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忘れられた令嬢は空の瞳に恋をする  作者: きゃる
第一章 幸せな今
1/7

看板娘は怪力娘?

シリアスに挑戦!

よろしくお願いしますm(__)m

 鳥のように空を飛べる翼がほしい。

 青い空を見ると、胸が締め付けられるように痛むのは、どうしてなのかしら?


鷹花(ようか)~、店のすだれを下ろしておいて。今日は日差しが(まぶ)しいから」

「はーい」


 夏の青空に浮かぶ白い雲。

 空を横切る鳥の群れ。

 ここでの生活に不満はないけれど、空を見ると感傷的になるのは、どうしてなのかしら?


 私の名前は鷹の花と書いて「ようか」。

 帝都にある人気カフェ『LUCK(ラック)MAY(メイ)館』で給仕として働いている。(はかま)姿が似合っているとか、真っ直ぐな黒髪と淡い茶の瞳や白い肌が可愛らしいとか。お客さんの()め言葉は大げさだから、もちろん真に受けてはいない。


 店長の芽衣子(めいこ)さんは、茶色のゆるふわ髪で着物の似合う美人さん。面倒見が良く、26歳の離婚経験者。このお店は、彼女が元の旦那さんからもらった慰謝料で開いたという話で……あわわ、内緒だった。


 店長には三つ下の樂斗(らくと)さんという弟がいて、姉弟仲はすごくいい。お店の名前は二人の名前を取って付けられた……と思ったら、芽衣子さんは違うと言う。


「LUCKは幸運で、MAYはあたし。要は、あたしが幸せになれればいいのよ」


 サバサバした性格の芽衣子さんは、いつでも明るく前を向いて生きている。だから私は、彼女を尊敬しているのだ。

 弟の樂斗さんは、官憲(かんけん)の仕事で今は不在。夜になれば戻って来るが、いろんな女の人が彼を見ると頬を染める。背が高く精悍(せいかん)な顔立ちの彼は、女性にかなりモテるのだとか。 


 自己紹介が少ないのは、私にはここで暮らす以前の記憶がないから。三年前、お店の前でボーっと立っていたところを樂斗さんに発見されて、保護された。今はここの二階に住み、公私ともに美貌の姉弟のお世話になっている。


鷹花(ようか)ちゃん、今日も可愛いね」

「あ、典雅(てんが)さん、いらっしゃいませ。いつものですか?」

「そう。芽衣子さんの()れるコーヒーは美味しいからね」

「たまには私が……」

「いや、無理しなくていいよ。鷹花ちゃんはいてくれるだけでいいんだ」

「それでは仕事になりません。ちゃんと淹れますよ?」

「大丈夫かなぁ」


 常連の典雅さん、なんだかちょっぴり失礼だ。


「おーい。鷹花ちゃーん。こっちも」

「はーい」


『LUCK―MAY館』は人気店で、午後はひと際混みあう。

 私は他の給仕とともにお客様からの注文を取り、お店の中へ。厨房(ちゅうぼう)では店長の芽衣子さんとお手伝いの方がコーヒーや紅茶を美味しく淹れたり、パンケーキをふんわり焼いたり。甘い香りに、私までお腹が空いてきたような。

 

「ふわあ~」


 ……ってダメダメ。仕事中だわ!


「ありがとうございました~」


 帰るお客を見送って、テーブルを片付けようとしたその時――。


「いけない! お客様、お怪我(けが)はございませんか?」


 持ち上げたお皿を割り、さらに落としてしまったのだ。慌てて謝るけれど、たまたま近くに人がいなくて良かった。それにしても、このお店のお皿はどうしてこんなに割れやすいのでしょう?


「鷹~花~、あんた、また~~」

「め、めめ、芽衣子さん! じゃなくって店長! すみません、わざとじゃないんです」

「それくらいわかっているわよ。お客様が怪我しないように片付けておいてね」

「はーい」

「もう、返事だけはいいんだから」


 苦笑しながら厨房に戻る芽衣子さん。

 その後姿に向かって常連さんが一言。


「美人だけど厳しいよな。大丈夫、俺はいつでも鷹花ちゃんの味方だよ」

「お気持ちは嬉しいのですが、芽衣子さんはとっても優しいですよ?」

「もっと優しくすればいいのに。鷹花ちゃんが来たおかげで、この店は繁盛しているはずだ。ほら、今日も君目当ての客でいっぱいだろ?」

「そんなことはありません。芽衣子さんのお料理が美味しいからです」

「いーや。誰がなんと言おうと、看板娘の鷹花ちゃんのおかげだ」


 他のお客様も(うな)ずくから、私は真っ赤になってうつむいた。なんだかお皿を割った時より恥ずかしい。


 ここの人達は、素性の知れない私を温かく受け入れてくれた。だから、少しでも役に立とうと思っているのに、毎日失敗ばかり。

 お掃除したら(ほうき)()を折ってしまうし、お料理を手伝おうとしたらまな板がパキンと半分に。どうやら私は、普通の人より力が強いみたい。


 看板娘なんて、とんでもない!

『怪力娘』と呼ばれても、おかしくないと思う。

 明るく振る舞うように心がけてはいるものの、過去の記憶がない、人と異なる自分が怖くて時々不安に押し潰されそうになる。

 そんな私に、ここのみんなは優しく接してくれた。




 私の変化にいち早く気づいてくれるのは、弟の樂斗さん。官憲のお仕事を立派にこなす彼は、たぶん私よりも年上だ。

 だからだろうか? 

 樂斗さんが私を見る目は、子供に接するように優しい。


 私は閉店後の、ゆっくりくつろぐ時間が大好きだ。

 綺麗(きれい)な芽衣子さんの隣で、樂斗さんが長い足を組んでコーヒーを飲む。その姿はカッコ良く、すごくサマになっている。


「――そんなことがあったのか。誰にだってミスはある、気にするな。鷹花はそのままでいい。皿や箒で、値段の高いこの店が傾くわけでもなし」

「あら、帝都では普通の価格よ? この辺は物価が高いから、むしろ良心的じゃないかしら。それより樂斗、言葉は正しく使いなさいね」

「どういう意味だ?」

「鷹花はそのままでいい、じゃなくて、そのままの鷹花がいい、でしょう?」

「なっ……」


 芽衣子さんの言葉に、樂斗さんが片手で顔を(おお)う。

 赤くなって怒ってる? 

 でも、ケンカするほど仲が良いとは羨ましい。だって、私は一人っ子だから……


「……あっ!」

「どうした」

「なあに?」

「思い出しました! 私は一人っ子だったようです」


 二人が顔を見合わせる。

 重要な情報ではなかったので、がっかりさせてしまったらしい。


「他には? その……以前見た太ももの(あざ)だが。それとなく聞いてみたものの、行方不明の中に該当者はいなかった……すまない」

「正直に、もう一回見たいって言えば? まあ、隠さなかった鷹花も鷹花だけどね」

「違っ」

「うう。樂斗さん、ごめんなさい」


 私の右太ももの内側には、赤黒い(あざ)のようなものがある。それだけが、身元を示す唯一の手がかりだ。


 話題を変えて、面白おかしく話す芽衣子さん。

 一緒になって笑いながらも、私は不安でたまらない。


 ――自分はいったい何者なの?


 うつむく私の頭を、樂斗(らくと)さんの大きな手がポンポンと軽く(たた)いてくれた。


「無理に思い出す必要はない。鷹花(ようか)は、好きなだけここにいればいいんだ」

「樂斗さん……」


 不意に胸が熱くなる。

 そのままでいいとか、ここにいていいとか。

 私は、そんな言葉が欲しかったような気がするの。


「あたし、お邪魔かしら?」


 首をかしげる芽衣子(めいこ)さんの横で、樂斗さんが藍色(あいいろ)の髪をかき上げる。


「だから、そういうの止めろって。鷹花が嫌がる」


 樂斗さんが低い声で言い返す。

 嫌じゃない。嫌というよりむしろ……。


 火照(ほて)った顔を見られたくなくて、私は再び顔を伏せた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 記憶違い等でしたら、申し訳ありません。 この作品、以前も掲載されていませんでしたか? 短編かなにかで、どこかで読んだことがあるような気がして、モヤモヤしまして……。
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