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店内には、中年の男性店員が一人レジに立っているだけだった。目当てのマスクを探してみるが中々それらしきものが見当たらない。コンビニにマスクって置いてなかったっけ。それともたまたま切らしているのか。
仕方ないので一応店員さんに訊いてみる事にする。折角夜遅く寒い中来たのに収穫がないなんて、徒労もいいところだ。
「すいません、マスクってありますか?」
「あー、すいません。売り切れちゃったんです。最近なんかニュースで新手のウイルスがどうのってやってるでしょ、多分あれの影響だ」
「あぁ……」
「さっきまではあったんだけどね。数分前に最後の一つが売れたもんで。車椅子なのにわざわざこんな夜分遅くに買いに来たんだなぁ」
え?
「中学生ぐらいの女の子でしたか?」
「そうだねぇ、君と同じぐらいなんじゃないかな」
「ありがとうございます」
この近辺で車椅子の女の子と言ったら藤花しかいない。
このコンビニまで来る為には藤花の家からはもう一つルートがあるが、そっちと入れ違いになったのか。こんな時間に無防備な車椅子の少女が出歩くなんて危機感が薄いな……。地域的な治安はそこまで悪くないと思うが、それでも真夜中に一人で彷徨くのは良い事とは言えないだろう。
自分も人の事は言えないが、これでも私は格闘技の経験があり、以前には空手の大会で結果を残した事もあった。中学に上がって空手はやめたが、それでも運動神経には自信があったし、自分の身は守れるだけ彼女よりマシだと思う。昔は彼女も私と同じぐらい、いや、それ以上に強かったのに……。
あの事故さえなければ。何度そう願ったか。だけど、今はそれを思い返すよりも先にやる事がある。無事に家に着いていたら問題はないのだけれど。
何か嫌な胸騒ぎがして、藤花の後を追う事にした。