1
「藤花、寒くない?」
「とても寒いわ………なんて言ったら温めてくれるの?」
「はァ?人が気づかってんのに茶化すなよ」
「玖音が冷たいから余計に寒くなってきたわ」
「なんでだよ……」
「風邪を引いたら玖音のせいね」
「もういい、知らん……」
普段通り、藤花のしょうもない戯れ言を聞き流しながら彼女が乗っている車椅子を押して学校へと向かう。学校までの道のりはそう遠くないのだが、真冬の早朝はやはり寒い。こうやって歩いて体を動かしている私が寒いのだから、車椅子に座っているだけの彼女はもっと寒いだろうなと思って口に出してみたが、いつもの調子で冗談を言うぐらいには元気そうな藤花だった。
雨宮藤花。車椅子に乗って病弱かつ黒髪清楚な深窓の麗人っぽい外見に反して、中身は明るく物怖じもしなく、減らず口だけは絶えない私の幼馴染み。事故に遭って脚が動かなくなってからも何一つ変わらない笑顔が今でも私を不安にさせる。
もっと辛そうにしていいのに、もっと悲観してもいいのに。そういう姿を藤花は見せない。
そしてまた彼女は上機嫌に、私を困らせる言葉を紡ぐ。
「玖音のせいで引いた風邪は玖音に移すから」
「……藤花が治った頃に移し返してやる」
「なんかその言い方はいやらしいわね……」
「何を想像してるんですかね、このお嬢様は」
「何を想像したの?」
「はぁ……」
本当、朝から機嫌がよろしい事で……。
低俗なやり取りを交わし、溜め息をつく私だった。