表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚かな女王のやり直し人生  作者: 彩心
序章 愚かな女王
1/4

 どうしてこうなった?

 私は皆が幸せに暮らせるように、この国の宰相 ザカリーの言うとおりに国にとって()()()()をしてきた。

 なのに、今現在革命軍に城は攻め込まれている。

 その知らせを聞いた私の周りの人間達は、我先にと逃げだした。

 私はどうしていいのか分からず、ザカリーを探しに逃げ惑う人々とは逆行し、城を探し回った。


 「ザカリー! ザカリー! どこにいるんだ! ザカリー……」


 頼りのザカリーが見つからず、心細くなった私はその場に座りこんだ。


 「ザカリー、お前がいないと私は何もできない。いったいどうすればいいんだ……」


 そう呟くと必死に押し込めていた、不安や恐怖が一気に溢れ出し、体が小刻みに震える。


 一国の女王が革命軍ごときに震えるとは、なんと無様(ぶざま)な事か……。


 女王としての矜持が震えを必死に抑えようと、自分の体を抱きしめる。

 しかし、震えが止まるどころか今度は涙まで溢れ出す。


 「ザカリー……助けて……」


 そう呟けば、ザカザカと遠くの方からこちらに近づいてくる複数人の足音が聞こえた。


 ザカリー? ザカリーが私を守るために兵を引き連れてきてくれたのか?


 そう思えば叫ばずにはいられない。


 「ザカリー! 私はここだ!」


 その声が聞こえたのか、足音は早くなりバタバタとこちらに駆け寄ってくる。

 助かったとホッとしたのもつかの間、先頭を走っている男はザカリーの特徴である赤毛ではなく、光に反射してキラキラと輝く黄金の髪色だった。

 その黄金の髪をもつ男と目が合えば、男は私を見て笑みを浮かべた。

 男の甘く蕩けるような笑みに、私の胸は高鳴った。

 黄金の髪に、青い瞳、精巧(せいこう)に作られた人形のように整った顔立ちの男は、昔読んだおとぎ話から抜け出してきた王子様のようだった。

 そんな男に恋人に向けるような笑みをされれば、夫がいる身だとしても一瞬で恋に落ちてしまう。


 こんな男がまだ国内にいたのか……。

 

 私が助かった後、この男を情夫(じょうふ)にしてやろうと考えていたら、突然腕を拘束され、頭を床に押しつけられた。

 

 「無礼者!! 私を誰だと思っている!!」


 そう言って、後ろで私を押さえつけている男をキッと睨みつけた。

 睨みつけてから気づいた、私を押さえつけていたのは平民の血が混ざった弟 ルカだった。

 ルカは今にも泣き出してしまいそうな顔で、私を見下ろしていた。


 「ルカ! お前は何をしている! 早く放せ!」

 「姉上……貴女はやりすぎたんですよ」

 「何をだ! それに平民ごときお前が、私を姉上と呼ぶなと何度言えばわかる!!」

 「また、それか……俺がなぜ姉上と呼ぶか、なぜ今こんな状態なのか、貴女はまったく考えようともしないんだね」

 「お前は何を言っている? さっきから聞いていれば訳の分からん事ばかり……宰相を呼べ! ザカリー! ザカリーはどこだ!」

 「宰相を名前で呼ぶ程親しかったとはね……姉上、残念ながら先程ザカリー・ルエンダ侯爵は私が斬り捨ててさしあげました」

 「な、何を言っている?」

 「必死に命乞いをして、恐怖のあまり尿を垂れ流し、無様な最後でしたよ」


 その様子を思い出したのかルカはクツクツと笑った。


 こいつは誰だ? 私の知っているルカはこんな笑い方をしない。

 いつも陰に隠れて、ビクビクしていて、気まぐれに優しくしてやれば、まるで花が咲いたように笑うあのルカは何処へ行った?


 知らない人を見るような目をルカに向けると、ルカは笑うのやめ、憐れみの目を私に向けた。


 「ストリクタ王国の女王 イザベラ・ストリクタ。私が革命軍を率いたのですよ、そこにいるロストラータ王国の王子の力を借りてね」


 そう言ってルカは、私の目の前に立つ先程情夫にしてやろうと思った男を見た。

 私もルカの視線を追ってその男を見れば、先程の笑みとは違い、背筋が凍るような恐ろしい笑みを私に向けていた。

 あまりの恐ろしさに体が震え、私の歯がカチカチと音を鳴らす。

 その様子を何か汚い物でも見るかのように見つめていた男が初めて口を開いた。


 「お初にお目にかかる、ストリクタの女王。私はロストラータ王国の第一王子レオ・ロストラータだ。貴様が行った悪の所業の数々、その身をもって償え! 早く連れて行け!」


 それだけ言うとレオ王子は私に背を向けて歩きだした。


 悪の所業の数々? 一体何の事だ? 私は何も悪い事はしていない。

 私よりもお前達の方がひどい。私の幸せをぶち壊したあげく、この国のために身を粉にして働いてきたザカリーまで殺すなんて。

 お前達の方こそ悪の所業だ!!

 

 言いたい事や聞きたい事はたくさんあるのに、私の喉は恐怖に引きつり、声はでなかった。

 声の代わりに涙や鼻水が溢れ出て、今の私の顔はぐちゃぐちゃに違いない。


 「姉上……まだ分からないって顔をしているね。それがわからない貴女だから、国が滅茶苦茶になったんだ!」


 国が滅茶苦茶? どういう事? ザカリーは街は活気に満ちあふれて、皆幸せそうに暮らしていると言っていた。

 皆口を揃えて、女王陛下のおかげで豊かになったと言っていたのではないのか?

 一体どういう事なんだ。ザカリー、教えてくれ。この国はいったいどうなっているんだ?

 ザカリー……答えてくれ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ