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夢を見た。昏い世界の中、私と『誰か』だけがそこにいる。その人の顔には黒い影のようなものがかかっていてはっきりと見えない。私と誰かは手を繋いでいた。その貌は笑っているようにも見えたし、哀しんでいるようにも見える。私はただその誰かの隣にいるだけで満足だった。しかし、誰かの手は私から離れていく。私は追いかけたが、走っても、走っても、届かない。やがて、世界は閉じていく。足場が崩れ去り、落ちていく。どこまでもどこまでも、堕ちていく____。
ぴぴぴっ、ぴぴぴっ、と音が鳴り響く。
目は開けずに聴覚だけでその憎らしい音源の場所をつきとめ、停止させてやる。まだ寝ていたいのだが、既に部屋には眩しいが光が差しており、その朝日は嫌が応にも私の瞼を開かせる。朝、だ。
目を擦るとその手は微かに湿っていた。どうやら、泣いていたらしい。夢のせいで?
そう思うと確かに悲しい夢を見たような、そうでもないような。
ふと時計を見てみると、思ったよりも一限目までの時間は残されていない。悲しい夢なんかよりも、今は現実の方が大事だ。曖昧な記憶を頭の片隅に仕舞い込んで、あわただしく制服に着替える私だった。
リビングに行くと既に朝食が食卓の上にあったが、母さんの姿は無かった。もう仕事に行ったのか。急いでトーストを牛乳で流し込み、身支度を整え、私も家を後にした。




