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18.07.24.T 自覚



 君と初めてカラオケに行ったとき、まさか二度目があるなんて思いもしなかった。

 あの頃の僕たちは、所謂ピークだったんだと思う。気が合っていて、まだ僕も君も笑顔だった。


 その日、夜遅く寝たはずなのに、学校に行く時よりもすんなり起きることができた。小学一年生が初めて遠足に行くときみたいな感じ。

 前回は駅前のビッグエコーだったけど、君の提案でジャンカラに行った。

 君がその時何を考えていたのか、何を思っていたのかは今でも分からないけど、僕が緊張しきっていたのは覚えている。

 先に着いていた君を見ていて、一分ぐらい緊張を解した後、声を掛けた。君はいつもどおりで普通だったけど、僕の内心は、寝ぐせ大丈夫かな、上手く話せるかな、緊張せんといてぇ。とかそんなことしか考えていなかった。

 店内に入ると、平日ということもあって静かだった。聞こえる音といえば、奥の扉の空いている部屋から宣伝が流れる音だけ。店員もそんなにいなかったからよけいに静かだったんだと思う。その静けさが、僕の緊張を限界まで引き上げたのは言うまでもない。


 扉を開けると、真っ暗な部屋とそれを微かに照らすモニターの明かり。そこには先ほどから聞こえていたのと同じ宣伝が流れていた。君、僕の順で入った。

 君が初めに、メジャーの曲を歌ったのを覚えている。曲名は知らない。テスト一週間前だった僕はほとんど耳を傾けず、勉強していた。

 ただ勉強の集中が続くのは一瞬だけだった。僕は一度歌いだすと、次々と歌いたくなる性格だ。この時もそうだった。君の次に一曲歌ってしまってから、僕の勉強に対するやる気は皆無になった。

 暗い部屋に響く君の笑い声。本当に声が高いと思った。

 僕は小学校六年生の時に声変りが始まった。友達は皆中学生だったのに。周りよりも低くなっていく声が嫌だった。皆成長期を越えて、声変りが終わったのに、僕はまだ終わっていない。何故か日に日に低くなっている。だから君の声には、嫉妬してしまっていたんだと思う。

 かなりの曲を歌った後、しばらく勉強を再開した。しかしここで、昨夜の失態が出たんだ。寝不足だった。

 椅子に横になって、僕は寝ようとした。けど寝やすい体制というものが僕にはあった。

 頭を少し高くして、右耳を下にして横になる。ざっくりといえばこんな感じだ。

 けれどもここに頭を高くできるものといえば、鞄ぐらいしかなかったが、生憎荷物も少なく高くはならなかった。何かないかと探した。

 夏の暑さのせいだろうか。君とここに来ているからか。寝不足のせいだろうか。何にせよ、僕は頭がおかしかったんだと思う。

 君の左大腿部に頭を置いた。君は初めは抵抗したが、直にその抵抗もなくなって、心地よく仮眠をとることができたのを思い出しているが、とても恥ずかしい。

 数分後、目を覚ました僕は君を見た。

 初めての角度だった。真上から君が僕を見ていた。

 顔を向けられなかった僕。部屋が暗いおかげで、顔が赤くなっているのはバレなかったと思う。

 僕の体はいつもその時しか考えていない行動を取ろうとする。その時、君を抱きしめそうになった。でも嫌われたくない。と思って、必死に理性を保った。


 一時間ほど経って、完全に勉強どころではなくなった時、僕らは暴れた。こそばし合って机を蹴ったり、椅子から落ちたりもした。高校二年生の男女がすることではないと思う。けど、当時の僕はそのような関係に、居心地の良さを感じていた。

 そしてその時は不意に訪れた。君をこそばしている最中だった。何かが解けるような感覚に襲われて、理性が利かなくなったんだ。そんな僕は、君にもたれかかったふりをして、ほんの数秒だと思うがくっついた。ばれてたかな?

 その時、自分を騙すのはもう無理だと思った。認めた。認めざるを得なかった。


『君が大好きだ。君に恋している自分がいる。君と一緒にいたい。君と笑っていたい。願わくば君と付き合いたい』


 さっきまで普通に見ていた君の顔。途端に見れなくなった。自分でも分かるほどに、顔が熱くなっていて、鏡も見ていないのに、今顔赤い。と分かった。見られたくないと思った。

 勿論、君に聞こえない声で呟いた。


「大好きだ」


 一方デリカシーのない君は、僕の考えてることなんか察することも出来ずに、


「顔赤いけど大丈夫?」


と笑いながら僕に聞いてきた。さすがに焦って、僕は一曲歌うことにした。




 僕は君に夢中になっていた。


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