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メンヘラ失格(5)




 それから数日経ちました。私はまたまたツブヤキッターで知り合った女の子と会うこととなりました。今度は新宿です。新宿東口の前で、時計を見ながらその子が現れるのを待ってました。メッセージでやり取りした感じがすごく礼儀正しかったので、私は安心していました。しかし、年齢が私より6年くらい離れてて、まだ高校生なので話が合うかの不安はあります。期待と不安が混じった感情で待っていました。

 「あ、リーフボックスさんですか?!」

 すごく元気な声が聞こえました。声が聞こえたほうを見ると、そこには可愛い女の子が立っておりました。今流行りの女優に似た、ナチュラルメイクの女の子で髪はツインテールでした。身長は低めで、線が細く華奢でした。

 「私、怜菜と申します。よろしくお願いします」

 そう言って彼女は深々とお辞儀をしました。会えたのが嬉しいんだといわんばかりの笑顔でした。彼女とは病み垢を作って最初の方に出会い、もう三ヶ月ほど、ツブヤキッターでずっと仲良く話をしてました。彼女はこの年齢にして双極性障害という精神病を患っており、何度か入退院を繰り返しているそうです。私と話し始めた時もやっと長い期間の退院が終わったころだったと聞いています。

 「私は葉子っていいます。そんなにかしこまらなくてもいいから。よろしく」

 私はそういって彼女に合わせて本名を名乗りました。彼女は少し慌てた顔をしました。

 「ごめんなさい。私、つい本名名乗っちゃって。ええーっと、ありがとうございます。よ、よろしくお願いします」

 健気だなと思いました。そして、その健気さで、なぜあんなつぶやきをするのかが気になりました。彼女のつぶやきの内容は、リスカが酷く切る場所がなくなり右腕、両足にも及んでいることや、精神病院への入退院で単位が足りず高校を留年してしまっていること、親のことをハサミで切りつけてから、ずっと口をきいてもらえないこと、そんなことばかりです。彼女はメッセージでもそれを私に相談してくれていました。私はそういう話を聞くたびに、何のアドバイスをするわけでもなく、返事すること以外できていませんでした。それでも彼女は納得してました。

 「どこにいきましょうか?」

 ワクワクした声で彼女が聞いてきました。私はこの辺にカフェを知っていたのでそこに行こうと提案しました。彼女は嬉しそうにその提案に賛成しました。カフェに着いて、私はアイスカフェラテを、彼女はキャラメルマキアートを頼みました。そしてそれを受け取って席まで運び、席に着くと彼女はソワソワしたようにこちらを見て、何を話すか悩んでる様子でした。私はガムシロップをカフェラテの中に入れてストローでそれをかき混ぜました。

 「怜菜ちゃんって呼んでもいい?」

 私がそう聞くと、彼女はすごく嬉しそうに頷きました。

「はい、私も葉ちゃんって呼んでいいですか?」

彼女はそういいました。いきなり年下にあだ名で呼ばれるのはどうかと思いましたが、そんなに悪い気はしなかったので「うん、いいよ」と答えました。リアルとネットの混同をしたくないと思っておりましたが、この子には何か、別にそれでもいいなと感じるものがありました。純朴さと言いましょうか、そんなものを彼女に感じ、警戒心を全く解きほぐすのでした。

 ガムシロップが混ざり、甘くなったカフェラテを飲みながらたわいもない世間話をしました。彼女は私に興味を示してくれて、いろいろなことを質問されました。私は嫌がることでもないので、それに一つ一つちゃんと答えてました。「彼氏がいるの?」とか「彼氏とはどこで知り合ったの?」とかそんな十代の女の子が好きそうな話題ばかりでした。しばらくして、彼女の過去の話に移りました。

 「昔、私にはナギサっていう親友がいたんです。いつも一緒にいて、彼女の髪を編んだり、プリクラを撮ったり。たくさんのいろんなことをしました」

 彼女の話ぶりから、どれだけ仲よかったのかは伝わってきます。私はまたカフェラテを一口飲み、話の続きを聞きました。

 「でもある日突然、その人のこと、嫌いになっちゃったんです。その人のすべてが許せなくなって、まるで磁石のNとSがいきなり入れ替わって、それまでくっついて離れなかったものが急に離れて、二度と近づけないみたいになってしまったんです」

 人と離れた経験なら私もあります。唯一無二の親友だと思っていた女の子に裏切られる、そんな経験生きてれば一度や二度あります。しかし、そんな漠然として理由もなく離れるのは疑問です。

 「ボーダーだと思うんです、私。だから誰とも仲良くなれない。仲良くなったとしても、すぐに離れちゃう。そばに誰もいないんです」

 そばには誰もいないと聞いて、凛が思い浮かびました。彼も、その性格や精神病により、孤独でした。彼の場合、実質として孤独ではありませんでしたが、それが逆に彼の孤独を物語っていました。でも、彼女はどうなのでしょうか。誰かがそばにいれば、孤独は埋まるのでしょうか。

 「だから、葉ちゃんとは離れ離れになったりなりたくないです。離れずにいてくれますか?ずっと」

 私は思わず手を止めて固まってしまいました。私にはそんな約束できません。だって、そんなことを約束した関係なんか、重荷すぎる、そう思いました。

 「離れたいとは思わないけど、約束は難しいかな。あなたを裏切りたくない」

 慎重に言葉を選び、彼女が傷つかない言葉を出しました。彼女はそれに少し笑って返してくれました。

 「わかりました。約束しなくても、仲良くしたいです」

 そう言ってくれました。私にはそれが嬉しかったです。この子と今後も仲良くできるんだと安心しました。

 それから彼女とカフェを出てカラオケに行って、お話ししたりカラオケしたりして楽しんでから、彼女に連れられてゲーセンに入って何年ぶりかにプリクラを撮ったりしました。そうして、あっという間に夕方になり、夜ご飯も行きたいと彼女が言うので、一緒にファミレスに入ってご飯を食べました。遊んでる時、10代だった頃に戻った気分になってました。社会人になってからもう忘れてしまった感覚を思い出しました。

 「今日は楽しかった!」

 怜菜は既に私とタメ口で話し、私もそれを許してました。大人としてこれでいいのかと考えたりしますが、ツブヤキッターで出会ったとは言え、友達は友達で間違いないですし、もともと私はそこまでそれを深く気にするタイプではありません。

 「私も楽しかったよ。ありがとう、怜菜ちゃん」

 笑顔に笑顔で応えて、また笑顔が生まれる、そんな暖かい関係はなんとなく安心感があります。

 彼女を見送りながら昼間の話を思い出してました。私が記憶している女子高生同士の友情というのは、これよりももっと親密で距離が近いものです。それを失った時の喪失感といったらつらいもので、それには大体けんかや恋愛が絡むから余計につらくなったりするものです。しかし、彼女はそういった喧嘩を望まぬ形で彼女のほうからしてしまうそうです。なぜか途端にその人のことを嫌いになって、どんどんいやなところが見えてきて、最後には関係が終わってしまうと話していました。自分の大好きな人が自分のせいによって失うのはどれだけの孤独なのでしょうか。私には想像できません。それにそれを乗り越えて新たに友達を見つけようとするのは、強さなのでしょうか弱さなのでしょうか。いっそ、一人でいたほうが楽なんじゃないかとさえ思ってしまうのです。でも、彼女は諦めていません。それはおそらく、生きることを諦めていないからだと思います。


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