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ヒロインを助けるなんて死ぬほど辛いからしたくない  作者: 望月咲太
第一章 運命の出会い編
3/5

二話 ひとときの日常(2)

 




  3人は他愛ない話をしながら歩いたせいか、デパートに到着するのにいつも以上に時間がかかっていた。



「あれがこの街にある一番大きなデパートだよ。意外となんでも揃ってるんだ。」

 悠斗は、少し遠くから見てもあぁ、これかと分かるほど大きく存在感を放つ、サニーと英語で書かれたロゴを指さして、神崎幸奈に説明するのだった。



「それめっちゃ助かる!デパートだけで買い物済んじゃいそう」


  一体、どれほど買いたいものがあったんだと心の中で思いながら、春の夕暮れの清涼な風に身を任せ歩いていた。



  4時57分、三人は目的地のデパート・サニーに到着した。何がこれから起きるのか、何が彼ら彼女の身に振りかかろうとしているのかなど分かるはずもないが、その時は少しずつ、その日常を奪わんと、訪れようとしていた。
























 ―――――日常の終わりまで、あと4時間31分―――――



















「うわぁ、なかなかの大きさですなぁ!

 初めてこの街に来た時はなんだ田舎か、なんて思っちゃったけど、案外この街に住むのも悪くないのかも知れないね!」


  この街1番のデパートを目にし、なかなか嬉しそうに、俺が16年ほど過ごしてきた街を無意識のうちに田舎だとディスってくれている神崎は、早く買い物いこうよと書いているかのような顔を俺たちに向けていた。


「そうだね。あ、俺この後少し用事があってさ、出来れば早く済ませたいんだけど、先に俺のスポーツウェアを見に行ってもいいか?」

 悠斗は、自分のスマホを片手に見た後、デパートに入ろうと足が動き出している2人を引き止めそう頼んだ。


「いいけど、用事って何があるんだ?そんな急ぐくらいの」


「うん、私も全然いいけど何かあったの?」


 確かに、2人がそう確認を取るのも無理もない。その時の悠斗の顔は、いままで笑顔を見せて話していた悠斗から出そうもないほどの不安そうな顔だったからだ。別にその顔は、親の姿が見当たらず、今すぐにでも泣きだしそうな赤ん坊の不安や、何か犯罪を犯した者が警察に自分たちの足がついていないかどうかを不安がるような、そんな深刻なものではない。たしかに、少し不安になればあのような表情になるだろう。いままでずっと笑っていた悠斗がスマホに1度目を通しただけで、その不安顔になり、早く帰りたいと言ったことに気がかりを覚えたのだ。


  「いや、2人には()()()関係ないよ。たぶん、俺だけの問題だ。でも、もしかすると2人に関係してるのかもしれないけれど、今は、そんなことはないと思うから何も言えない。とりあえず買い物にはやくいこう。」


 悠斗の不安そうな顔は一瞬でいつもの優しそうで、神奈のよく見る顔であった。それでも神奈の胸に少し気がかりを残していった。



 三人は悠斗の提案通り、4階のスポーツ店に向かい、悠斗のお目当ての新作らしいスポーツウェアを購入し終え、そこで悠斗と神奈たちは別れることになった。悠斗は笑顔でまた明日な、と少し遠くで手を振りながら言ったのを聞き、残り二人の買い物を済ませるために動き始めた。





  その二人を見届け、悠斗はすぐに自分のスマホを取りだし、電話をかけ始めた。その時の表情にはいままでの緩んだ表情はなく、気を張っているのがわかる表情をしていた。


「悠皇寺です。さっき送られてきたメールの内容は、事実なのですか?」


 悠斗はデパートに入ろうとした時に送られてきたメールについて、誰かに説明を求めていた。


「あぁ、間違いないだろう。」


「そうですか…ですが何故この街に?」


「詳しくはまだ分からないが、こちらの予想としては、()()()()をこの街で見つけることができ、干渉を試みているのではないかと思っている。」


「確かに、()()()()がこの街に来る理由は、その可能性が高そうですね…。ということは、この街に()()()も来ているのですね?前回の広島戦のように。」


「あぁ、今のところ2名を確認している。だが、少女を追っているはこの2名だけだと思われる。今回は()()()()()()()の干渉を避けることはできないだろうな。」


「やっぱり、神奈は…」















 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



















「佐倉くん、欲しいものはまだ買えないの?」

 神崎が、少し怪訝そうにそう言うのも無理もない。この男、佐倉神奈は、スニーカーを欲しいと言うのでシューズストアに入ったものの、30分たった今でさえ何を買おうか迷っていたのだ。


「白色のスニーカーが欲しいなって思ってたんだが、いざたくさんの商品をみたらどれを買おうか迷っちゃうな。」


「ネットとか雑誌で先に決めてから来たらいいのに。そんなんじゃ、彼女と買い物に来たら嫌われちゃうぞ〜?」


「どうせ女の子なんて、これ以上時間がかかるんだ。これくらい我慢させてやらなきゃ彼氏が可哀想だ。」


「佐倉くん、かっこいいのにモテなさそう。」


「やめてくれ、女の子とデートしてるかのようなこの状況で、そんなこと言われたら流石に心に傷がついちゃうよ。泣いちゃうよ俺。」


「で、デートじゃないしっ!買い物してるだけじゃんっ!」

 顔を赤くしてそう弁明する神崎のことなどには目もくれず、神奈は自分の好みに合う商品を探すのに夢中になっていた。


「これに決めたぁ!」


「これに決めたって…佐倉くん、これあんたが最初にいいなって言ってたやつじゃん…」

 最初に気に入ったのが一番だなんて言っている神奈に呆れていた幸奈の方は、その間何を買おうか考えていたからどこに行くべきなのかをしっかり決めていた。見た目はそこまで真面目のように見えないからこそ、その計画性には神奈も尊敬に値する物と見積もっていた。









 なんて考えていたのも馬鹿らしいと思った神奈がそこにはいた。


「いやぁー、買えた買えた!必要な物も揃っちゃったし、前から欲しかった服も買えたよ!」


「いや待てよ!何分かかってんだよ!てかもう何分とかじゃねえな、一時間は越えてるわ!だから女の子との買い物は好きになれないんだ…」

 確かにそう思うのも無理はないだろう。神奈は付き添い兼荷物持ちとして神崎と一緒に行動していたが、とうに時刻は8時30分を越えていた。すでに日は落ち、外は街灯が付いており、夜の街となり始めていた。


「いやぁごめんごめん。時間も時間だし、もう出ようか。」

 笑いながらそう言う神崎に、もっと以前から帰りたいと思っていた神奈はため息をつき歩き出した。

 だが、神奈は神崎の買い物を待っている途中に、奇妙な出来事を経験したのだ。15分前、日常用品店の中のソファーで座っていた時、誰かの視線を感じたのだ。それは気のせいなんかではなく、確認することは出来ない確信があった。確実に誰かに見られていた、ということが起きたのだ。








 15分前

「あれが、私を救ってくれる人なのかな・・・」

 大きな柱に身を寄せて、佐倉神奈を見つめる、一人の、純白の少女の姿がそこにはあった。

 






  家までさほど遠くない道のりで、もう既に自分の住んでいるマンションの明かりが見えてきている。神奈のマンションはこの街で暮らすにはとても立地がいいと言える場所に建てられている。その明かりを目的に、早く帰りたいからなのか、この荷物持ちの仕事を早く終えたいのか、気のせいか少し早歩きをしているように見えていた。そうして神奈と神崎は家の前に到着し、足を止めた。


「俺の家ここだから。ほれ、この荷物。」

 やっと重労働から解放される。そう思った矢先、神崎からの衝撃の告白により、これから先の生活が途方もなく疲れるものになるのか、と思わされることになる。


「あ、私が一人暮らしするのもこのマンションなんだー。まさか佐倉くんと一緒のマンションとはねー、これは奇跡ってやつだね!」

 驚嘆しながら笑顔で俺に話しているこの女の子。そう、神崎幸奈は、同じクラスメイトで、高校生活初デート(?)の相手で、マンションも同じなのだという。これは完全にラブコメの展開だと思い、ラブコメを嫌う男、正確にはヒロイン設定なんてものを嫌う男、佐倉神奈はとても深い深いため息をついた。


「これが奇跡なんだとしても、ただの奇跡であってくれよ…」























 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


















  神奈は制服を脱ぎ、家用のジャージに着替え、疲れを癒すために、冷蔵庫の中に何かないかと模索していたところ、何も無いことに気づいた。


「なんもねえのかよ…しかたねえ、少し夜風にでも当たるついでにコンビニに寄ろう」

 スマホをポケットにいれ、自分の財布の中にお金が入っていることを確認し、イヤホンを片耳につけ、サンダルを履き家を出た。エレベーターのボタンを押し、エレベーターが来るのを待っている間に、神奈は自分の部屋のお隣さんの玄関を眺めていた。このお隣の部屋には4日ほど前に引っ越してきた人がいたのだ。どんな人が引越してきたのかと少し楽しみにしていたので、顔を見てみたいと挨拶に行こうか日頃常々エレベーターの前で考えていたのだ。だがその必要もなくなったのだ。いまから10分前に。


「まさか、神崎さん、隣に引っ越してくるなんてな…まじでヒロイン級の展開だぞこれは…」

 同じマンションであることですら神奈を驚かせたのに、その上、部屋は隣という完全にラブコメならヒロイン級だ、と確信している神奈は、懸念の色を残しつつも、エレベーターに乗り込んだ。


















 日常の終わりが訪れるなんて、神奈には一切分かるはずもなく、日常の終わり、非日常の始まりを告げる出来事が、始まりを迎える。













 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


















 コンビニで神奈がよく買うものは、500mlの炭酸ジュース、コンビニ限定のシュークリーム、夜を過ごすためのちょっとしたお菓子。そしてレジで会計をしているときに目に入ってしまう、食欲をそそる肉まん。いつものようにこれらを買い揃え、店の外で肉まんの包をとり、一口、とても大きな一口で、肉まんを口の中に頬張った。


「こんなに疲れた日に食べる肉まん…最高だ…最高すぎる!肉まんばんざい!」

 こんな小言を口にし、二口目をかぶりつこうとしたときだ。

 

 ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!!



 とても近くで、生まれて今まで聞いたこともないような大きな音を聞いた。それも、初めて聞いた音である。だが、神奈はその音の正体を知っていた。始めた聞いた音でもそれが何から発生する音なのかを知っていた。いや、神奈だけでなく、だれでも聞いたことのある音なのだろう。テレビや映画などでよく使われるからだ。初めて聞いた音を聞き、直感で何が起こったのかを感じた、そう、爆発である。


「うそだろ・・・爆発・・・?」

 驚きのあまり、手にしていた肉まんは地に落ち、それに気づくことができないほど神奈は驚いていた。

 神奈の肉まんを手にしていた右手は、化石にでもなったかのようにまったく動くことなく、足も動かず、瞼を閉じることもできないほど硬直してしまっていた。ただ、ただ一点、目だけは、爆発音がした方向を向いていた。


「あそこって、駅の近くだよな・・・。なんであんなところで・・・。」


 神奈は緊張がほどけると、すぐに家に戻ろうとした。

 その時だった。


「--------ッ!?」

 ものすごい痛みが神奈を襲い、一気に足から崩れ落ちて右ひざをついた。神奈は両手で頭を押さえながら苦しんでいる。頭痛だ。彼に襲い掛かったのは頭痛だった。風邪やインフルエンザの時のような比ではない。考えられないほどの痛み、頭にハンマーを振り下ろされたのもこんな痛みなのかと錯覚してしまうほどだ。


(ねえ。お願い・・・私を・・・助けて・・・)


 頭に響いた痛みとともに、神奈の頭に、美しい声で、だが聴いただけで苦しみ困っているのがわかる声が、頭の中に響いてきた。この時の時刻は9時28分だった。











 

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