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____3年前
「明日は、遂に決勝だね」
練習終わりの帰り道、私の横に並んで歩く彼女が口を開く。
「毎日負けてるのに、本番で勝てる気がしないよ……」
これまで他の追随を許さないぐらい強烈な強さで圧倒してきて、あの鬼のように厳しい師範代にも「希代の天才」とまで評された私の幼馴染み、雨宮藤花。
小学部門全国女子空手大会決勝戦の相手がその藤花だなんて、運が良いのか、悪いのか……。
「強いよ、玖音は。それにやってみないとわからない、でしょ?」
「そうだけどさぁ~……」
藤花は、完璧だ。空手の才能だけじゃない。容姿、勉強、人間性、家柄、そしてその他のあらゆる分野においてその無類の才を遺憾無く発揮してきた。
それなのに、何でその中から空手を選んでやっているのか不思議に思って聞いた事がある。藤花なら何をやっても大成するだろうに。すると本人曰く、「好きだからやってる」との事だった。「それに、空手をやってる時は玖音と一緒だから」とも。
柔らかな微笑を浮かべながらそう言われたら、それ以上、何も返す言葉はなかった。そんな、強くて優しい幼馴染みが私は大好きで、誇らしく、少し、眩しかった。
下馬評通り、実力通り、明日私が藤花に勝てる可能性は限りなく低い。それこそ、藤花が事故にでも遭わない限りは。
だけど、それでも希代の天才と謳われた藤花を相手に毎日厳しい練習をしてきたんだ。だからこそ決勝に来るだけの、ここまで来れただけの実力が付いた。
師範代も藤花も、私の"眼"を褒めてくれる。眼が良い、だから藤花についていけるのだと。練習ではその有利を使っても藤花には及ばないのだが。
しかし、私には藤花にまだ見せていない技が一つだけあった。彼女の居ない朝練と居残りで練習してきた、"とっておき"が。
お互いに手の内は嫌という程わかっている。
だけど、この眼を使って読み切る事が出来たなら、その先に私にだって、ほんの少しの勝機はあるはずだ。明日は、彼女の親友に恥じない戦いをしよう、そう思った。




