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1 スケスケセーラー服の変態

 木枯らしの音で目を覚ました。

 

 起きてすぐのほの温かい体を部屋の冷たさが襲う。

 どうやら何も着ずに寝てしまったらしい。

 部屋は冷え切っていて、ひと肌で温まった布団から出るのを躊躇したが、

 ストーブをつけたところでこの寒さじゃどうせすぐに部屋は温まらない。


 一気に布団から出る。

 となりはどうせ昼過ぎまで寝ている。

 起きてくるまで空腹に耐えられそうもない。


 ストーブもつけずに手早く着替え、赤いマフラーを巻いてオレは旅立つ。


 ラーメンが食いたいのだ。

 

 こう寒いと味噌ラーメンがいいだろう。

 ニンニク野菜マシマシで。

 北海道で幅を利かせているというのも頷ける。

寒いときに食いたくなるのは味噌ラーメンだな。


 外の寒さを伝えてくるドアノブを回す。

木造2階建てアパルメントの鉄製の錆びた階段を駆け下り、大通りへ出ればすぐに行きつけのラーメン屋だ。


 ――閉店しました。


 白いA4用紙に黒太マジック。

 右肩上がりの字に店主の怒りを感じることができるほど、今のオレに余裕はなかった。


 腹減ってんだよお……ちくしょう。


 ちょっと気弱そうな小太りの店主。

 簡素な店構えのSNS映えなんてしない普通の味噌ラーメン。

 バイト帰りのオレの腹をうまいラーメンで満たしてくれる貴重な店だった。

 ……流行ってはなかったな。


 仕方ない。チェーンの牛丼店にでも行こう。

 あまり金もないからな。

 牛丼店を目指していたオレの目に行列が映った。


 この町に行列を作るような店あったか?


 のぼりを見るにラーメン屋。

 奇しくもつぶれたあの店と同じく味噌ラーメン屋だ。


 ははーん。

 この店に負けてしまったのかな。


 以前ここにはフランス料理店があった。

 居抜きで改装したのだろう。

 混ぜ葺きの洋瓦、白い塗り壁にテラコッタタイル。

 プロヴァンス風にしてあり、のぼりがなければパティスリーとでも勘違いしてしまいそうな外観は女子受けも良さそうだ。


「ねえ、お店可愛いよね。写真撮ろう」

「ね。ラーメン屋に見えないよ」


 行列からは洒落た外観を楽しむ声が聞こえ、看板と一緒に写真を撮るグループまでいた。

 店構えで腹は膨れないのでオレは正直どうでもいいが。


 ただ新進気鋭の店の味って言うのは試してみたくなる。

 男っていうものはみなラーメンが好きなのだ。

 仕方ない。並んでみるとするか。


 並んでいると店員が温かいお茶をサービスしてくれた。

 こういうこじゃれたサービスはラーメン屋じゃ珍しいが今日は寒いから助かるな。


 週末の昼時。カップルや女性グループが楽しそうに並ぶ流行りの店。

 寒さに震えながらも温かいお茶を飲み、オレは満足感を味わっていた。


 ――ああ、これが平和か。

 これがオレが、いやオレ達が守ってきたものか。


 秘密結社アグネックスとの闘いは苛烈を極めた。

 もともと6人いたオレ達6人ジャーも、今ではもう3人しかいない。

 その3人の犠牲もあってアグネックスを壊滅させることができたわけだが……


 死んでしまった仲間のためにも、残されたオレ達が平和を守り続けないとな。


「キャアアアアアア!」


 女性の悲鳴が聞こえた。


 ――オレ達に平穏が訪れなくても、オレ達が平和を守って見せる!


 オレはマフラーをしっかりと巻き直し、悲鳴が聞こえた方角へと走り出した。


 ☆★


 しばらく走ると、地面にへたりこんだ女生徒がいた。

 制服からすると近くの高校に通っているのだろう。


「大丈夫か!」

「え、ええ。大丈夫です」


 女生徒に肩を貸し、立ち上がらせる。


「ありがとうございました」

「何があった?悲鳴が聞こえたが」

「なにか液体みたいのものをかけられました。体はどうもなってないみたいですが、驚いてしまって」


 女生徒は振り返ってオレのほうを見た。


「ぎゃあああああああああああ!へ、変態!」


 オレは叫び声を上げた。


 振り返った女生徒と思っていた人物。

 その正体はねっとりした髪の、ギトギトと脂ぎった顔の男だった。


 しかも男にも関わらずセーラー服に身を包んでいる。

 何かの液体が掛けられた制服は黒いブラジャーが透けて見えていた。

 オレが叫ぶのも仕方ないじゃないか。

 

「え、え?どこに変態がいるんですか?」


 セーラー男はきょろきょろと周りを見渡す。


「お前だ!男のくせに、セーラー服なんか着てる奴なんて変態に決まってるじゃないか!」

「何言ってるんですか!私は女ですよ!」


 ほっぺをぷくっと膨らませて抗議をするが、そのポーズはもともと男がするポーズではない。


「お前、鏡見ろよ!」

「まさか、液体をかけられたときに……薬品かなんかでしょうか……」


 セーラー男は、鏡を取り出す。

 この男、セーラ服だけでなく鞄や靴なども学校指定のもので揃えているようだ。

 ガチ中のガチだ。

 声も可愛いのが腹立つ。

 うっすらブラジャーの透けるセーラー服に包まれた肢体も瑞々しい魅力を放っている。

 腹立つ。


「えっと、確か、このポーチに……あった!」


 セーラー男は、不安そうに手鏡で自分の顔を見る。


「いやあああああ!私の顔が、ブサメンになってるーーーーー!」


 大声で叫び、その場にへたりこんだ。


 違和感がある。

 こんな細くて胸の膨らんだ男がいるか?

 声も男のものとは思えない可愛さだ。


 ま、まさか。


 オレはあたりを見渡した。

 人だかりを見つけ、そちらへ駆け寄る。


 そこら中の人が謎の液体をかけられ、うずくまっており――


 ブレザー姿のブサメン、スーツのブサメン、買い物カートを持った腰の曲がったブサメン。……前を見ても後ろをみても、ブサメン。


 ブサメンパラダイスが広がっていた。


 しかも、全員の髪の毛もねっとり仕様で、油ギッシュ。

 さらにみんなが同じ顔


「キャーーーーーーー!」

「ブサメンよ!」

「お前こそブサメンじゃないか!」

「何だと、お前こそ!」


 あたりは騒然としていた。

 

 しかし、この顔見たことあるな。

 くそ、どこだっけ……考え込んでいる場合ではない。


 騒ぎを起こした人物を止めなければならない。

 オレはブサメンがいる方向に走った。

 

 何度か道が分かれた。

 ブサメンが右にいる、右か。

 次の十字路はブサメンは左……


 ブサメンという目印があるので、道を走って行くとこの騒ぎを起こした人物を簡単に見つけることができた。


「ハーッハッハッハッ!」

「ぎゃああああ!」


 3メートルはある男。

 いわゆる怪人であろう。

 大きな寸胴の鍋から黄色く濁った液体を取り出した。


 液体は道を歩いていた美男美女のカップルの男にかけられ、みるみるうちにブサメンになっていく。


「いやあああああ!」

「た、助けてくれーーーー!」


 元イケメンは隣の美女に助けを求めたが、美女はその手をはねつけ足蹴にし、足早に駆け出した。


「……逃がさないよ」


 怪人は美女を捕まえ引き倒す。


「ひ、ひっぃいいいいいい!」

「ボクは自分だけ逃げようとするお前みたいなクソが一番嫌いなんだ。彼氏がブサメンになったら用なしか……生かしておく価値もないよねえ」

「た、助けてーーーー!」


 美女は恐怖で腰を抜かしその場に崩れ落ちた。


「やめろ!」


 オレは走り込んで怪人と美女の間に割って入り、女性を助け起こす。


「何者だ!」

「レッド!6人ジャーのレッドだ。」

「ハハハハ!秘密結社アグネックスをつぶした6人ジャーか。俺みたいな小物を相手してくれて嬉しいよ」

「私もいるわ!」

「オレもいるYO!」


 制服女子とちょい悪系ラッパー。


「お前ら!来てたんだな」

「ええ、悲鳴が聞こえて来たからね」

「聞こえたYO!」

「よし、行くぞ変身だ!」


 オレの頼りになる仲間が来てくれた。


 よし、みんなで変身だ!

 みんなで腕を上げ、腕につけたスマートウォッチをタップする。

 不思議な力で変身した。


 トウッ!

 みな、ジャンプしてポーズを決めた。


「いつも熱血、自然を大切に。レッドグリーン!」

「いつも陽気でたまにブルー。イエローブルー!」

「天使の笑顔。時に腹黒。ピンクブラック!」 

「「法で裁けぬ悪を討つ! 人呼んで、二重人格戦隊3人でも6人ジャー!」」


 ビシィ、決まったな!


MBSラジオ短編賞応募中です。

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