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第五十三話 第二の電子妖精

「キリンさんタウンの電子妖精『キリンマン』キリン。あなた方の移動都市の電子妖精は、最新型でスペックに余裕があっていいキリンね」


「ええ……」


「(タロウ殿、首が長い変わった生き物だな。この生き物は、キリンと鳴くのか)」


「(いやあ、それは違うと思うな。彼だけだと思う)」


「(うちのゴリさんもそうですけど、どうして語尾が変なんでしょうかね?)」


「(親しみを感じてもらうためとか?)」


「(タロウ様がいた世界には、こういう生き物がいるんですね)」




 さて、挨拶も済んだので交易となったわけだが、キリンさんタウン側の要望するものは、果物、ジュース、果実酒、そして炭酸水であった。

 あとは、ドライフルーツも大量に所望された。

 果物好きの砂漠エルフにとって、携帯可能で簡単に果物が楽しめるドライフルーツは素晴らしいアイテムなのだそうだ。

 あとは、ナッツ類も人気であった。

 ニボシはいらないと言われたけど、ニボシは仕方がないかな。

 カルシウムが取れるんだけどね。

 そして、こちらが代わりに貰うものは魔法薬の類であった。

 砂漠エルフの魔法薬は怪我や多くの病気に対応できる優れもので、とても高価な品である。

 大量の果物を渡さなければと思ったら、他にお願いしたいことがあるそうで、これをやってくれたら果物は適量でいいと言われてしまった。

 その一環としてキリンさんタウンの電子妖精に会ったのだが、移動都市の名前どおりキリンの姿をしていた。

 全長二メートルほどのキリンが私たちに挨拶をしてきた。

 その名は『キリンマン』だそうで、ゴリマッチョ並に変わった名前であった。


「この移動都市の電子妖精が、私たちにどのような願いをしたいのです?」


「私のアップデートキリン。あなた方の移動都市の電子妖精ならできるキリン」


 キリンマンによると、最新の電子妖精の助けがあれば自分は性能アップができるそうだ。

 自分は古い方の電子妖精なので、是非性能アップをしておきたいと。


「性能が上がるのか。ということは、うちのゴリマッチョ並になると?」


「そこまでは無理キリン。あなた方の移動都市みたいに、他の廃墟と化した移動都市の吸収などはできないキリン。今の規模のまま性能アップが精々キリンね。私は古い電子妖精だからキリン」


 ゴリマッチョの助けがあればある程度性能アップできるが、ある程度が限界というわけか。


「ゴリマッチョは、最新型の電子妖精キリン。有機スーパーコンピューターの増設もできるキリンが、私には無理キリン。性能アップして、ドームを装備したいのが一番の目的キリン」


「ドームか……」


 移動都市を覆うガラス状のドーム。

 特殊な物質でできているそうで、これがあればドーム内の水分の蒸発をかなり抑えられる。

 外に逃げる水が減るので、水の補給頻度が劇的に減るそうだ。


「我々からもお願いします。代金として魔法薬をお渡ししますので」


「ドームがあれば、オアシスで水を購入する頻度が減ると?」


「我らは自給自足の農業や、魔法薬の材料である薬草栽培で大量の水を使うのですよ」


 今のドームがない状態だと、せっかく撒いても蒸発してしまう水が多いわけか。

 水はオアシスから補給しなければならず、当然無料ではない。

 水の補給頻度が減れば、ビタール族長たちも大いに助かるわけだ。


「我ら砂漠エルフたちは暑さにも弱いのです。人間に比べると、レベルアップの恩恵が少ないのですよ」


 砂漠エルフは、人間ほど体が頑丈ではない。

 移動都市での生活でも、体調を崩す者が人間よりも多いそうだ。


「温度を調整する魔道具もありますが、あれは高価で作るにも手間がかかるので、全世帯に普及していないのです。ドームがあれば、大型の魔道具を数台設置するだけで済みますので」


 あのドーム、ただのガラスではないので、砂漠の炎天下を移動してもドーム内が暑くならないのだ。

 日の光は通してしまうが、それは農業をするには都合がいいからな。


「わかりました。依頼をお引き受けしましょう」


「助かります」


 実際に作業するのはゴリマッチョだけど、断ることがないと思うので、私たちはビタール族長からの依頼を引き受けることにしたのであった。




「バナナが沢山いるゴリ」


「むしろそれで済むのか」


「キリンマンを動かす有機スーパーコンピューターを、今の大きさのまま性能アップさせるのは可能ゴリ。でもその作業を行うためには、ゴリ自身の有機スーパーコンピューターの大型化と、メモリーの増設が必要ゴリ。他に必要な原子は砂漠の砂から集めているから、有機スーパーコンピューターの材料であるバナナだけでいいゴリ」


「ゴリマッチョさん、感謝するキリン」


「同じく生き残っている電子妖精同士、仲良くするゴリ」


「他の電子妖精と合わせて、動物園みたいだな」


「オッサンの言うとおりゴリ。ゴリたち電子妖精は、通称『動物園シリーズ』と呼ばれているゴリ」


「じゃあ、他の電子妖精も動物なんだ」


「そうゴリよ」




 ゴリマッチョがすんなりと依頼を引きうけてくれたのでよかった。

 作られた存在である電子妖精たちだが、同胞愛は存在するようだ。

 ゴリマッチョは私からバナナを受け取ると、キリンマンの性能アップ作業に入った。

 一日かかると言われたので、その日はビタール族長の屋敷に泊めてもらい、翌日外に出ると、すでに移動都市にはドームが展開していた。


「早いな」


「電子妖精の性能が上がれば、このくらいは簡単ゴリ」


「ゴリマッチョさん、感謝します」


 ゴリマッチョにお礼を言うキリンマンだが、見た目では性能アップしたかわからなかった。

 電子妖精……正確にはアバターみたいなものだが……昨日とまったく外見に変化がなかったからだ。


「いやあ、これでこの移動都市も過ごしやすく、農作物や薬草の生産量も上がります。カトゥー族長たちは、我らキリンさん族の友ですよ」


 喜んでいただけてなによりだ。

 それとこの世界に限って言うと、私からすれば、人間よりも砂漠エルフの方がつき合いやすいというのもあった。

 女性の好みも共通しているからな。


「魔法薬を沢山譲っていただいて感謝します。私では作れないので」


 ミュウは魔道具は作れるのだが、魔法薬は極簡単なものしか作れないそうだ。

 となると、万が一に備えて魔法薬の備蓄は必要だ。

 この仕事を引き受けてよかった。


「ところで、魔法薬はもっと必要ではないですか?」


「あれば欲しいですけど、そちらの備蓄は大丈夫ですか?」


「ご心配なく。我らは交易の民。外のものが欲しい時には代価がなければ買えません。それに備えているのですよ。ですから、果物や果実酒が沢山欲しいのです」


「そうですか……」


 それにしても砂漠エルフとは、本当に果物が好きなのだなと、私は実感してしまうのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドームを張ること自体は賛成ですが、その副次効果として人間達から距離を置く事になりそうなのが気になりますね。まぁ頭が悪い事に相手の嫁を馬鹿にし続けてきた結果だと考えると致し方無しか。取引相手を…
[良い点] ここ数話で、やっと女性の美醜の基準が同じ人達(エルフだけど)が出てきて、嫁二人の自虐展開を読まずに済むようになってスッキリ。 [気になる点] エルフ嫁来る? でも、この話のエルフはエルフら…
[一言]  まっとうな取引は良いものです。
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