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手紙編~出会いと成長~


 今回は俺、十秋早紀が書きたいと思う。




 俺が宝と出会ったのは、雪がチラついていて風が冷たかった、寒い冬の日のことだった。

 そこは確か梅田。多くの人がうるさい中で、俺達はすれ違った。

 彼は俺と同じ容姿をしていた。首にある黶の位置まで同じだった。ドッペルゲンガーというものを思い出してしまうぐらい怖かった。

 彼は白のポロシャツに紺色のブレザーを着ていた。そこだけを聞いたらなんとなく普通だと思うだろ?でもその時間が問題だったんだ。すれ違ったのは朝十一時。本来なら学校にいる時間だ。

 その制服を俺は見たことがあった。喧嘩腰のやつが多くて、今時血の気が盛んな中学校のものだった。確か、一期生の九割がヤバい仕事に就いていると聞いたこともあった。

 俺も中学生だったが、いわゆる不良というやつ。テストは上の下ぐらいの得点をマークしてたが、授業には一切でなかった。人を殴る方が楽しかったから。

 恐怖心を好奇心に変えて、俺は彼に話しかけてみたんだ。


「なぁお前。めっちゃ俺に似とるやん」


 身長は俺の目線ぐらいの高さで、声変わりの最中って感じだった。

 彼と向き合って、俺は確信したよ。「あぁこいつ今から死ぬんだな。」って。目が生きてなかった。俺の目に映るのは笑顔だったのに、それを笑顔だとは考えられなかった。


「え?僕に喧嘩売ってるんですか?」


 こいつも血の気が盛んな奴かと思った。ワクワクした。

 俺達は人目につかないところで殴り合いをした。が、僕は彼に拳が届かなかった。彼は明らかに寸止めをして、当てないようにしていた。それでも何回か当たったけど。初めて追い詰められた。同じ容姿なのに。俺よりも筋肉質じゃないのに。俺の方が身長大きいのに。認めざるを得なかった。

 格が違う。

 俺は結構な場数を踏んできたから分かった。こいつには絶対に勝てないって。

 疲れきった俺は彼に聞いたんだ。


「お前、名前、何ていうねん。あと、そんな目して、何があったんや」


運良く、彼は答えてくれた。


「十秋早紀。全部失った」息切れなどしてなくて、余計にそれが悔しかったが、俺は身の毛がよだった。

「あの十秋早紀か?」


 十秋早紀。その名前はマイナーだった。どこの誰かも分からない。ただ一つ、彼を知る人が言ってたのは、

「関わるな」

だけ。

 でも俺の直感は、大丈夫。って言ってくれた。


「はい。でも今、貴方に十秋早紀って名前あげようと思いました。今日から十秋宝って名前に変えます」

「は?急にどうした?」

「十秋早紀の名前の由来。知ってますか?」


 俺は聞いた。彼のことを。できるだけ詳しく。



 二〇一四年十月八日。秋。彼は大好きな人と付き合ったらしい。

 話してくれている時に見せた笑顔から、本当に好きだったのだと分かった。目が潤ってて輝いていた。優しい眼差し。彼のその彼女に対する気持ちは、ただそれだけで充分だった。感情がないなんて間違いだった。

 でも、十月十七日。その彼女に最悪な形で振られたらしい。


 「校舎裏に行くと、彼女がいて、近づいたら後ろから何かで殴られて気を失ったんです。気がつくと上半身中に刃物で切り付けられた後があった。彼女はこっちを向いていたのに、何も止めなかったんです。彼女が仕組んだってすぐに気付きましたよ。でも誰にも言わなかったんです。あと友達が一人もいなくなりました」


 その話に出てきた女子の名前が、自然と早紀だということは、聞かなくても分かった。

 俺は身を乗り出して言った。


「それ犯罪やんけ!何で誰にも言わんかってん。アホやろ」

「僕が我慢すればいいだけですよね?黙っておけば彼女は責められることもなく、幸せに過ごせる。僕の家族だってそうです。知ってしまったら絶対に辛くなるでしょ?」


 その言葉を聞いた時、俺はこいつが、自分よりも他人を選ぶ馬鹿だって気づいた。そして初めて彼に自分の拳が当たった。


「初めて殴られました。やっぱり痛いんですね」


俺は決めた。


「俺がお前の友達になったる。だから絶対に死ぬとか考えんなよ。仮に考えてても今後考えんな。わかったか宝」


これが俺と宝が出会った時のお話。





 彼と出会って早三年が過ぎた。

 いつも俺の勘は当たる。それは宝も知っていると思う。だから彼はいつも俺の言うことを聞いて、それは彼を良い方向へと導いていたつもりだ。

 もちろん俺も彼には色々と感謝している事がある。

 勉強を教えてくれたり、趣味にも付き合ってくれる。同い年ということもあって、何かと俺に構ってくれる。

 だから彼が初めて反抗してきた時はびっくりした。


 四月二二日日曜日。彼の試合を見に行った。

 腰を痛めていると言ってたのに、僕が我慢すれば一セットは取れる。運が良ければ勝てる。皆喜んでくれる。と言っていた。自己犠牲もいいところだった。

 見に行ってみると、中三の時に見た彼の試合とは比べ物にならない、なんとも盛り上がりのない会場だった。欠伸を何回したか分からない。

 初めのセットは出てなかった。その代わり、背の高い人がでていた。やっぱり痛いのかと思ってた。

 二セット目、レフトと呼ばれる位置に宝は立っていた。俺はバレーボールには初心者だが、しんどいポジションというのは直感が教えてくれた。

 試合開始のブザー。サーブが放たれた瞬間に多分サイドに移動するのだろう。彼の筋肉量なら早く動けるし、本番にも強いタイプだ。でもその日は違うかった。

 動けてない。

 腰を押さえている。

 屈めてない。

 表情が歪んでいる。

 色々と思うことはあったけど、俺は上から応援していた。

 そんな宝だったが、一番点数を取っていたのは誰が見ても分かったと思う。でもそのたびに腰を押えて、視線が右上の誰もいない所を見ては顔歪めていた。確かそこは中学生の時、宝の女子が応援する定位置だったと直接聞いたことがあった。

 二セット目を取った時は俺も嬉しかったよ。上で喜んでた。同時に、まだ忘れてないのかって思った。でも彼はそんなことどうでもよさそうに、とびっきりの笑顔を観客に向けた。俺にじゃなくて一人の女の子に。

 宝が言っていたけど、時が止まることって本当にあったんだ。

 その子の髪の毛で顔は見えなかったけど、絶対に気があると思った。それだけならいい。俺の勘は彼がまた壊れると叫んだ。

 俺は彼に教えることにした。その女子を信じるなと。


 彼の帰り道で待ち伏せた。鳥が鳴いていた。草が揺れていた。川が流れている音が響いていた。電線が揺れていた。わざとイネがある田んぼの隣で待ち伏せた。今日はこっちで帰ってくるって思ったから。案の定、彼はいつもと違う道で帰ってきた。

 俺は彼を殴った。懐かしい感覚だった。

 これで大丈夫だと思ったよ。いつもは殴らないから念を押せたとも思った。

 でも彼は聞かないどころか反抗してきたんだ。

 俺は彼に傷付いてほしくなかった。大切な友達だから。彼が傷付いたら俺には親友がいなくなる。唯一の親友を失いたくなかった。

 どんだけ俺が感情的になっても、宝は聞かなかった。それだけでなく「初めて」反抗してきたんだ。ショックだったよ。でも成長していこうとしている姿には少し嬉しさを感じた。

 下にあった目線はいつしか僕と同じになっていたように、こいつは上しか見ないようになったんだと。寂しかったけど、やっぱり嬉しかった。

 壊れたら慰めてほしい。と言われた時はイラってしたけど、それが俺の仕事だから、その時は後ろ姿を押すことにしたけど、実際はすぐにでも止めたかった。

 また日を改めることにした。



 今、貴女と宝がどんな間なのか俺には分からない。きっと苦しんでいる宝を見ると、よくないのだろうと察しがつく。

 もし貴女が優しくて、会ったことのない俺の頼み事を聞いてくれるなら、どうか宝と一緒にいてやってほしい。

 小説を投稿する場所なのに、手紙になっているのは予定通りなんだ。許してほしい。

 でもこれだけは覚えておいて。

 彼は、君には勿体ない人材だ。


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