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ゴーレムはどんな夢を見るのか  作者: 法螺千三
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ヒトならざる者

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「さあ、かかってこい!」

 こう気合を入れた東洋系の男が見つめるリングは金網で囲われ、中に二人の人間が入っていた。

 いや、人間と呼ぶには異形すぎた。

 一人は身長百八十センチメートルほどで、腕が明らかに人間より長く、太かった。普通の人間であれば立ったときに腰辺りで終わる指先が、膝辺りまで達していた。

 もう一人は、こちらも身長は百八十センチメールほどだが、逆に腕が短く、臍の辺りまでしか届いていない。そしてそれ以上に異様なのが太腿で、胴体ほどの太さがあった。

 だが、二人とも全体としてはやはり人間にしか見えなかった。素肌にショートパンツ、脹脛までのシューズを履き、手にオープンフィンガーグローブを嵌めた総合格闘技やブラジルの〝何でもあり〟格闘技、バーリトゥード選手のようないで立ちの二人は、薄い体毛にほんのり少し褐色がかった白人の地中海人種に見えた。大きな腹筋が走る腹部は固く引き締まり、どこに内臓が入っているんだ?と疑問を抱かせる女性モデルのような細さなのもゴリラとは大きく違っていた。

 立ち姿も、ゴリラが二足歩行するときのような胸と腹をせり出し膝を曲げた姿勢ではなく、頭の先から足の土踏まずまで重心が一直線になった、人間の中でも「良い姿勢」とされるものだった。

 しかし、そんな異形の姿さえ霞んでしまうほどの特徴が二人にはあった。

 顔の形がまったく同じなのだ。双子レベルどころではない。細部まで見比べれば顎にある黒子の位置、大きさ、濃さまでまったく同じだった。

 しかも美しかった。

 耳と額を出した黒髪のショートヘアは強いカールを描き、広い額からは凹むことなく延びる高い鼻筋が通り、短い鼻下から小さめの口へと続く。髪と同じ色の眉とその下の褐色の目は近く、頬は滑らかに顎へと至っている。

 ヘアメイク・アーティストならこの顔が黄金比そのままであることに気づいただろうし、西洋彫刻家ならギリシャ神話の軍神アレス像のようだと思ったかもしれない。

 それほどの美貌の下に、とても人間のものとは思われない形の肉体がつながっていた。醜い体の上に乗る美しい顔。

(醜悪……)と、男は嫌悪感を心のうちに呟いた。

 ポーランドのユダヤ人たちは、ある種の祈祷を唱え、いく日間かの断食のぎょうを成し遂げたあとで、粘土あるいは膠で人形ひとがたを造る。そして、この人形に向かって奇蹟をもたらすシェムハムフォラス(神の名)を語りかけると、人形は生命を獲得するはずである。その人形は語ることこそできないが、話されたり命令されたりしたことはかなりの程度理解する。彼らはこの人形をゴーレムと呼び、あらゆる家事労働を行なうひとりの召使に仕立てるのだ。しかし、ゴーレムは家のなかから外に出ることはぜったいに許されない。その額には「真理エメト」(emeth)なる文字が記されており、ゴーレムは日ごとに体重を増やして、最初のうちこそ小さかったのに、家じゅうのほかの誰よりもたやすく大きく強くなるのだ。となると、彼らはゴーレムに恐れをなして、最初の文字を消し去ると、「彼は死んだ(メト)」(meth)しか残らないことになって、その結果ゴーレムは瓦解し、ふたたび粘土にもどるのである。

ゲルショム・ショーレム 『カバラとその象徴的表現』より

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