三話 純白の少女
なんだ、この声…聞いたこともない…初めて聞く声だ…何度も何度も…頭の中で響いてる…悲しそうに…泣きそうに…何度も何度も…。俺はどうしたらいいんだ…。この子は頭の中で何度も「助けて」…と同じ一言を繰り返し伝えてきてる…。
周りを見渡しても、彼と同じように地に膝をつけ頭を抱え込み、悶絶している人の姿はない。自分が今現状正しいのではなく、自分が異常なんだ、と言うことを悟らざるをえないほど、周囲の彼を見つめる視線は、疑念か困惑を表していた。だがこの場合疑念では少しおかしいだろう。コンビニの前で、いきなり頭を抱え込んで倒れている姿だけを見れば疑念を抱くことに何ら不思議は感じられない。しかし、今の状況は日常のものとは違うのだ。爆発、このたった一つの、大きな出来事によって、周囲の人々からすると、彼の頭を抱え苦しむ姿は、爆発による二次被害、と考えてしまうのが妥当であるからだ。疑念なんて持つことは無く、むしろ彼らが考えることは、この少年にどうしてあげればいいのか、こえをかけてあげることなのか、救急車を呼んであげることなのか、ただそういうことへの困惑だけがこもっているのだろう。
そう思っている周囲を後ろに、神奈は行動を起こそうとしていた。
「何が起こってんだよ…そこにいるのか…?」
神奈は動こうとしていた。爆発の起きた駅の方へ向かおうと、彼の頭に語りかける少女が、そこにいるのかどうかを確かめようと。
どうすればいい…俺はどうすればいいんだ…?
あの爆発現場に行って、爆発の原因がもし能力者ならどうするんだ…?
俺は異能なんて持ってないんだぞ?助けてと言ってる女の子を助けようとして、それで俺が死んじまったら、本末転倒ってやつなんじゃねぇのか…?くそっ、なんだよこれ。動こうか迷ってんのか?立ってるじゃねえかよ…おれ…。なのに震えちまってるのかよ…。死ぬのが怖いのか…?まぁそうだよな…死ぬのなんてむちゃくちゃ怖ぇよな…くそっっっっっ!どうすりゃいいってんだよ俺はっ!
神奈は考えていた。自分の取ろうとする手段が、助けを乞う彼女のために、自分のために利害を生むのか。そもそも彼女はあの現場にいるのか。能力者による仕業によるものなのか。自分は今何をしたらいいのか。この状況で、この異常のなかで、どう身をゆだねていいのかわからず、ひどく困惑していた。
そんな時だった。神奈が見ている、爆発が起きた現場で、再び強烈な音がした。さっき聞いたものと同じ音だった。痛烈だった。彼の頭の中は一瞬でシャッフルされた。何も考えられない。何から考えていいのかわからない。どうしようもなかった。自分の愚かさに気づくしかなかった。駅前で起きた二度の爆発、頭に響く自分にしか聞こえていないだろう少女の声、それであって動くことのできない自分、こんな条件がそろって、自らの愚かさを悟らずにいることはできなかった。だが、完全に混乱の状態にある彼は、血迷ってしまったのか、自ら決断を下したのか分からないが、彼は唐突に走り出した。
「くそっ、行くしかねえよ!なんも考えらんねえよ!」
彼は現場に向かっていった。コンビニで買ったものは走り出すと同時に地面に捨て、とにかく向かうことだけに集中した。その後のことなんて何も考えず、とにかく走った。道路は現場とは反対方向へ行こうと、斜線なんて関係なくごった返していた。皆逃げること、自分の命を守ることが第一優先事項だろう。
コンビニから駅前の爆発現場までは到着するまでに全力で走って6分といったところだった。すでに最初の爆発からは10分が経過していた。
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「なんだよ、これ・・・」
目の前に広がっていた光景は、これがただの爆発なのかと思わせる光景が広がっていた。大きく火を吹いている火災の中心点に、横転した車、きっとあれが爆発の原因だろうと思わせる。その火の粉は周囲に飛び散っていて、一つの戦場のような雰囲気を醸し出している。鼻につく煙の匂いは、酷く嫌気がさすものだ。灼熱を放ち、炎で満ちるこの駅前は、どういうわけか、妙に肌寒さを覚えるものだった。それは畏怖や驚嘆のような、感情からくるものではなく、単純に大気から伝わってくる冷気によるものだ。神奈は恐怖しながらも、重い足取りで、この冷気がどこから来ているのかを確かめるべく、ゆっくりと歩きだした。ゆっくりと、ゆっくりと進んでいき、寒さの元凶に少しずつ近づいていく。歩き、着いた。冷気が最も強かろう、原因であろう場所に。
「ここかよ・・・」
ふざけんな。何なんだよ。さっきまで普通に人がいたんだぞ?そんなとこでこんな事件が起こったのか?あの声の女の子もここにいるのか?まさか、俺が夕べの時に感じた視線って・・・その子なのか・・・?わかんねぇ・・・何もわかんねぇよ・・・こん中に入れば分かんのか?くそっっっっ!!!!!どうにでもなれよっ!!!!
走った。怯え震えていた、痙攣していた足を再び全力で回転させた。喉が痛くなる。呼吸をするのがつらすぎる。寒い。寒い。寒い。寒い。――
痛い。痛い。痛い。痛い。――止まったエスカレーターを全力で駆け上がる。目的地は分からない。どこに向かえばいいのか分からない。そんな無意なことをしていたときに、足が止まった。6階のことだった。目に入った、倒れている、女の子が。
「くそ…いやがる…ほんとにここに…」
少女だ。俺に語りかけてきた、助けを求めてきた少女だ。確信があるわけじゃねぇ。でも、こんな偶然なんて有り得ねぇ。あの少女以外、俺はもう認めねぇ、あの子に決まってる。
少しずつ、彼女のもとに近づいていく。口からは白い息が出ている。足の痙攣はおさまり、恐怖は走った勢いと疲労から今は忘れている。見えてくる少女の姿。足は細く、すらりと伸びている。衣装は見たこともないものだ。なんと表現すればいいのかも分からない。所々に黄金の輝きを放つ菱形の平べったい結晶のようなものが装飾されている。なんせ、暗い通路の中、この光が彼女を照らし、居場所を伝えてくれたのだ。そして、腰まではないがとても長く、よく手入れされているのが分かるほど艶やかな、黒色の髪。だが、この少女の第一印象を語るとするならば、誰一人違わずに答えるだろう、言葉は違えども、同じ意を表す言葉だろう、そして彼も思った、その意を持つ言葉を。
――『純白』――
ただのこの一言に尽きてしまう。確かにこの少女は、とても美しい顔立ちもしている。可憐だ。芸能界にいてもおかしくなかろう美貌だ。スタイルも美しく、モデルのように作り上げられている。もう一度言うが髪は『純黒』というほど綺麗に黒く、艶やかだ。だが、それらの印象すら寄せつけず、このワードさえあれば、彼女を表現するのに他に必要ないだろうと思わせるほど、この少女は『純白』の具現化のようだった。
神奈はみとれてしまっていた。魅了されていた。この少女に。とは言っても、ほんの一瞬にしか過ぎない。彼はすぐに正気になって考え始めた。
この子が俺に助けを求めたって、俺に何ができるんだ。俺は無能力者だぞ。才能がないんだぞ。闘う才能が。誰かを守る才能が。そんな俺になんで助けを…?誰でもよかったのか?この子はテレパシーかなんかの能力者で、とにかく助けを求めて、通じたのが俺だったのか?故意なのか?
彼が考えをめぐらせているときだった。突然声がした。それは眠気の残ったような声だった。酷く疲れた人からはこんな声が発せられてもおかしくない。そんな声が、甲高く、心地よいまでに響き渡ってとどいてきた。少女が目を覚ました。ゆっくりと体を起こし、目の前にいる少年に目を向けた。すると、彼女からは悲鳴の声が上がった。
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
「うおっ!?」
神奈は叫びの声に驚き尻もちをついてしまった。
「い、いてぇ…なんなんだよ…?いきなり叫びやがって…なんもしてねえだろ…」
すこし呆れた様子で話す神奈をみて、少女は彼の顔を、悲しそうな顔で見つめた。
「ご、ごめんなさい…あなたのことをあの男と見間違えて…本当にごめんなさい…」
神奈は疑問に思った。ここには二人しかいないはずなのに、なぜ三人称視点の「彼」という単語が出てきたのか。疑問には思ったがすぐに自ら解答を出した。
「やっぱり、誰かに追われてるのか…?」
今にも泣きそうになる少女の顔を見て、そう問いかける。
「うん…私、ずっと追われてて…。でも、この街に見つけたの…。」
「何を見つけたんだ?」
「あなた。」
「え…?」
この子は、俺に故意的に悟ってきたのか?でもなんのために?俺に何ができるってんだ?
神奈はどうしてかと疑問に思い続けていたことを、少女に直接問うことにした。
「じゃあいまさっき、俺の頭に語りかけてきたのはお前なんだな?」
「そう、私。私ね、ずっと追われてるの、もう5年間はたったかな…でも最初はこんなことなかったの。襲われることなんて。私を追う人の目的は、私を殺すことだったの。最初は、私がまだフランスに住んでた頃、私に自殺して欲しいって頼んできた。でも、その時はまだ八歳なのよ?そんな子に、自殺なんてできると思う?無理に決まってるわ…」
「そうなのか…。なんで追われてるかなんて聞いてもいいか?答えたくなきゃいいんだけど…。」
「ううん、答える。あなたが私を助けてくれるんだって、私は信じてるから。そんな人に私が追われてる理由を答えないなんて、おかしな話よね。」
少女はおかしな話だと、小さな笑顔を見せながら言った。その笑顔は小さいけれども、とても心動かされるものだった。一瞬の笑顔を見せた後、また先刻の悲しげな表情へと変わり、追われる理由を語り始めた。
「私が終われてる理由は、私の異能が原因なの。」
「異能って、おまえ、能力者なのか?」
神奈はまた新たな疑問を持った。なぜ能力というのか、この子はフランス生まれ、フランスじゃなくともその周辺の地域なら、能力者ではなく、魔導士というのが正しいのではないか、と。この世界は魔導士、錬金術師によって武力構成が二分割され、世界勢力もほとんどその二つに分けられている。しかし、ここ日本では世界で唯一魔導士や錬金術師となる力を持てる者がおらず、生まれながらに持つ力、異能を持つものが存在している。つまり、神奈の疑問とは、日本生まれの純日本人でなければ、異能を持つ可能性はないはずだ、ということだった。それを問いただそうとする前に、彼女は口を開いた。
「なんで私が魔法じゃなく、異能をもつのかはわからない。でも、私が狙われる原因はその異能なの。」
「それって、そんなに強い力なのか?」
「強いのかはわからない、でも、その異能の名称は『神格化』。私はね、姿やできることは、この地球にいる人と同じなんだけど、唯一違うのは、立場が違うらしいの。私はそんなことなんて気にしてないけれど、魔導士にとってすれば、これは一大事なんだよ。特に、唯一神派の人たちにすれば…」
さっぱりわからん。『神格化』?立場が違う?何言ってんだ。まあ、魔導士ってやつは多神派と唯一神派ってのに分かれてるっつーことならしってんだけど…つながらねえ…その辺の事情は日本じゃ関係ねえからなあ…。
説明の意味が分からず悩んでいる神奈の姿を見た少女は、ひとつ小さくため息をついて、説明するのだった。
「唯一神派の人たちは、言葉の通り、ある神様だけを崇拝してるの。その神が絶対だって。じゃあ、そんなときに、同じ土壌の上に、自分たちが信仰している神様以外の神の立場の者がいるってなって、そんな自分たちに、力があったらどうすると思う?」
「そういうことかよ…。」
「わかってくれた?それで、私は昔言われたの。神殺しを探しなさいって。その人なら、私の中にある神の部分を消してくれるって。それで見つけたの、あなたを。」
またひとつわからなくなった。今の話で、その神殺しを探す理由もよくわかる。ただし、一つだけ腑に落ちない。なんで俺?
「どうしたの?またなにか悩んでる。」
少女は再び悩みだしたとわかる神奈の顔を見て、そう尋ねた。
「どうしてそれで俺になるんだ?」
「え?」
「え?」
え?ってなんだよ、え?って。分かんねえのは俺なんだぞ。それでどうしてそっちが困りだすんだよ。何か理由があるからそう決めつけてんだろ?じゃあそれをおしえてくれればいいのによ。
神奈は自分に疑念を抱いた彼女に対し、逆になぜ彼女が困り、何も答えないのかということにちょっとした憤りをおぼえた。それに対し、彼女もまたそれに対する返答を用意してきた。
「どうしてって、君は特殊な異能を持ってるでしょ?」
「は…?何だか知らねえけど、俺は異能は持ってねえぞ?無能力者だ。」
「え…?そんなはずないでしょ…?だってあの事件…もしかして、記憶を…」
彼女が何かを言おうとした時だった。神奈が通ってきた通路から、ものすごい暴風と冷気が襲ってきた。
直感で感じ取った。来た。彼女を追ってきたやつが来たんだ。と。
「おいおい、待ってくれよ。俺は戦えねえんだぞ!?」
「そんなはずないわ!あなたの力はとても強力なの!」
「だからっ!俺は、無能力者なんだぞ!?俺には異能なんてねえんだよ!」
そんなことより、このままここにいるのはまずい。まずい気がする。わかる、このままだと、確実に殺されるっ!逃げなきゃ、逃げなきゃ。この子を連れて行かないと、早くしないと間に合わねえ!
神奈は逃げることだけを考え、すぐに立ち上がり、来た方向とは逆の、非常階段の明かりが灯る方向へと走り出そうとしていた。
「おい!早くいくぞ!このままじゃやべえぞ!」
神奈は彼女にそういった。しかし、彼女は落ち着き、慌てふためく神奈を見て、私はいかない、といったのだ。彼は意味が分からなかった。助かるためにここに来たんじゃないのか、死んでしまってもいいのか、と。
「どういうことだよ!?死んじまうぞ、こんままじゃ!」
「私は別ルートで逃げるわ。あなたについていけば、あなたについていけば、あなたや、その周りの人に被害が及ぶかもしれないでしょ?だから、いかない。」
神奈は、この状況で、自分の命よりほかの人のことを心配する彼女を、尊敬の目ではなく、畏怖の目で見つめていた。
「ああそうかよっ!すきにしてくれっ!」
「待ってっっっ!」
走り出そうとした神奈を、彼女は大声で引き止めた。
「あなたには、創造する力があるんだって、私はそう聞いた…。私は信じてるよ…。あなたのことを…。」
神奈は何も言えなかった。そうして何も言わず、全力で走りだし、このデパートを出て行った。
そうして、彼女もすぐにたちあがり、すぐにその場を立ち去ろうと、身を動かした。
二人の姿が見えなくなってから間もなく、その通路に吹き付けていた暴風と、共に吹きつけられた冷気が、徐々に弱まり、ゼロになった。無風、無音の通路の中に、ひとりの声が響き渡った。
「あっれ~?ここに反応があったんすけどね~。気のせいだったんすかね〜?まあ、また探すとしましょうかねぇ~」
響いた男の声、それは若く、現代風な、お調子者のようなしゃべり方だった。神奈はこのデパートをあがっていくのに必死で、視界も狭かったからみえなかったのかもしれないが、このお調子者の男の後ろには、氷漬けにされた人の姿がいくつも転がっていた。
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神奈は走った。自分の家まで全力で。爆発による恐怖感とは違う、格段にレベルが違った。死をまえにした恐怖。生まれて初めて経験した、というより、一生を終えるまでにこんな経験があるかどうかすら分からない。そんな、不必要で、誰も望んでいない貴重な体験だ。家の前にたどり着き、呼吸を整えてから、1度深呼吸をし、中に入った。
「もうごちゃごちゃだよ…なんだったんだよ…
あの女の子、何言ってたんだよ…」
神奈は、逃げ出す直前に彼女が言っていたことを思い出し、考えていた。
俺が異能者?そんなわけないだろ。生まれてから一度も、なんにも恵まれてねえんだよ。創造をする力?なんだ、欲しいものでも作れんのかよ?
できねぇよ。それなら、なんか欲しいなって思った時、なんか起きるはずだろ?なんも起きたことなんてねえよ。俺は異能者なんてやつとはなんの関わりもねぇ。そんなやつに、あんな冷気を作り出す化け物に、勝てるはずねえだろ?そんなやつから、お前を助けられるはずなんてねえだろ?無理だよ、そんなことできねぇよ。殺される。死ぬ。死ぬのなんてごめんだな。まだ色々やりてえこともあるんだよ。
神奈は、自分の住む階にエレベーターで上り、その階におりた。自分の部屋の方を向くと、その一つ前の部屋の前で、外を眺める人がいた。神崎だった。神奈はそんな彼女を見て、彼女に声をかけるべきなのか、このまま素通りして、早く家の中に身を潜めるべきなのかを迷った。だが、そんな迷う時間も意味をなさず、彼女はエレベーターから出てきた神奈の姿を見つけて、
「あ、佐倉くん。ねぇ、いまさっきから外が騒がしくなってるんだけど、何か知ってる?」
知ってる。よく知っている。その騒がしさの原因も、それが起きた理由も。でも言えない。こんなこと、神崎さんに言ったところで、何も変わらない。というより、別に自分には何も出来ないんだ。どうしようもないことなんだ。そんなことを、彼女に話しても、意味もない。あのデパートで見た少女も逃げるって言ってたんだ。きっと今頃…
(あなたには創造する力があるんだって。)
今頃…逃げて…
(私は信じてるよ…)
今頃…逃げて…他の人に助けでも…
(私は信じてるよ…あなたのことを)
その言葉と共に、彼女の顔が浮かんできた。あの時は逃げることしか考えていなかったから、よく分からなかった。あの子がどんな顔をしていたのか。でも、少し落ち着きを取り戻した今ならよくわかる。彼女が、どんな顔で、俺に言葉を投げかけていたのか。
――泣いていたんだ――
美しき黒髪と、整った顔、見慣れない衣装。
『純白』の少女が、泣いていた。涙を流していた。涙を流しながら、神奈に助けて欲しいけれど、無理をして欲しくもない、そんな優しさからか、息子の努力を見るように、うっすらと微笑を浮かべていた。微笑を浮かべ、涙を流しながら、彼女はいったんだ。「信じてる」と。
神奈の中にあったごちゃごちゃな考えは一気に消えていった。神奈から見れば、彼は覚悟を決めた顔をしていた。そう、神奈はきめたのだ。あの、純白の少女を助けることを。
「おれ、行ってくるよ。助けにいく。」
「えーーっと…?ううん、何でもない。そう自分で決めたんだよね?だったら、いってらっしゃい」
神崎は優しく彼にそういった。
彼はそれをきき、おう、と軽く返事をすると、すぐさまエレベーターへ乗り込み、先程の現場へと向かおうとしていた。
「やっぱり君は、そうあるべきだよ。神奈。」
残された神崎は、空に浮かぶ星を見ながら、何かを思いながら、そう言った。
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再び、混乱渦巻く街へと出た。神奈は3度目の全力疾走をした。走り、現場へとむかっていった。
そこで、何かを思ったのか、とつぜん止まり、自分の右手を凝視した。そして、
「でも、どう助けるんだ?おれには力なんて…」
(あなたには創造の力が…)
「創造…創り出す…あの冷気に対抗出来るもの…あの冷気に耐えられるもの…炎か?」
その時だった。イメージをした。炎を、灼熱を。真紅に燃える火を。脳内に衝撃が走った。目を閉じると、何かが見えてきた。四つの、正方形の形をしたものが集まっている。そこのひとつに、光がさした。炎のような紋章が、そこのひとつに浮かび上がり、形を成した。
「なんだ?いまの光景…」
不思議に思いながらも、少し、本当に少しだけ、感じ取った。彼が、無能力者の彼が。彼は試そうとして見た。凝視していた右手に、イメージをした。
炎を。
「嘘だろ?本気なのかよこれって。これじゃ、あの子を助けろって言ってるようなもんじゃねえか。」
出た。
炎が出た。
異能だ。無能力者に、異能が現れた。
はぁ、なんだかなぁ。ヒロインを助けるしかねえってことだよな?これってよ。
助けてやるよ。俺のヒロインを。
俺が、あの少女を救ってみせる。
彼は強く、とても強く決心した。
辛かった。死ぬ思いまでした。それでも、それでもこの戦いに関わろうと。
閲覧ありがとうございます。
物語を書くというのはとても難しいものですね。
これからも努力してまいります。
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