反対派vs賛成派
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会場前は今日も騒然としていた。プラカードを掲げた競技会反対派と会場入りしようとしているファンとが、いくつかのグループに分かれそこかしこで言い合い、揉み合いしていた。中には会場に無理やり突入するつもりなのか入口ゲート前で警備員と押し合い圧し合いしているグループもあった。
「エイメン反対! 人殺しは止めろ! エイメン反対! 人殺しは止めろ!」
シュプレヒコールを叫ぶ集団があった。
「おい! エイメンは人間じゃねえだろ!」
会場に入ろうと並んでいたファンの青年が、入場を反対派に邪魔され、顔を赤くして言い返した。
「顔もあって、胴体があって、手足がある。立派な人間じゃないの!」
メガネをかけあまり髪の手入れをしてない女性がファンの前に立ち塞がって言った。
「じゃあ、おもちゃの人形も人間かよ! 内臓ねえんだぞ!」
「エイメンは動いてるじゃない!」
「動く人形もいるだろうが!」
「じゃあ、エイメンじゃなくロボットにやらせればいいでしょ!」
「だからあ、エイメンはロボットなんだって! 機械じゃないってだけで」
両者の言い分は平行線のままで、歩み寄りや理解し合う可能性はまったくなく、言い合いは続いていった。
「動物虐待反対!]
反対派にはいくつかのグループがあり、こちらは動物愛護派のようだった。
「エイメンは動物なのか?」
こちらも入場待ちのスーツの壮年男性が静かに問いただした。
「人間じゃないと説明されてるんであれば動物なんだろ? 虐待すんなよ」
「動物の定義とは何かね? 1つは自分で生きていくことができる生き物のことではないのかね? その意味では三分しか独立して生きられないエイメンは動物とは言えないんじゃないのかな?」
「無理矢理、殺し合いなんてさせんなよ!」
男性の問いには答えずさらに言いつのった。議論がかみ合ってないようだが、男性も次の問いかけをした。
「無理矢理? それはエイメンの意思かね? キミはエイメンが嫌がってるって聞いたのかね?」
「あんなに血だって流すんだ。死ぬことだってある。嫌々に決まってるじゃないか!」
「キミたちは闘犬や闘鶏の動物にも聞いて回ったかね? 嫌々なら、なんで闘うことを止めないんだ、と。知りもしないことを何で決めつけるんだ。闘うことが本能だとは思わないのかね?」
ここの言い合いも不毛な平行線を続けるようだった。
「見世物反対! 人権守れ! 見世物反対! 人権守れ!」
こちらの集団では反対派の男性と、ファンなのか珍しく女性が言い争っていた。
「競い合うことの何が悪いの?」
「下品だろうが」
反対派の男性が、相手を女性だと思ってか見下すように噛みついた。
「じゃあパラリンピックはどうなの? レスリングあるわよ」
「あれはスポーツだろ。これは殺人だ!」
前々回のゴリラとカンガルー戦を指してのことだろう反対派が勝ち誇ったように詰め寄った。
「スポーツでもケガはするし、最悪の状況では死ぬこともあるでしょ。登山や自動車レースはスポーツとは呼ばないってこと?」
「屁理屈言うな! ルールがあるだろう。これはただの殺し合いだ!」
「そうならないよう、ルールをさらに決めていけばいいって話しじゃないの?」
別の集団では小競り合いも起きていた。ファンの少年が反対派のプラカードを奪い取り、それに激高した反対派が少年を小突き、数人同士での殴り合いになっていた。少年が奪い取ったプラカードには「暴力反対!」と書かれていた。
こうしたいざこざは会場前だけでなく、街中のパブなどでもよく見られる光景となっていた。それどころか、半ば恒例行事となった会場前の熱気が、そのまま試合会場内に持ち込まれ、観客の熱狂を狂気じみたものにしていっていた。