第四十話 姫プレイ?
「見て見て、無能なハンターたちがいるわね」
「それも、ドブス揃いで笑えるわ」
「リーダーは冴えないオッサンだし、こんなオッサンのどこがいいのかしら?」
「相手にしてもらえるからでしょう。ろくに稼げないドブス女ハンターって嫌ね」
今朝、ちょっと痛ましいアクシデントがあった。
今日も『ネットショッピング』生活を充実させるため、スカルヤドカリ退治をしようとダンジョンまでの道を歩いていたら、自称一流美少女ハンター四人組と遭遇し、進路を塞がれて嫌味を大声で言われたのだ。
こういうことに慣れた……ララベルたちは慣れているので、無視するようだ……女性陣はいいとして、私は正直複雑な心境だ。
きっと私の思っていることは、この世界の大半の人に理解してもらえない。
四人組は一流美少女ハンターという肩書を持っているが、この世界の美少女の容姿については以前語ったとおり。
顔は……以下自主規制で……ゴニョゴニョで、この世界は太っている女性ほど美しいという価値観なので、四人ともハンターにあるまじき太り方をしていた。
いくら美醜の基準が違う世界とはいえ、物理的な法則は覆せない。
太っているハンターが、戦闘でちゃんと動けるはずがないのだ。
勿論ハンターにも、太っている者がゼロというわけでない。
ただ、魔法が得意だったり、素早さに頼らない戦闘スタイルを確立している者でなければ、当然砂獣との戦いで不利になるので、太っている一流の人は少なかった。
では彼女たちはというと、後ろにいる男性パーティがその答えだ。
ようするに、一流の男性ハンターたちに寄生して生きているのが彼女たちというわけだ。
この世界、男性の美醜の判断基準は地球と差がない。
彼らはハンターとしては強いようだが、どう見てもイケメンとは言えない。
そんな彼らが美しい彼女たちに寄生され、下駄を履かせているわけだ。
正直なところ、決して健全な関係とは言えないが、この世は男女平等。
逆に美男で弱い男性ハンターたちが、決して容姿がいいとは言えない女性ハンターたちに寄生している事実もあり、それはこのオールドタウンでも何度か目撃している。
その事実に対し、私からなにも言うこともなかった。
ただ、私から見れば美女ばかりのララベルたちを、ドブスだとバカにして笑っているクリーチャーな彼女たちを見ていると、色々と居た堪れなくなるだけだ。
『お前らの方がブスじゃねえか!』と、素直に叫べる若さと失礼さがほしいと思う私であった。
いい年をした大人がそれを声を大にして言うのは、常識ある一社会人としてどうかと思うし、この世界において、私の言い分など少数派の意見で賛同者はほぼいないはず。
そしてなにより、彼女たちと同じフィールドに立ってしまったようで嫌なのだ。
誰か、この私のモヤモヤを解消してくれる人はいないものだろうか?
「(無視すればいいな)」
彼女たちは、ララベルたちが弱いと勘違いしてバカにしていたが、これには理由があった。
私と同じパーティに所属すると倒した砂獣が消えてしまうので、私たちはこのオールドタウンに来てから二週間ほど。
ハンターとして活動できていない、成果がない無能という評価を受けていたからだ。
本当は、倒した砂獣はすべてイードルクに変換されてしまうので成果がないわけではないのだが、まさか『ネットショッピング』のことを他人に話すわけにもいかず、私たちの評価は『いまだ砂獣を倒せない弱小ハンターパーティ(構成要員がブスばかりで、リーダーも冴えないオッサン)』であった。
「待ちなさいよ!」
「なにかご用件で?」
「私たち、ビューティー団を無視するなんて生意気よ!」
凄いなぁ……。
パーティー名が『ビューティー団」って、そのまま……私にはとてもそうは見えないけど……。
あとネーミングセンスが……自意識過剰にもほどがあるというか……。
「挨拶くらいしたら? 美しい私たちに敬意を払って、しっかり頭を下げてね」
「ドブスで、砂獣を一匹も倒せないなんて、生きていている意味があるの? あなたたち」
「人間に生まれてきて、取柄が一つもないなんて可哀想だわ」
いかにもテンプレな悪口のオンパレードで、ララベルたちをバカにし始めたビューティー団の女性メンバーたち。
後ろの男性たちは、『なんで俺たちがこんな無駄なことを……』という表情を浮かべていた。
確かに、無視すればいい私たちに、進んで喧嘩を売るバカな女たちだからな。
だが、彼女たちはこの世界では絶世の美女扱いであり、彼女たちの歓心を買いたい彼らが、その無駄な行事につき合わない理由は存在しなかった。
率直な感想を言わせてもらえば、こんな見た目の性格もドブスな女たちのマウント行為に私ならつき合わない。
彼女たちがドブスに見えるのは、今のところ私だけなのだけど……。
それにしても、これまでよほどチヤホヤされてきたんだろうな。
見事に性格が歪んだようだ。
私に言わせると、彼女たちの方がなんの取柄もない女たちであった。
なにしろ一流ハンター気取りなのに、まったく戦闘経験がないのだから。
でも、寄生してレベリングをしているから、レベル自体は相当なものなのだと思う。
でなければ、無駄な喧嘩など売ってこないであろう。
「(レベルは高そうだけど……)」
「(レベリング行為だろう? よくある話だな。ざっと平均して百五十ってところだな)」
ララベルは、別に珍しいことでもないと言う。
すぐに彼女たちのレベルを鑑定して、私に教えてくれた。
この世界、レベルが高い方が色々とお得なので、自分は戦いたくない物臭な美男美女が、腕のいいハンターを唆してレベリングをすることがよくある。
同じパーティになって後ろで待機していれば、勝手に寄生相手が経験値を稼いでくれるというわけだ。
獲得経験値がパーティで頭割りになってしまうため、普通のハンターは嫌がるが、貴族や金持ちが高い報酬を出してレベリングの依頼をする時と、後ろにいる連中のように美男美女におだてられてレベリングに協力してしまう者たちもいた。
詐欺……とまではいわないが、彼らは利用されるだけされて、将来はパーティを解消する羽目になるはず。
彼女たちが、レベリングに協力した彼らとつき合ったり、結婚するなどまずあり得ないのだから。
どの世界でも、美しい花には棘があるというわけだ。
「(レベル自体は高いから、自信があるんだろうな)」
レベリングで高レベルになったので、いい気になってしまったというわけか。
そのせいで、弱そうだと思ったハンターを見つけてはこうやってバカにしていると。
まったく生産性のない行為だが、バカほどこういうことが楽しいのであろう。
なぜって?
それは、彼女たちがバカだからだ。
「もういいですか?」
好きに言わせておけばいい。
私たちは私たち自身の幸せを追求するため、今日も予定があるのだから。
君たちを相手にしている時間も惜しい、というわけだ。
「なっ! 私たちを無視するの?」
「では、なにか用事があるのですか? 今のところ、それがあるとは思えないのですが……」
用事があるのなら早く言ってほしい。
それにだ。
私からすれば、見た目も性格も悪いブスたちに長々と時間を取られるのは嫌なのだから。
「要するに、あなたたちはなにをしたいのです? その辺がよくわからないので教えてください」
「だから! 美しい私たちに敬意を払いなさいよ!」
「必要ないので嫌です」
彼女たちは、私たちの主君でも主人でもない。
そんな要求を受け入れる必要がなかった。
知らないとはいえ、元王女様に対し理由もなしに頭を下げろか、彼女たちは本当にバカなんだな。
「(性格のみならず、頭も悪いんだな)」
「(美しいので、なんとか生きていけるんですよ)」
ミュウも案外辛辣だな。
確かに、彼女たちの長所は美しいという部分だけだ。
それもこの世界の基準なので、私からすればかなりのクリーチャー揃いである。
ついでに性格も頭も悪いとか、地球に生まれてこなくてよかったねというレベルであった。
このくらい、心の中で思うくらいは構わないだろう。
「それで、私たちはどうすればいいのですか?」
頭の悪い彼女たちと話をしていると埒があかないので、私は後方の男性ハンターたちにどうすればいいのか尋ねてみた。
するとどういうわけか、彼らはララベルたちを見て震えているようだ。
「(ララベル、これは?)」
「(彼らは優秀なハンターのようだな。つまり、私たちの実力がだいたいわかるのだ)」
「(とんでもない相手に喧嘩を売った彼女たちを叱れず、勝手に追い詰められているのですよ)」
特殊なスキルがなければ他人のレベルはわからないが、優秀なハンターほど、凄腕のハンターの存在に敏感であった。
彼らは、ララベルとミュウの強さに気がついているというわけだ。
寄生している美女たちが、勝手に自分たちよりも強いハンターたちに喧嘩を売り、しかも揉め事になれば、矢面に立つのは自分たち。
でも彼女たちは美しいから、ここで見捨てて冷たくされるのは嫌だ。
なにしろ、自分たちの容姿ではどう頑張っても美人にモテるはずはないのだから。
かと言って、彼らと彼女たちが結ばれるかといえば……難しいだろうな。
それでも万が一の可能性に縋りたい。
男の悲しい性なのだと思う。
「我々は、これからダンジョンに向かうんです。商売の邪魔をしないでくれますか?」
「そうだよね……」
「ハンターだからね……」
男性ハンターたちは、自分たちがいかに理不尽で無意味なことをしているのか理解しているようだ。
彼女たちに、『同業者のお仕事を邪魔するのはよくないよ』といった視線を送っていた。
なんとか穏便に納めたい意図が見え見えであった。
「なに同調しているのよ! パーティから抜けるわよ!」
「あんたたちの代わりなんて、いくらでもいるんだからね!」
「そう、私たちの美貌があればね!」
なんだろう。
私は、こいつらを『グー』で思いっきり殴りたくなってきた。
性格最悪じゃねえか!
「なあ、理不尽なのは理解できるけどさぁ……」
「俺たちの顔じゃあ、今後二度とあのレベルの美人たちに相手されないかもしれないぞ」
「そうだな……」
男性ハンターたち!
あのビッチどもの理不尽な要求に屈しないでくれ!
私からは、ドブスにしか見えないから余計に腹が立つ!
私もいい年の大人なので、口に出して言えないけど!
「こうなれば、今日の収穫量で勝負だ!」
「負けた方が土下座をするんだ!」
「これなら平等でいいはずだ!」
もう意味がわからない。
自分たちの言っていることが理不尽であると頭では理解していても、あの性格悪いドブス(美人)たちの機嫌を取らなければいけないとは……。
それほどアレはいい女なのか?
私だけが理解できないって……ストレスが溜まるんだな……。
「よし、わかった。今日の収穫量だな。勝負しよう」
「いいのか? ララベル?」
「今後も付き纏われると面倒なのでな。キッチリ片をつけた方がいい」
「そうですね。私たちが勝てばいいのですから」
「頑張ります」
どうやら、あまりの理不尽さに、ララベルたちの方が先にキレてしまったようだ。
自称美人ハンターパーティからの勝負を受け入れた。
負けた方が土下座……この世界にもあったんだな……することが決まり、二つのパーティはとあるダンジョンへと向かうのであった。