18.07.15.S 夏の夜
僕たちバレー部はその夏の大会を、初戦で敗退した。
相手校は強かった。でも、尊敬する先輩の失敗が失点の大半を占めた。
その先輩はとても筋肉質で、体は僕よりも小さいのに、僕は彼に敵わなかった。
いつも練習の相手をしてくれた先輩。何かと構ってくれていた。何回も攻撃を合わせる練習に付き合ってもらった。休憩時間を割いてもらってまでお世話になった。なのに、大会前、腰がまだ治らなかった僕はメンバーから外された。悔しかった。申し訳なさを感じた。
当日、僕は少しでも力になりたいと思っていた。すると先生から、強いサーブ打てるか。と聞かれた。先生はイエスかノーの二択の答えを求めていたんだろうけど、
「打ってきます」
と僕は返した。
僕はサーブには自信があった。何かと自信があるやつだな。って思われるかもしれないが、そんだけ自信があった。毎試合サービスエースは取っていた。逆に取らなかった試合は一つもなかった。
腰の痛みも感じず、良好な状態でサーブを打った。
感触はバッチリだった。コースも。曲がり具合もいい。あとは落ちてくれるだけ。一番弱い奴の、一番取りづらい場所。でもそのサーブはほぼきれいに上げられた。
若干ネットを越えかけて、空中戦になったが、格段に実力が上の相手に勝てるはずもなく、僕のサーブはそれっきりだった。
僕は頭を下げた。先輩が言ったのは、僕が悪いから。の一言。なんの力にもなれなかった悔しさが一気に込み上げてきた。
その日の夜。最年長組と僕の空気は異様に重かった。
キャプテンは自分が決めきれなかったって言っていた。エースはサーブとカットが悪かったって、先輩は何も言わなかった。僕は三人に謝った。僕が早く相手のコートを分析できていれば、一セットは取れたかもしれません。って頭を下げた。
何時間か経って、夜中の一時ごろかな。皆と一緒にいたけど、僕は眠れず澱んでいたんだ。そんな時に、急にみんなが王様ゲームをしようだなんて言い出すんだもの。最初は、乗り気じゃねーよ。とか思いながら始めたが、前を向かないといけない僕にとって、仲間のその一言はとても嬉しかった。
その中の一回、僕は君に顎クイをさせられたんだ。
君は僕から視線を逸らして、また頬を桜色に染め上げた。
あ、虐めたいな。って思たのが率直な感想だった。でもそれをすると、絶対に何か言われるからやめたんだ。今思うと相当気持ち悪い。
夜中三時ぐらいかな?みんなが寝始めたのは。僕も初めは目を閉じていたんだ。でもなかなか寝れなかった。
暇になってしまった僕は、君たち全員の寝顔を見て、普段素直になれない分、いつもありがとう。と言おうとしたんだ。
皆には内緒でお願いします。
でもできなかった。起きてる人がいたし、君なんて布団を頭まで被って寝ていたから、顔を見ることができなかった。断念した。
明け方五時ぐらいにやっと眠りについた僕。やけに寒いなって思って目を開けたら、隣の天パに布団を取られていて、君の布団を取ろうとしていた。
朝から笑うことができた。ありがとう。
帰り道は大変だった。
暑い中先生は勝手にいなくなるし、バスは来ないしで、能天気のように見えて、実はけっこう僕も焦ってたんだ。
君に僕のピンクの髪留めをつけさせたのはこの時が初めてだっけ。
そういえば僕は君に髪を伸ばしたら可愛くなると言った。すると次会った時から急に、髪を伸ばす。とかいいだすもんだから正直面白かった。
今となっては伸ばす意味なんてもうないはずなのに、君は髪を切りたいというけど切らない。そのたびに僕は君に言ったことを思い出してしまって辛くなった。
髪が伸び始めていた君に、その髪留めはよく似合っていた。僕が持つよりも、君が持っていた方がいいと思ったからそれを渡したんだ。
何人かで「陸上部のエースみたいだ~」みたいなこと言って、撮影会みたいに何枚か写真を撮った。
この時だったはず。僕は君と過ごす時間を忘れたくないと思った。だから、君と過ごした時間を少しでも思い出せるように、君の写真を撮るようになった。嫌だったね。ごめんね。
帰りの電車も君の隣に座りたいと思っていたら、君から座ってくれたんだ。嬉しかった。大事な友達が自分を見てくれていると感じて、昨日の落ち込みがまるで嘘のように飛んで行ったのを覚えている。
多分君は、そんなこともあったな。程度にしか感じていなのだろうけど、僕にとっては大切な思い出の一つだ。
あの頃は君のノリがとてもよくて、今みたいに静かじゃなかった。だから僕は君に対して無茶苦茶できたし、笑うことができた。
あっという間だった二拍三日の試合。
君と過ごす時間は早く過ぎていくと分かった。