。
彼の瞳は……金色だ!
長く薬を投与された結果、私は大きな力を使うと瞳の色が金に変わる。彼も私と同じく、研究所の出身らしい。
「ぐぎぎぎぎ」
「あなたはいったい……」
話しかけようとした途端、彼が頭を大きく反らす。頭突きをしようとしているのだと悟り、私はとっさに手を放す。
「排除!」
案の定、さっきまで私の頭があったところに男の頭が振り下ろされた。勢い余って別の木箱にぶつけたらしく、砕けた木片が飛び散っていく。
男がゆっくり起き上がる。
こめかみが傷つき、血が出ているようだ。
その赤の行き着く先は――。
「……っ!!」
私は驚き息を呑む。
男の長い髪は乱れ、頬が露出している。血の赤が伝うのは、横に三つ並んだほくろの中央――。
「そんな…………」
「排除します」
思わず声を漏らした私を無視し、彼が大きく腕を引く。
次の瞬間、彼の拳は私のお腹にまともに当たった。
「がっ……」
大きく吹っ飛ばされて、背中が遠くの柱に当たる。それなのに、私の身体には傷一つついていなかった。平気な自分がほんの少し恨めしい。
『化け物だ』
『いや、化け物というより兵器だな』
研究所で罵られるたび、心が折れそうになる。
そんな私にとって、彼の言葉は外の世界への「希望」そのものだった。
『十四、俺はいつかきっとここを出る。自由を手に入れるんだ!』
嬉しそうに語った本人が、どうしてこんな姿に――?
「……十一!」
声を限りに叫んでも、彼は動きを止めない。
「十一、十四よ。思い出して!」
「排除します、排除します」
「お願い、十一!」
何度呼びかけてもダメだった。
同じ言葉を繰り返し、侵入者を攻撃するだけの十一。
なぜこうなったのかと、回らない頭で考える私。
その時ふと恐ろしい答えが浮かび、みるみる血の気が引いていく。
――実験が失敗したせいで、十一は外に出られたの!?