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こいつだけは絶対に許してはいけない。殺してやる。あぁ。だからこそ、落ち着け。師範に教えて貰っただろう?頭に血が上った時にこそ。はらわたが煮えくり返っている時にこそ。劣勢で絶体絶命な時にこそ。先ずは息を整えろ。思考をクリアにしろ。そして、考えて考えて、考え続けろ。
丹田に意識を集中し、深く息を吐き出す。
コォォォォォォォォ。
『息吹』。空手独自の呼吸法。動悸が治まり、強張った身体は程よい緊張にほぐれ、精神が研ぎ澄まされていく。雑念が消えていく。雑音が消えていく。大丈夫、やるべき事は分かっている。
今度こそ強く、想像する。こいつを殺す為に、創造する。
フォン……。まだ残っている右手に確かな杖の感触を確かめた。そして同時に左手首から止めどなく流れる血液の止血をイメージする。正しく効果が発揮されるのかは分からないがこのままでは失血死してしまう。止まれ、止まれ、止まれ、止まれ。
私の動きに呼応するように、古神も動く。当然、待ってはくれない。
「秘剣『灯籠流し』」
次の一撃が、来る。その瞬間、奇妙な感覚を覚えた。時間が、止まっている……?停止された時の中で視界から映像が脳にスローモーションで伝達されていく。右足一歩の踏み込みから迫る神速の抜刀術。剣の軌道は左横方向から水平に薙ぎ払う一閃。これはあの時の、『反射』の魔法を行使するタイミングが理解った、あの感覚に近い。しかし今回は、より明確に、より鮮明に情景が視えていた。不思議な現象だったが、今はこの感覚に従うべきだ。
時が動き出す。古神が右足の一歩を踏み込む。私はその初動に合わせて前進する。彼女は一瞬驚いたような表情を見せるが、次の動作は止まらない。居合いから剣を振り抜く……その一瞬前に上体を低くし、紙一重でそれを避ける。そして、そのままの勢いで足払い気味に強烈な下段回し蹴りを打ち込んだ。古神は体勢を崩す。私は続けざまに右手に持っていた杖を彼女の顔面へと鉄槌の様に振り下ろす。カウンターが決まり、かはっ、という呻き声が漏れる。このままマウントの態勢に入っても良かったが、相手の手の内が割れていない以上、深追いは危険だと判断する。魔法少女の耐久性は既に織り込み済みだ。私はその隙にすぐに距離を取り、横にある自分の部屋へと移動した。




