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忘れられた令嬢は空の瞳に恋をする  作者: きゃる
第二章 切り離せない過去
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恐るべき真実 2

 ◇◆◇


 私は十一(といち)らしき人物を探すため、積み荷の陰に隠れて移動している。鷹束(たかつか)の管理する倉庫なら、私を知る者に会うかもしれない。叔父の息のかかった人物に見つかれば、即座に捕まり研究所に戻されてしまう、と考えて。


 彼と別れて十年が経つ。

 十一は背が伸び、大人っぽくなっているだろう。会ってもすぐにわからないかもしれないが、横に三つ並んだ特徴的なほくろがあるので、見つけられる自信はあった。


 背の高いすらっとした男性の中に、彼の面影を残す者はいない。中肉中背の男性にも、ほくろはなかった。


 夕刻になり、倉庫内の人影はまばらだ。

 真っ暗になれば見えなくなるから、急がないといけない。人気(ひとけ)のない倉庫に移動した私は、ぽつんと(たたず)む人影を見つけた。いっそ関係者を訪ねたフリをして、あの人に彼のことを聞いてみようか?


 人との接触は最小限に抑えること。

「知らない」と言われたら、深く(たず)ねないこと。

 

 その二点を自分に言い聞かせ、私は太った白髪の男性に近づいた。


「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが……」


 男が振り向く。

 肩の下まで伸びた白髪と横に広がる大きな身体、垂れた(あご)のせいで首はほとんど見えないが、年は意外に若そうだ。白く(にご)った目は、陶器のようにも見える。


「ええっと。私、人を探していて……」


 その瞬間、男の目が突然(けわ)しくなった。


「侵入者発見、侵入者発見。(ただ)ちに排除します」

「……え!?」


 体格に不似合いな、機械的で甲高い声。

 目を丸くした私の首元に、男の太い腕が伸ばされる。


「待ってください。あの、怪しい者ではなくて……」


 慌てて飛び退()く私に、男が繰り返す。


「侵入者発見、侵入者発見。直ちに排除します」


 男の動きは(にぶ)く、(かわ)すのは容易(たやす)い。私は逃げることに専念し、出口を目指す。


「しまった! 行き止まり……」


 焦っていたせいで、方角を間違えたらしい。

 積み荷に(さえぎ)られ、私は立ち止まる。

 そこへ、男の(こぶし)が飛んできた。


 バキッッ


 とっさにしゃがんだため、拳は背後の木箱を(くだ)いたようだ。木片がパラパラと頭の上に降ってくる。


 まさか――。

 この人も、身体を薬で強化されている?


「排除します」

「待って、話を聞い……」


 再び繰り出された拳を、私は間一髪のところで()けた。別の木箱が粉々になり、銃の台座が顔を(のぞ)かせる。


「ここは……武器の保管庫!?」


 だから侵入者を破壊するよう、命じられているの?


 男は本気だ。

 それなら私も、遠慮している場合ではない。

 私の力は緊張すると現われる。すなわち、鼓動が早まることで、身体が強く硬くなっていくのだ。

 走り回って脈が上がった今なら、きっと大丈夫。


「侵入者、排除します」

「させませんっ!」


 伸びてきた男の拳を、両手でまともに受け止めた。研究所では薬を投与されるだけでなく、素手での戦い方も学んだ。


「……?」


 太った男が、初めて動揺の色を浮かべる。

 私に掴まえられた手を、動かせないせいだ。

 振りほどくことすらできないため、戸惑っているみたい。


「私、ここで倒れるわけにはいかないんです。ごめんなさい」

「んぎぎぎぎ…………」


 男の(ひたい)に汗が浮かぶ。

 どうやら力は、私の方が上のよう。

 私は彼の拳を片手に持ち直し、次の攻撃に備えた。


「排除します」


 予想通り反対側の拳が飛んできたので、こちらは片手で掴まえる。

 向かい合い、両手を組む私達。

 目線の位置はほぼ同じ。

 彼の瞳は……金色だ! 


 長く薬を投与された結果、私は大きな力を使うと瞳の色が金に変わる。彼も私と同じく、研究所の出身らしい。


「ぐぎぎぎぎ」

「あなたはいったい……」


 話しかけようとした途端、彼が頭を大きく反らす。頭突きをしようとしているのだと悟り、私はとっさに手を放す。


「排除!」


 案の定、さっきまで私の頭があったところに男の頭が振り下ろされた。勢い余って別の木箱にぶつけたらしく、砕けた木片が飛び散っていく。

 男がゆっくり起き上がる。

 こめかみが傷つき、血が出ているようだ。

 その赤の行き着く先は――。




「……っ!!」


 私は驚き息を呑む。

 男の長い髪は乱れ、頬が露出している。血の赤が伝うのは、横に三つ並んだほくろの中央――。


「そんな…………」

「排除します」


 思わず声を漏らした私を無視し、彼が大きく腕を引く。

 次の瞬間、彼の拳は私のお腹にまともに当たった。


「がっ……」


 大きく吹っ飛ばされて、背中が遠くの柱に当たる。それなのに、私の身体には傷一つついていなかった。平気な自分がほんの少し恨めしい。


『化け物だ』

『いや、化け物というより兵器だな』


 研究所で(ののし)られるたび、心が折れそうになる。

 そんな私にとって、彼の言葉は外の世界への「希望」そのものだった。


『十四、俺はいつかきっとここを出る。自由を手に入れるんだ!』


 嬉しそうに語った本人が、どうしてこんな姿に――?


「……十一(といち)!」


 声を限りに叫んでも、彼は動きを止めない。


「十一、十四(とよ)よ。思い出して!」

「排除します、排除します」

「お願い、十一!」


 何度呼びかけてもダメだった。

 同じ言葉を繰り返し、侵入者を攻撃するだけの十一。

 なぜこうなったのかと、回らない頭で考える私。


 その時ふと恐ろしい答えが浮かび、みるみる血の気が引いていく。


 ――()()()()()()()()()()、十一は外に出られたの!?

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