きっと仲間なんだよ Side : Yuri's valet "Nike"
――! また二本、今度はどっちか。絶対かわしきれない!
今、扇は右手に持ってる。左の槍をあえて正面で受ける位置取りをする。
彼は、――これで最後。と言った。
モリィだったら、間違い無くこの後。絶対になにか仕込んでくる。
しかも、――魔導はあれで最後、嘘は吐いてないからなっ!
なんてエラそうに言いそうだ。
でもレイジくん、多分彼はそう言う意味では不器用な人だと思える。
つまり、これを何とかできれば僕の勝ちだっ!
槍は畳んだ扇に直撃し、右手にはとんでもない衝撃がくる。
「レイジくん! 僕はこれ、要らないから返す、……ねっ!」
少し頭にきた、と言うのはこれは本当。
多分、これは僕なりのイヤミ、って言うヤツだ。
パッカーン!
閉じた扇を持って、思い切り顔の前の右手を外へと振り切った。
丸く潰れた切っ先を後ろにして、槍は彼へと戻っていく。
あ! ……不味い、ユーリは多分彼を知ってる。
彼に何かがあったら、もしかしてユーリの友達だったら……!
普通に打ち落とせば良かったっ!!
――ざぁああ!
レイジくんの前にまるで元から居たかのように白い影が割り込む。
え、あれは副司祭の服、メルカ様? 今、どこからどうやって移動したの!?
――ばしっ!
右手で槍を捕まえる。
「両名、そこまでっ!」
……って。あのスピードの魔導の鉄槍を。――しかも素手で、捕まえるっ!?
「魔導発動封印、復元っ!」
槍を掴んだままの右手から、煙が上がってる。
「ふぅ、危なかった。なんて速度でしょう、撃ち返したあとの方が早いとは。…………レイジ・イースト礼拝士」
「……は、はいっ!」
「魔導使用条例の条件違反です、魔導の発動を直ちに停止なさい。――わたくしの権限において。この場にて礼拝士の位は凍結、導士の資格は停止、魔道士能力はこの場で封印。……沙汰は追って知らせます。今より自室にもどり指示のあるまで謹慎。良いですね?」
言葉と共に右手を胸の高さに上げて、――きゅっ。と力が入ると、槍が二つに折れて次の瞬間、塵になってバサバサと地面に落ちる。
「はい。……総監代理のご高配、感謝致します」
彼はそう言うと、メルカさんの後ろからこちらへと出てくる。
「ニケ様、申し訳ありませんでした」
「あのね、僕さ……」
「お兄様のお役に立ちたいという気持ちに嘘はありません。だから、護衛としてお役に立てるなら、とも思いましたが。――ぼくの全力を受けつつ明鏡止水、止めに入る総監代理の位置まで把握なさっているとは。……自身の力に思い上がったご無礼、お許し下さいとは申しません、もちろん行為を水に流して頂こうなどと言うことでもありません。それでもどうか、あなた様に謝罪をさせて頂きたいのです」
いや。もの凄く危なかった。
武道の練習をして無くて、扇を持ってなかったら即座に負けてた。
それに。……メルカ様がどこに居たかなんて、知らないし。
「さらに礼を失した不躾な物言い、もう、言い訳のしようがありません。……どのような罰でも受けます。とるに足らないこの命くらいしか持ち合わせがありませんが、これもお預け致します。この場で、死ね。とお申し付け頂けばそうします」
「礼儀を知らない僕に、失礼も何も無いんだからレイジくんに罰なんか要らないし、レイジくんの命なんてもっと要らないよ! ――あ、メルカ様。僕はそう言うの、ホントに要らないですからね? ――あのさ。レイジくん、こっち向いてよ。……うん。ね、ユーリはさ」
「……はい?」
「うん。ユーリはさ、なんか一緒に居たくなっちゃう。……そうだよね? 男の子でもそう思うの、変わらないんだね」
女の子だけなのかと思ってたけど。そうじゃ無いらしい。
「ねぇレイジくん。僕らはきっと、仲間なんだよ」
「ぼくがニケ様の、仲間? ……およろしいのですか?」
「だって、レイジくんもユーリが大好き、でしょ? ……そういう仲間!」
いきなりレイジくんは真っ赤になって俯く。
――また変なこと、言ったかな?
常識とか、普通は、とか。僕はそう言うの、全然知らないからなぁ。
あとでモリィに聞いてみよう。
あの子は、常識という言うものには誰より一番詳しい。従う気なんか全く無いくせに。
「ぼ、ぼくはその、これで失礼します……!」
――総監代理、自室におります。顔を赤くした彼は。
そう言って静かに神殿の方向へと歩いていく。
「お見事でした、ニケさん。実戦の感想はいかがでした?」
「扇があると、思ったより。対魔導、いける感じです!」
「無くても全部かわしきって見えましたが……。何しろ」
――あとでお詫びは改めてさせて頂きます。そう言って、メルカさんは頭を下げる。
「さっきも言ったけど、そう言うのは、僕は全然要らなくて……」
「人であるというならば、悪い事をしたときはきちんと謝るものです。最大限の力を発揮できるように、場を整える必要はあったにしろ。ニケさんを欺したような格好になってしまいました」
「組み手してくれる人見つけてくれたじゃないですか。……あ! レイジくんにお金、要らないですか?」
「もちろん、不要です」
「今、試したいことを思いついたんですが。今度はお金……要りますか?」
「やれやれ。そう言う意味でしたか。もちろん不要ですが、フフ。――彼を休ませてあげても良いですか?」
少し慌てすぎたみたいだ。
そしてもちろん今日、これから。と言う意味で言ったわけでも無い。
僕は常識だけで無く、言葉も足りないな。
「もちろん、今日とか言う話じゃ無いです。ゆっくり休ませてあげて下さい。……それと罰とかも、絶対無しにしてあげて下さい」
「実際に被害を受けたニケさんのお言葉は、当然に考慮致しましょう」
レイジくんは多分、悪い事はしていないと思う。
僕と同じ、ユーリが大好きなだけ。
ユーリと一緒に居たかっただけ。
そのやり方がわかんなかったんだ。
多分、本人には恥ずかしくて頼めなかったんだろうな。
だから僕を倒して入れ替わる、と言う考えになっちゃったんだ。きっと。
あれだけ強い上に導士。普通に混ざれば、嫌って言わないんじゃないかな。
――だから、レイジくんに罰なんか要らない。
だって一緒に居たい、って言えなかっただけなんだから
「僕は練習に付き合ってもらっただけです。ほら、みて下さい! 僕、ケガなんかしてしてないでしょ? どこにも被害なんて無いじゃ無いですか! レイジくんは罰を受けるような悪いこと、してないですっ!」
一応左手は身体の後ろに隠した。
グローブはボロボロで、手のひらにも火傷があるから。
でも被害、とすればそんなところだと思うけど……。
「そうですか……。あなたは何処までも高潔で立派な方ですね、ニケさん。――罪がある以上罰を逃れることはできません。けれどニケさんがどうしても、と。そう仰るなら、少し方向性を考えてみましょう……」





