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第四十二話 巨大デンジ君

「ちょっと! このままだと負けるわよ!」


「全然討伐数が違うじゃない!」


「アドルフたちって無能じゃないの!」




 気に食わないブスたちに土下座をさせて楽しもうとしたのに、始まった勝負は私たちのパーティが圧倒的に不利だった。

 積まれたデンジ君の残骸を見れば、勝負の行方はあきらかだ。

 このままだと、私たちが土下座をする羽目になってしまう。

 あのドブスたちに、この美しい私たちが土下座?

 絶対にあり得ないから!


「どうする? 討伐を手助けする?」


「そんなことできないわよ!」


 もし手に傷でもついたらどうするのよ?

 私たちの最大の武器は、この美しさ。

 だから、後ろで見ているだけでアドルフたちがみんなやってくれるの。

 下手に戦闘に参加して、跡が残る怪我でもしたらどうするのよ。


「私たち、レベルは結構高いけど、戦闘経験皆無だものね」


 それもあるわ。

 私たちの美しさは、貴族でも一目置くくらい。

 それを失うリスクのある戦闘はせず、レベルアップの恩恵のみを受けることが大切なわけ。

 レベルアップすれば、怪我や病気をしにくくなり、もしなっても完治が早くなる。

 日焼けもしないで済むし、肌の張りもよくなってシミやシワも出にくくなるわ。

 決して、戦闘のためのレベルアップじゃないのよ。


「そうだわ!」


「なにかいいアイデアでも思いついたの?」


「簡単なことよ」


 二つのパーティが討伐したデンジ君は、ダンジョンの入り口に積まれている。

 あのオッサンは、たまにしか討伐した残骸を置きに来ないし、アドルフたちも同じよ。

 私たち以外誰も見ていないのだから、オッサンたちが獲得したデンジ君の残骸を、私たちのパーティの方に引き寄せれば。


「さすがにセコくないかしら?」


「じゃあ、このまま負けてあのドブスたちに土下座する?」


 これまで散々バカにした、しかもドブスたちによ。

 私は、プライドが許せないわ。


「バレないわけないと思うけど……」


「押し切ればいいのよ」


 どうせ、難儀を背負い込むのはアドルフたちよ。

 騒ぎのドサクサに紛れて、私たちは姿を消せばいいじゃない。

 実にいいアイデアね。


「それに、もしこの件が大騒ぎになったとしてよ。みんなは、私たちとドブスたち。どっちの言うことを信じると思う?」


「それは私たちね」


「でしょうね。ドブスの言い分なんてみんな信じないわよ」


 人は見た目がすべてよ。

 勝負の結果を誤魔化したのはドブスたちだって騒げば、大半の人は私たちを信じるに決まっている。

 だって、あいつらはドブスで、私たちはとても美しいのだから。

 あいつらは、居た堪れなくなってオールドタウンを出ていくはず。


「あいつらを追い出してしまえば問題なしよ」


「それもそうね」


「手が汚れるし、傷がつくかもしれないけど」


「その時は、アドルフたちに高価な傷薬でも貢がせればいいわ」


 そのための、アドルフたちなのだから。

 彼らはブ男ばかりだけど、まあハンターとしては強いから、一緒に行動してあげている。

 いまだ手すら握らせていないけど、こんな美女たちと一緒にパーティを組めるのだから、光栄に思わないと。

 文句があるのなら、別にいいわ。

 他に、私たちと同じパーティになりたい男性ハンターたちはいくらだっているんだから。


「とにかく、私たちのパーティの方に残骸を集めてしまえばいいのよ」


「そうね……重たいわね」


「ねえ、これって死んでるんだよね?」


「当たり前じゃない」


「いきなり怖いことを言い出さないでよ」


「でもさ、私たちの残骸の山が、今少し動いたような」


「気のせいよ。アドルフたちが、デンジ君相手にしくじるわけないでしょうが」


「それもそうね」


 なにを動揺しているんだか。

 早く私たちの残骸を高く積み上げて、この勝負は私たちの勝利だと偽装しなきゃね。

 そして、あのドブスたちに土下座させてやるのよ。

 いちいち反論してきて。

 あのオッサンも、必ず土下座させてやるわ。


「ねえ、やっぱり動いているわよ」


「はあ? どうせ風でも吹いていたんでしょう」


「ダンジョンの中で? あり得ないでしょう」


「じゃあ気のせいよ。ちょっと小細工するくらいで怯えて。バカじゃないの?」


 念のため、積み上げた残骸を確認してみたけど、別に動いていないじゃないの。

 この程度のことで動揺して、私たちはレベルも高いんだから大丈夫よ。


「ねえ! 後ろ!」


「はあ? もういい加減に……」


 もう一度振り返って残骸を見たら、なぜかすべての残骸が大きな塊となっており、さらに太い手足も生えていた。

 まさにデンジ君の巨大化といった感じだ。


「デンジ君って、こんなに大きな塊になるの?」


「知らないわよ」


「逃げないと! ぎゃぁーーー!」


 今、私たちの目の前で、仲間が一人デンジ君の巨大な足で踏みつぶされた。

 完全にペシャンコにされ、地面には大きな血の跡が……。


「あんたがズルしようとするから! ぎゃぁーーー!」


 続けてもう一人が、巨大なデンジ君の足で踏み潰される。

 あそこまでペシャンコにされてしまったら、まず生きてはいないだろう。


「私はそう簡単にいかないわよ。だって、レベル百五十二だし」


 こういう時のためにレベリングをしておいて正解だった。

 いくら巨大化しても所詮はデンジ君。

 レベルが高い私を踏み潰すなんて不可能なはず。


「やれるものならやってみなさい。私は……えっ?」


 気がついたら、私はすでに巨大なデンジ君の足で踏まれていた。

 体中が……まったく痛くない。

 自分でもわかるほど体が潰れていて、血が大量に出ているのに……。


「私、死ぬの?」


 考えられたのは、そこまでだった。

 次の瞬間、私はさらにデンジ君の巨大な足によって踏み潰され、永遠に意識を失ってしまうのであった。


 次も、美人に生まれてきたいものね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小説で良かったと思いました。 何故か最後の死に様がちょっとイイかなと思ったんですが、 映像付きなら単に性格の悪いデブスがくたばっただけにしか見えないでしょうし。
[一言] 救い様の無い愚者は自ら首を括る縄を綯う訳でしたね。まぁ来世も救い難い人物に生まれ変われる事でしょう
[良い点] うわぁー ペッチャンコのセンベエになりましたか。 因果応報で実にいい気味です。 また美人に生まれかわれると良いですね。 あの外見に。
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