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やってみたら Side : Yuri's valet "Nike"

「まだまだっ、次! 石つぶて乱舞(ダンシングロック)っ!」

 今度はちょっと固まりが大きくなった分、数は減った。

 とは言え、――握りこぶし大の塊が二十四個!!

 冗談じゃない、あんなの正面からもらったら!


 ……もらったら。まぁ、もちろん不味いんだけど。

 でも、あの扇を今も持っているんだし。だったら自分で取りに行ったらどうだろう。

 持ってるだけでも効果があるって言ってたし。


 その辺はやってみないとわからないけど、あえて一個。

 もらう気で位置を取れば、むしろ他はかわしやすい。


 ――なにより、失敗しても腕一本で済む。


 利き手が残るなら戦闘継続には問題がない。


 

 みんなには内緒にしてるけど、ある程度なら痛みは無視出来る。

 獣人は足が折れようが、直後に全力疾走くらいは出来るのが普通。

 但しその後一生、歩けなくなったりもするけれど、それでも。


 例えちっぽけだろうと目の前の戦いに全力を挙げる、それが獣人の矜持プライドなんだ。

 僕だって獣人の端くれだもの。


 それに、この戦いはちっともちっぽけじゃ無い。

 僕の人生そのものがかかっていると言って良い。

 絶対に負けは許されない、大事な戦いだ!



「はっ!」

 最後の一個の前の正面にあえて出て、左手で受け止め握りつぶす。

 ちょっと衝撃はあったけど、身体はなんともない! すごいや、扇!

 グローブからはブスブス煙が上がっているけど……。




「う、嘘だ! あの扇を持っていようと。ぼくの魔導を、受ける……? そんな、そんなことが!」

「もうやめようよ! こんなの、意味無いよっ!!」


 そう言いながら一気に彼に近づいて、一撃!

 必殺は無理だけど、上手いところにあたって、気を失ってくれれば。

 なんて思ったんだけど。


 ――かわされた!?


 しかもあの瞳の動き、完全に僕を認識してから慌ててかわしてる。

 あの発動時間の早さを考えても、使ったのはただのスピーディのはず。

 それで僕のスピードを上回るの!?


 魔導のパワーもあからさまに桁違いだけど、それだけじゃない。

 そのスピードにキッチリ身体が付いて行ってる。彼は体も、相当鍛えてる!!



 またしても距離を取った彼の回りには、さっきよりもさらに強い、僕にもわかるぐらいの魔導の気配!

 なんでこんなに次々と!?

 見習いどころか、中央大神殿の魔導団だって言われたら。僕は信じるよ!?



 ……ん? このニオイ。

 これはちょっとキライだ。

 なんで、鉄のニオイが彼の方から?



 彼の回りには。今度はキチンと形の整った、……十八本の、短剣?

 土の魔導を使う人じゃなかったの!?

「あなたにはわからないっ! 土砂降り(ダウンパァ)の小剣(ナイヴス)!!」


 確かにモリィは“土の中に砂のような鉄が混ざっている”って、前に言ってたけど!

 あるいは土製なのかも知れないけれど。さすがにあれを受けたら、指が無くなる。

 しかも前の二回よりも、早い!?

 ――でも。


「な、なんでかわせるっ! 本気で、殺す気で放ったというのに!?」

「かわすだけなら僕だってっ!」


 剣の形に整形するのに、ちょっとだけ時間がかかった。

 飛んでくるスピードは速かったが、出現位置からここまで。軌道を見切る時間はその分稼げた。

 そう言う意味では、実力でかわしたわけじゃ無い。



 魔導の波動はどんどん強くなる。

 ――ちょっと待ってよ! 今、すごいの。来たばっかりなのに!?

 僕でも直接感じるとか。ネー様よりもさらに上なの!?

 アリスの使った雷のレベルだよ、それ!!


 もう、魔導士メイジ通り越して魔導師ソーサラークラスだよね?

 そもそも、あんまり大きな魔導を王都の中で使うとダメだったんではっ!?

 そして彼の方から漂ってくる鉄のニオイもさっきより強い。


「いくらあなたでもこれはかわせまいっ! 刀剣の(ブリザーデット)吹雪(スウォード)!!」 

 彼の頭上に浮き上がった、一二本の研ぎ澄まされた刀剣がギラリと光る。

 光を反射して光ったけど……。土で出来てるんだよね? あれ!

 回転しながら全部が僕に向かって飛んでくる……。


 二本、かわしきれない!? ……これは、扇子だ!

 懐から扇子を取り出す。


 最後の二本は僕の胸と、頭をめがけてごくわずかな時間差で迫ってくる。

 この時間差に気が付かなかったら両方かわせるって思ったはず。

 そして扇を取り出すことも無く、二本とも貰ってた。

 他の10本が全部フェイクなんて、気が付く僕のほうがどうかしてるよ、普通!!



 ――カン、キィーン!


 金属の音を立てて、扇子と剣が激しい音を立て。


 ――ゾン! ガス!


 鈍い音を立てて、僕がたった今弾いた二本の剣が僕の左右、地面に突き刺さる。

 地面に突き刺さった剣は、カタチを無くして地面に小さな砂の山を作る。

 ホントに砂でできてたよ、アレっ!!


 ……これって、モリィが言ってた砂鉄って言うヤツ?

 ホントにその辺の地面に鉄が混じってるんだ!



「レイジくんって言ったよね? もう止めよう! 王都の中でダメだよ、こんなの!!」

 こんなことでユーリに迷惑がかかったら、困るからっ!

 


 そうじゃ無くても彼が言わないだけ。

 僕が一緒に居るだけで、ものすごく迷惑がかかってる。

 そのくらいは僕でもわかってる。



 だけどレイジくんの頭上には最大級の魔導の波動がゆらり、と影を作る。


「これで最後、ぼくの全力です……! 殺到する槍(ラッシングスピア)!!」


 えぇっ! 鉄の槍が七本も? もうめちゃくちゃだよっ!!

 しかもリオさんが持ってたヤツよりも、明らかにモノが良い。

 その槍がとんでもないスピードで一気に、僕へと殺到してきた……。

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