18.01.21.S 僕の意識
君の第一印象は「真面目」だった。
堅そうで、とても近寄り難い雰囲気。僕は何人もそのような人と話しかけてきたが、どれも苦手で、すぐに縁を切っていた。
もちろん例外というのは存在していて、君はその内の一人だった。
僕よりもいくつか背が高くて、慣れていない場にいる君は緊張していて、そこにただ立っているだけなのに、とても凛々しく感じたのを覚えている。
ただ時々こっちを見てきては、睨むような、蔑むような眼差しをしていたのには、かなりイラッってきた。
僕はというと、君とは正反対の「不真面目」だった。
初めて君を見た文化祭準備では、先輩に仕事を押し付けて遊びに行ったり、何かを任されては、すぐに投げ出した。今思えば、何してるんだろう。とか冷静に考えることができるけど、その時はこの感覚が鈍っていたんだと思う。
おまけに髪も染めていた。茶色よりも明るくて、腐り始めたオレンジみたいな髪色。
関わりたくない人間のうちの一人には入りそうな雰囲気をしていた。
そんな僕と君。初めて話したのは、寒い冬の日。道路に薄っすらと雪が積もっていた、部活の試合の日だったと思う。
寒い体育館の中、得点係を震えながら二人でしてたっけ。
「そっち点数入ったよ」
僕は試合観戦に夢中になっていた。ここのコースに打ってくる。サーブは何番にこんぐらいのスピードを。とか考えていた。
夢中になりすぎて、自分の仕事をすっかり忘れていた僕に、いつも通りの不愛想な君が言ってくれた。
その時返した、お前よく俺が捲ってないの分かったな。という一言が君に初めて言った言葉だ。
僕は不真面目だった。
ポケットに手を入れて立っていると、そういうことに厳しい先生に指示された部員が
「出しとけ」
と言ってきた。
中学生の頃は強豪校に属していて、勝てば許される環境で育ってきた。だからそんな態度で注意されたことに驚きを隠せず、君に、出しとくもんなの?と聞いた。
「あたりまえ。常識やで」
やはりこいつは笑わない。苦手意識が生まれた。
僕は今弱小校にいると痛感して、とても息苦しく感じた。
弱いところじゃこんなに楽しくないのかって思った。だからそれまで不真面目にしていた部活に力をいれることにしたんだ。勝ちたいからじゃない。自分の過ごしやすい環境作りのためにだ。
結局、練習の積み重ねが大切なスポーツじゃ、急に上手くなったりするわけはなく、初戦から格上かつ年上と当たった僕らは惨敗してしまった。
その日の帰り道。曽根駅へ向かった道中のことだった。
こっちの方が遠回りだな。電車賃なんぼやっけ。俺が六人おれば勝てたんとちゃうか。とかそんなことを考えながら、疲れた足で緩い坂道を上っているとき、ふと前を見た。それは何の意味も含まない行動だったのに、たった一瞬のそれに、目が釘付けになった。
君が笑っていた。
時間が止まることってあったんだな。衝撃が走ったよ。血液が右腕を流れているのが分かった。心臓が体中に酸素を必死に送ろうとしたのも分かった。あんな感覚初めてだった。
いつも堅い雰囲気で、真面目で、不愛想で、下手な作り笑いっぽい笑顔をする面白くない奴だと思っていたけど、こんな表情もできるのだと感心した。
本当につまらないやつだと思っていたのが、ここから面白そうなやつになった。
空は曇っていたはずなのに、やけに眩しく感じてしまった。昼間だったし、曇りの方が紫外線が多いし、当然だったのかもしれない。
でも、久しぶりに人の笑顔を不快だと思わなかった。それだけでなく、綺麗だと、まだ見ていたいとも思ってしまった。不覚だった。
僕は君を知りたいと思った。