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メンヘラ失格(6)




 あれから私は友達として凛、いちちちゃん、怜菜と頻繁に会うようになりました。いちちちゃんには名前が一花であることを教えてもらいました。

凛と一花はあれから仲良くカップルを続けているらしく、私は安心していました。そして、私と凛、一花で遊ぶこともありました。

病み垢というのは、思ったより人間関係が過密で、意外なところで繋がってたりするものです。ですから、私が知らないところで一花と怜菜が繋がっていたりしてました。でも、それは全くマイナスではなく、むしろ一緒に三人で遊んだり、なんてこともあったりしました。仕事の疲れを、若い子たちと遊ぶことで、元気をもらうような流れを、なんとなく習慣にしておりました。

そして、ついに、今週の土曜日、私と凛と一花と怜菜の四人で遊ぶことになりました。女子高生だった頃を思い出しつつ、私は年長者としてなんとなく遊びに行く場所のプランを立てたいと発案しました。みんなもそれに対して賛成してくれました。

プラン作りは楽しかったですが、少し大変でした。学生を連れていくわけですから、そんな大人な遊びをすることはできませんし、カラオケを何時間もしたりボウリングに出かけたりなど、そんな体力があるわけでもありませんでした。ですから、いい塩梅であるショッピングに出かけることにしたのです。凛は女子三人に囲まれて、居辛さを感じるかもしれませんが、一花がいることですしあまり気にしません。それに、彼も女子の中で行動するのが慣れている様子でした。 

あれから凛は、私と一花が親密にしてることもあって隠してる可能性はありますが、新しく女の子と何かしたという話をしなくなりました。それだけで少し安心していました。怜菜も私や一花との距離感を、私から見れば上手に保てています。突然に離れたり、傷つけてこようとはしませんでした。そして、怜菜と凛の自傷行為については、もはや触れることをやめました。「やめて」なんて私から言えないですし、そもそも言うつもりもありません。なぜなら、いちいち心配していたら、彼らを大事に思うがあまり反動で辛くなっていくのを感じたのです。そして、手当てをちゃんとして自分である程度満足したら普通にお話ができるのです。それにどういっても彼らにはそれが生きるために必要な行動なのです。私は目を瞑ることを選びました。だって、笑えるのです。一緒にいれば、話をすれば、凛も怜菜もちゃんと笑えてるのです。だったら、もうそれでいい気がします。

 グループでチャットできるアプリを使って予定を話し合いました。そして、今日は遊ぶ日の前日で、グループチャットは明日の話で盛り上がっていました。

 『ねぇ葉ちゃん。明日はどこに集まるの?』

 怜菜が書き込みます。こんな楽しい話をしていても彼女のアイコンがリストカットの画像なのが少し気になります。

 『明日はね、池袋に集まろうかと思うの。なんか、りぃちゃんがコスプレの店に行きたいんだって』

 私がそういうと、それに対して凛ではなく一花が返しました。

 『そうそう。りぃはコスプレすごい好きだから』

 一花は凛のことにならなければ普通の子なのですが、少し愛が重たく、さらに言えば他人にひけらかす傾向にあります。しかし、それも素直である故なのだと、最近気づき始めました。それにあの年頃の女の子はそんなものでしょう。

 『そんなに凄くないよー。それに、一花は見たことないでしょう』

 凛が返します。彼はチャットだと女の子みたいな喋り方をしますし、一花といるときは少しだけおかまのような喋り方をします。そんな彼を見て一花は中性的と言って褒め称えるのです。私からしたら、どっちつかずに見えますし、無理をしているようで見ていて心苦しさすら感じます。

 『そうだけど……』

 やはり彼の知らないところがあると不満なのでしょうか、一花がそう書き込みます。

 『今度やるときに見せてあげるから』

 そういって凛が慰めます。そんな感じで会話は続き、そして明日のために早く寝ようとなり、深夜12時ごろにはグループでの話は終わりました。

 グループの話が終わり、私も寝ようとしたところ、怜菜からメッセージが入ってきました。

 『ねぇ、葉ちゃん私ちゃんとできてるかな?』

 たまに、彼女からこういったメッセージが入ってきます。楽しく遊んだあとや電話した後に。

 『うん、大丈夫だよ』

 そして私はいつもこうやって返すのです。それ以外に返すことはできませんし、本当に彼女はちゃんと大丈夫なのです。

 『ありがとう。明日もよろしくね、おやすみ』

 私はなんとなく、彼女が心配になりましたが、寝ようとしてるところをメッセージのやり取りをして長引かせたくなかったので、そのまま『おやすみ』とだけ返して眠りました。

 次の日、私は時間よりも少し早く、池袋駅に着きました。そして待ち合わせのフクロウの下に向かいました。そこでは怜菜と一花が既に待っていました。

 「あ、葉ちゃん!こっちこっち!」

 一花が私に手招きします。横で怜菜も一緒に笑顔で手招きしてくれてます。私は駆け寄りました。

 「ごめん、待った?」

 彼女たちのもとについて私はそう聞きました。

 「ううん大丈夫。今きたところ。だよね、一花?」

 私は彼女たちをちゃん付けで呼びますが、彼女たちは互いに呼び捨てで呼び合っています。同世代の女の子同士が少しうらやましく感じます。

 「うん!そうそう」

 二人ともいつも元気で、そんな二人を見てるとすごく癒されます。冬だから二人ともコートを着ていてすごく大人っぽく見えますが、中身はちゃんとその年代の女の子です。

 「葉ちゃんってほんとおしゃれだよね」

 一花がいきなり私のことを褒めてきます。怜菜はもちろん私のことを慕ってくれてますが、なぜか一花のほうが私のことを慕って尊敬を寄せてくれています。

 「そんなことないよ、今日だってほんと適当だし」

 本当は昨日からずっと悩んだ結果、今日の服装を決めました。女子とはそういう生き物なのです。

 「うんうん、あこがれるよね」

 怜菜もその話に乗っかってきます。思えば、私もこの年のとき、大人の女性に憧れたりしたものです。怜菜はあまりナチュラルなメイクしかししませんが、一花はかなり大人のメイクをしようとがんばってます。しかし、童顔なので多少違和感があります。元が整っているので、あまり気にならないですが。

 「ごめーん!お待たせ」

 話をしていると凛が遠くから呼びかけながら走ってきました。あまり体力がないのか、かなり前から走ってきたのか。すごく息を切らしていました。恐らく、いつも待ち合わせのときには10分前くらいにくる人なので、時間通りでも少し遅れたと感じるのでしょうか。それとも、私たちがそれよりも早く来る性格なのを知っているからでしょうか。

 「大丈夫、待ってないよ。それに時間通りでしょ?」

 私は優しく彼に言ってあげました。彼はまだ息を切らしています。

 「そうそう。りぃはいつもそうやって頑張りすぎるんだから」

 私は彼女だから彼のことは何でも分かってます、みたいな言い方はあまり得意ではないのですが、このカップルに関してはそんなこと思いません。それくらい仲がいいほうが安心できます。

 「それで、葉ちゃん、どこいくの?」

 怜菜が私に尋ねてきました。その時、彼女のおなかがなりました。

 「うぅ、ごめんなさい」

 ぐぅとなるおなかを抑えながら怜菜は謝っていました。私は笑顔で「気にしなくていいのに」と返しました。

 「あれ?怜菜ご飯食べてきてないの?」

 一花がそうやって聞くと、隣で凛が「僕もまだご飯食べてないや」と言いました。確かに時間は13時ですし、ご飯を食べるも食べないのも微妙な時間です。

 「それじゃご飯でも食べに行く?」

 私がそう提案すると、凛と怜菜が「うん」と頷きました。そして、一花は「私は食べたから飲み物だけでいいや」と言いましたので、ファミレスに入ることにしました。予定にはなかったことですが、そんなに時間ぴったりに行動するような予定を組んでいるわけではありませんので、問題はなかったです。それに、彼女たちの笑顔を見ていると予定なんてどうでもいいような気がしてきました。

 そしてファミレスに入り、凛の希望で喫煙席に入ることになりました。怜菜は両親が喫煙者だったらしく、そこまで喫煙に対してマイナスなイメージがなく、一緒に入ることも嫌がりませんでした。一花は拒否することはないでしょう。彼女は、タバコを吸っているクールな彼が好きなのです。席に座って、凛と怜菜はメニューを見て、食べるものを探し始め、早々に決めました。私と一花はドリンクバーだけにするつもりでしたが、デザートを食べるのもいいかもという話になって二人ともデザートを頼みました。

 「それで、葉ちゃん、今日はどこ行くの?」

 凛がタバコの煙を一度吐いてから、そう尋ねてきました。ですから私が今日考えてきたルートを説明しました。そこまでサプライズというわけではありませんが、用意していた予定を話していませんでした。いざ、話すとなんだか自分の実力が試されているような気がしてちょっと緊張していました。

 「うん、すごく楽しそう」

 怜菜が隣でわくわくしながらその話を聞いて、そして聞き終えてからそういってくれました。私はそれに大変安心しました。

 「葉ちゃん、ほんと天才」

 一花が目の前の席で私のことを褒めてくれます。

 「よし、それなら食べたらさっそく出かけよう」

 凛はそういいながらおいしそうにハンバーグを食べていました。怜菜もパスタを食べてご満悦な表情をしていました。恐らく、彼女にとってその料理よりも友達と食べられる時間が幸せなのでしょう。

 ファミレスを出ると、私たちはいろんなお店を回りました。お洋服の店では女子3人で盛り上がりました。そして凛は後ろでついてきて一花が執拗に「これ似合うかな?」という質問に答えてました。

 コスプレショップに着くと、凛は「ちょっと探すのがあるから」と言って一目散に奥のほうに行きました。「待って」と言って一花がそれを追いかけます。私と怜菜は二人でゆっくりと店内に入っていきました。

 その店にはたくさんのアニメの名前が書かれていて、それごとにコスプレ用の服とウィッグが置いてありました。

 「あ、このアニメ見たことある」

 怜菜がそういってタグの一つを指さしました。今流行りの男の子がたくさん出てくるアニメです。私もタイトルだけはツブヤキッターで見たことありました。

 「今有名なやつでしょ?」

 私がそういうと怜菜は嬉しそうにうなずきました。

 「そうそう。これの赤髪のキャラがすごくイケメンなの」

 そういいながらそのコーナーを漁ってそのキャラを探して、私に見せてきました。確かにイケメンですが私のタイプではありませんでした。すごく病んだ顔をしていて、怜菜が好きそうだなと思いました。

 「あ、このアニメも好き」

 怜菜が私の後ろの他のアニメに反応して、そちらにかけていきました。

 「あれ、これ一花ちゃんも好きなやつじゃない?」

 たまたま一花が近くを通りかけて、そのアニメを一花が好きなのを知っていましたので話を振ってみました。

 「あ、うん。すごく好き!怜菜も好きなの?」

 一花はちゃんと話に乗ってきてくれましたし、買い物が一通り終わったのか凛も足を止めて会話に参加し始めました。私はそのアニメを全然知らないので遠くで「そうなんだ」とか相槌だけ打ってました。

 店を出ると、次はまた洋服屋さんに行きたいとなってショッピングセンターを目指しました。

 そうこうしているうちに、時間はあっという間に夕方になり、私たちは解散することとなりました。

 「私たち、ちょっと寄りたいところがあるから、先にここで失礼するね」

 一花が凛と腕を組みながらそう言いました。凛も何となく察してくれみたいな顔を私に向けてきましたので、「それじゃまたね」とだけ言って解散しました。そして、私と怜菜で駅まで向かうことになりました。

 「今日は本当に楽しかった」

 怜菜は少し終わるのがさみしいのか、少し弱い声でそう言いました。

 「そうね、楽しかった」

 気にしないように、そして寂しく終わらないように、私は笑顔でそう返しました。

 「私、葉ちゃんに出会えて本当に良かった。やっと、また、笑うことができるようになった」

 変に改まっていうものだから、私は思わず怜菜のほうを見ました。対して怜菜は私のほうではなく、前を向いて遠くを見ているような目をしていました。凛が過去を語るときと同じ目で、今ではなく、過去ではなく、どこか遠いところを見つめている。そんな目をしてました。

 「昔のこと思いだすな。ナギサと仲が良かった時のこと。でも、あの時は二人きりだったし、こうやってみんなで遊ぶのは初めてかも」

 私も女子高生の頃、みんなでこんな風に集まって遊んだのを思い出しました。

 「そうなんだ。私も思い出すちゃうな。でも、これからもまだ遊べると思うともっと嬉しいな、そうじゃない?」

 そう聞くと私に視線を戻してにっこり笑いました。

 「うん、そうだね」

 そう話しているうちに、私たちは改札の前までたどり着いてました。私は怜菜を送るために自分が乗る路線じゃないところまで来ていましたので、ここで解散です。

 「じゃぁね、葉ちゃん」

 私にはなぜかその言葉が悲しく感じました。どこか悲しく、どこか寂しいものでした。女子高生のときに感じた感覚に似ています。友達と別れるとき、その時の自分にはそれが永遠の別れのようにいつも感じていました。一日が途方もなく長く感じて、その途方もない長い一日をその友達たちとすごして、そして残りの途方もない時間を一人で過ごすことになる。次の日、彼女たちと一緒に笑える保証なんてない、そんな不安定な場所に自分がいるような気がして。だからこそ、友達とお別れする時に、寂しく、悲しく感じるのでした。そんな感覚を感じたのです。

 「またね、怜菜ちゃん」

 そうお別れの挨拶をすると、怜菜は人込みの中に消えていきました。言ってから、気付いたのです。いつも私たちは「またね」と言ってお別れをします。それは彼女がいつもまたねと言うからです。今日は、『またね』ではなく『じゃぁね』だったのです。


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