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第五十七話 アイシャの事情 

「お頭、本当に大型の移動都市がありますね」


「しかも、人の気配がない」


「俺たちの安住の地だ!」


「お前ら! 気合を入れろ!」




 オレは砂賊の長。

 手下たちからは、お頭と呼ばれている。

 前に『船団長』と呼べと言ったんだが、こいつらオレを『お頭』と呼ぶことをやめないで困ってしまう。

 最近砂賊を始めたのだが、これには理由があった。

 オレは小さなオアシスの出身で、ハンターとして才能があったので砂獣狩りで故郷に貢献していた。

 こう見えても村長の一族だったので、ちゃんと婚約者もいてな。

 ドブスなオレだけど、婚約者はそれでもいいと言ってくれた。

 オレは嬉しくて、ますます多くの砂獣を狩って故郷に貢献していた。


 ……あの日まではな……。


 翌月に結婚を控えたある日、早めに狩りを終えて婚約者の家に向かうと、彼は綺麗な村の女性と裸でベッドの中にいた。

 オレは裏切られたのだ。


『仕方ないだろう。お前みたいなドブス、勃つものも勃たねえよ!』


『ねえ、アイシャ。あんた、婚約者とキスをしたこともないんでしょう? そりゃあ、その顔じゃあねぇ……』


 オレは、自分の容姿について自覚はしていた。

 だからハンターとして仕事を頑張り、故郷に貢献していたのに……。

 婚約者は、オレが貯めていたお金も浮気相手のために使ってしまっていた。


『ドブスの文無しとか! 超笑えるんですけど!』


 とにかく悔しくて、恥ずかしさで故郷にいられなくなって、オレはオアシスを飛び出した。

 ハンターとして稼ぎ、船を手に入れて一人で生活を始めたんだ。

 次第に、様々な理由で故郷を飛び出した連中が集まってきて、オレは船団を率いて砂獣を狩るようになった。

 砂賊はやっていなかったのだが、このところ抜き差しならない状況に追い込まれてな。


 ……うちの船団員たちが次々とデキてしまい、多くの女性が妊娠してしまったのだ。

 戦力は激減し、備蓄していた神貨と食料が激減してしまった。

 妊娠した女性たちを、砂獣狩りで働かせるわけにいかないからだ。


 収入よりも、支出の方が多い。

 赤字になって困ってしまったオレは、大商人の船を脅かして物資と神貨を奪う砂賊業を始めるしか手がなくなってしまったのだ。


 だが、それも警戒されて限界を迎えつつある。

 そんな時に、とある巨大な移動都市の話を聞いた。

 しかも、その移動都市の人口は非常に少ないらしい。


 ならば、これを奪ってオレたちの住処にするしかない。

 オレたちは、もう故郷に戻れない!

 ならば、たとえ悪名を被ってもこの移動都市を奪うしかないのだ。


 幸い、噂どおり巨大な移動都市には人の気配がまったくなかった。

 これなら、女性船団員の大半が使えなくても奪取できるはず。


「移動都市を奪うぞ! オレたちの安住の地を獲得するために!」


「「「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」」」


 オレを批判したい奴は、自由にすればいいさ!

 なにを言われようとも、オレは船団員たちのためにこの移動都市を必ず奪ってやるのだから!




「美人だね」


「タロウ殿はそう思うのか」


「私たちも相変わらず慣れませんね」


「そうですね。『私たちレベルのドブスが来た!』って思ってしまいます」


「やめて、そういう話を聞くと悲しくなるから」




 港からの姿を確認した砂賊の船団長アイシャだが、その格好はベタな海賊ルックで、ドクロマークの入った帽子を被っていた。

 腰にはエストックを差している。

 艶のある紫色の髪をたなびかせ、思っていたよりも小柄で、身長は百六十センチほどであろうか。

 意外と胸も大きく、顔立ちは非常に整っており、とても砂賊のリーダーには見えなかった。

 日本なら、アイドルでも十分に通用するであろう。


「この世界だとドブスですけどね」


「ミュウ、居た堪れなくなるから言わないで」


「てめえら! オレと同レベルのドブスのくせに、なに男と楽しそうに話をしているんだ!」


「そこか! そこが怒りの導火線なのか?」


 というか、その前に用事があるんじゃないのかな?


「ええと、ご用件は?」


「おっと、忘れてたぜ! その移動都市はオレたちが貰う! お前らは出ていきな!」


「はい」


「いいのか?」


「だって、無理に防戦しても双方にいいことないし……」


 大体だ。

 どう考えても戦闘可能な人員が数百名がいそうな集団に対し、四人で戦うなんて無謀以外のなにものでもないのだから。


「その代わり、船での離脱を許可してもらわないと。元々一隻しかない船だから、これがないと脱出できない」


「出ていくならいいけど。オレも別に戦いが好きってわけでもないし」


「じゃあ、交渉成立で」


 ゴリマッチョめ。

 セコイ泣き落としで私たちを足止めしてくれたが、港まで降りてしまえばこちらのものだ。

 向こうも移動都市が手に入るのに、私たちと船一隻を見逃さないほど狭量でもあるまい。

 獲得した移動都市の把握作業もあるので、私たちと無駄な戦闘はしないであろうと踏んでの作戦だ。


「オッサン、酷いゴリ!」


「知るか! 私は妻たちとフラウの安全が一番なのだから」


 最低でも数百対一なんて……。

 しかも砂賊で戦闘力もある集団なのだ。

 そんな連中とララベルたちを戦わせられるか!


「自分の移動都市なんだから、自分で守りなさい」


「ゴリ、管理者で所有者じゃないゴリ」


 どっちでも同じだろうが。


「こうなったら事実を言うゴリ! 砂賊! この移動都市は、このオッサンがいないとすぐに使えなくなるゴリ! それとこの二人、オッサンの奥さんゴリよ!」


「おいっ!」


 最初の暴露はいいとして、次の私のプライベートな情報の公開になんの意味が?

 と思っていたら……。


「はあ? オレとなんら変わらないドブス二人が、この男性の妻だと?」


「それがどうかしたのか?」


「砂賊風情には関係ないじゃないですか」


 あのぅ……。

 ララベルさんとミュウさん。

 嬉しいのは見てすぐにわかるけど、ここで砂賊の長を怒らせても意味がないどころか害悪でしかないような……。


「あっ、ちなみに私も成人になったら、タロウ様のお嫁さんになります」


 フラウ! 

 ここで火に油を注ぐのは……あれ?


「フラウ、私はそんな約束をしたかな?」


「砂賊の長さん、羨ましいですか?」


「無視された?」


 フラウ! 

 そこで敵を挑発しながら、事実ではないことを世間に広げてくれないかな。


「なんだと! お前たちと同じドブスであるオレがこんなに苦労しているのに、お前らは結婚だとぉーーー!」


「そうだ。聞いて驚け! 私とミュウは、毎日交代で旦那様に『アーーーン』をさせているぞ」


「膝枕で耳掃除もしてますよ。むしろ、本人にはやらせないスタンスです」


 あの……。

 恥ずかしい新婚さんの実情暴露よりも、今は砂賊との対決、交渉が先……。


「オレなんて! こんなに巨大な船団を率いているのに! みんなオレ以外の奴とくっついて、子供とかできちゃって、オレが船団長だから安住の地を探すことになって! こんなのおかしいだろう?」


 この船団、私たちが思っているほど戦闘力はないのかも。

 船団員の女性たちが、男性とくっついて妊娠者多数だから、砂獣狩りをやめて砂賊稼業をやる羽目になった?


「タロウ様、私、マンガというので見ました! 『ペアを組んで!』と先生が言ったら、一人だけ余ってしまう人」


「フラウ、それ以上は言ってはいけない!」


 アイシャという人。

 責任感が強いんだろうな。

 自分を頼ってきた人たちを見捨てられないんだ。

 でも、自分はなぜか一人……なんか少し涙が出てきた。


「おかしい……こんなことは許されない……そうだ! うしろの毛深いのが言っていたな! 移動都市はその男性がいないと維持できないと。つまり、お前らは嫌がるその男性を力で拘束して強引に結婚したんだな! いくらドブスだからって、なんて酷いことを!」


「完全に誤解したじゃないか! 責任取れよ! ゴリラ!」


「ゴリは知らないゴリ」


 ゴリマッチョの奴、話をややこしくしやがって!

 見捨てようとした仕返しだな。


「ならばよし! お前らドブス三人を追い出し、この男性をオレが助け、船団は移動都市をいただく。これで解決だ!」


「なぜそうなる?」


 だが、私の言い分などアイシャの耳には入らないようで、彼女は得物であるエストックを抜いて、剣先をララベルに向けた。

 頼むから、人の話はちゃんと聞いてほしいと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁこういうコメント欄になるよなぁ…
[気になる点] ゴリが出てきてからストレスがたまります。
[一言] >私とミュウは、毎日交代で旦那様に『アーーーン』をさせているぞ 一瞬この『アーーーン』を所謂『ピーーー』と勘違いしてドキドキしましたw
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