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できることを Side : Yuri's valet "Nike"

 所属:無所属 (未登録の第三勢力)

 剛腕の鎚使い:ニケ・バラント



「ニケさん、精が出ますね」

「あ、メルカ様! おはようございます!」

 朝ご飯を食べてしばらく、一〇時のお茶にはまだ、もう少しある時間。

 僕の前にはメルカ様が立っている。




 日の出と共に始まる朝の鍛錬。それが終わるとほぼ全員、神様への朝のお祈りのために拝殿や神殿へと足を運んで、そのままご飯を食べる。

 参加している人のほとんどが巫女さん、あとは神殿の関係者だから仕方が無い。


 だから、鍛錬のあとの片付けは僕にやらせて欲しい、と自分で言った。

 僕が神様にお祈りしたところで、お作法もお祈りの言葉も知らないから、きっと神様まで届かない。


 だったら。それは他のみんなにお願いして僕は片付け、と言うのは良いと思う。

 ユーリも、

 ――まずはできることをすれば良い。そのうちできることも増えるさ。

 って、言ってくれたし。


 片付けが終わったらご飯を食べて。

 僕は仕事がないので身体を動かす。今は他にできることが無いから。



「その……。乳あてのサイズはどうですか? 浮いたり、苦しかったりしないですか?」

「すごくぴったりです! 走るときとか、結構邪魔になってたんだなって。初めて知りました」


 ホントに走りやすくなったし、絶対に最高速が上がった。

 でもこれ。他と違って乳あて自体も人に見られるのがちょっと恥ずかしい。

 服なんだけど、なんなんだろうこの感じ。

 他の乳あてとは違って、僕のおっぱいと同じ形をしてるから。だと思うけど。


 でも、これ一つですごい違いがあるなって思った。

 二つ貰ったけど洗濯用にあと二つ。作ってもらえるように内緒で頼んだくらいだもの。

 亜里須は始めから自分用のすごく綺麗なヤツを使っていたけど、やっぱり別に作って貰ったようだし。

 知らなかったけど、実はすごく大事なものなんだよ。乳あて。


「そうですか。作ったものが聞いたら喜ぶでしょう」



 ユーリがメルカさんと居ると、おっぱいばっかり見てる。

 大きさは負けてるだろうけど。僕と、あとはどこが違うんだろう。

 ユーリが思わず見つめたくなるような、なにかがあるのかな。


 カタチ、とか? もちろん僕にはわかんないけどさ。

 でも直接見てるわけで無くて服も着てる。そんなに違うもんかな?


 見たかったら、確かにメルカ様よりはちょっと小さいかも知れないけど。

 僕のおっぱいを見てれば良いのに。っていつも思う。

 だったら。毎度ネー様に怒られたり、アリスになんか言われたりしなくて済むのに。

 それに僕だって。そうならちょっと嬉しい気がする。


 それにメルカ様のおっぱいを見ているユーリを見てると、ちょっとイライラする。

 ……これは自分でも良くわからないけど、なんでなんだろ。



「正直に言えば。ここだけの話、わたくしも人ごとでは無いので多少、心配していたのですが」

 メルカ様はおっぱい、すごく大きいもんね。

 でも、モリィやリオさんの前でこう言う話をすると。

 それはイヤミ、と言ってバカにしてることになるらしい。



 ――わかんないな。

 確かに。モリィは走るときに邪魔になったりしなさそうだから、あんまりこの乳あては関係、無さそうだけど。


 でも、バカにしようなんて思ったことなんて。ホントに一度もない。

 だってモリィは、すごく大人な感じで美人だし頭も良い。

 ネー様どころかユーリとだって、すごい難しい話ができるし。真面目な顔でそう言う話をしてる時なんかすごく憧れる。


 なにか聞いたらすごく丁寧に、紙があるなら簡単に絵まで描いて説明してくれる。

 しかも、すごくわかりやすい。あんなに説明が上手な人は見たこと無い。

 僕なんか、字だってマトモにかけないというのに。


 しかもいつも巫山戯てばかりでヤル気なさそうなフリをしてるけど、本当は強い。

 確かに一番最初にあった時は後ろを取れた。

 でもあの時はあの子もすごく疲れていたし、ネー様と二人がかり。しかもユーリが注意を引いてくれてた。


 新しい服もそう。あの子以外が着ても、誰もあそこまでカッコ良くはみえない。

 年は一つしか違わないのに、あの子は。

 僕よりずっと、美人で賢くて。その上強いんだもの。

 バカにしようなんて思うはずがない。



「走ると痛かったり、しますよね? その乳あてを作ったものは良い仕事をしたと思いますよ。……私も。実は今、同じものを作って貰って使っているのですが」

「え? メルカ様も!?」

「実に良い仕上がりだと改めて実感します。……今後は同じ悩みを持つ方のため。増産して、世に広めないといけませんね」



 実は、この人は良くわからない。

 ううん、初めて会った時から、歩き方と立ち方を見ているだけでわかったんだ。

 だからこそ、わからない。


 この人も剣や槍ではなくて格闘技をやる人のはず。――それもかなり強い。

 見た目では全然そう見えないけど。

 

 もし僕がウォーハンマーを持ったとして、それでも。

 この人が本気を出す前に負ける。

 僕では絶対勝てないと思う。


 でもそれを隠してるし、ユーリもネー様さえ。多分気が付いてない。

 モリィだけ。彼女だけが何かに気が付いて居る要だけど。

 でも。あの子はなにも言わずに隠す、と決めたみたいだし。

 そうなったらネー様でもユーリでも、誰であろうと絶対に聞き出せない。



「そこまで驚くことでも無いと思いますが。わたくしも、それなりに身体は動かしますよ? そんなに動かないイメージなのかしら」

 自分で言わないだけ、あと筋肉も服でお尻しかわからないけど。やっぱり鍛えてる。

 みんな、優しい目とおっぱいと喋り方で誤魔化されてる。



 そうそう。隠すと言えば。

 一人で居るとたまにモリィが来て、一緒にストレッチをしたりする。

 あの子は、実はすごく身体を鍛えてる。

 自分でなにも言わないし、誰もそう思ってないけど。

 いつもを見れば自分で宣伝しそうだけど、でも。それについてはなにも言わない。


 一瞬だけならば、ネー様さえ超える程のとんでもない瞬発力。

 そしてそのスピードでも思い通りに身体を動かすことが出来る、しなやかで強い筋肉と判断力、視力。


 鍛え上げた筋肉とブレ無い体幹、そして絶対的な身体の感覚。完璧な判断。

 それが全部揃わないと、あんなことは絶対できない。

 あのスピードで、自分の足に躓いて自分で転んだらそれだけで致命傷になる。


 一人で居るときは、木の枝から見えない糸一本で逆さにぶら下がってたりする。

 本人は、――蜘蛛だからな。というけれど。

 あの状態で普通の姿勢で居られること自体がおかしい。

 

 あの子の場合。そう言う意味では蜘蛛とは違って、糸はお尻ではなく指から出る。

 普通の人が、左手一本で真っ直ぐぶら下がれるはずが無い。

 かなり鍛えてないと、あんなこと、できるわけ無いんだ。


 二人共、なんで隠してんのかな。



 そしてメルカ様。

 この人も、良く身体を動かしているところにやってくる。


 でも、一緒にやるでも、なにか教えてくれるでもなく。

 少し話をして、そして居なくなる。

 ……いつもなにか言いたそうに見えるんだけど、多分乳あての話じゃ無い。


 そのメルカ様が、今日は話し始める。



「ただ闇雲に身体を動かしてもあまり意味は無い。どうやら動きの基本はわかったようですね」 

「はい、メルカ様のおかげです!!」

「わたくしはなにもしておりませんよ。……それよりも」


「……?」

「筋トレや反復練習、型ばかりでは飽きませんか? ――たまには、実戦形式の練習。などと言うのはどうでしょう」

「実戦、……ですか?」


「あなたの場合は完全に魔導が弱点。もちろん先日お渡しした服と扇は、そのつもりのものではありますが。実際に使ってみないと,本当のところはわからない。違いますか?」

「それはそうですけど」



 とは言え。魔道巫女は元々数が少ないし、だから鍛錬には参加していない。

 練習に付き合ってくれる様な魔道士の人、なんて。探し方がわからない。


 それに。お願いするならお金を払わなくちゃいけないんだろうけど。

 僕はお金を持っていないし、使い方も良くわからない。

 モリィは当然、ネー様も。お金はコイン一枚だって持ってない。


 ユーリやアリスは持っているけど、それは見たことの無いコインと、そして不思議なニオイのする紙。

 それがユーリ達の世界のお金なんだと、ユーリが教えてくれた。

 でも、ランドでは使えないらしい。二人あわせると結構いっぱいあったけど。



 確かにあの扇、対魔導戦で使ってみたいけど。

 僕では、相手を探すこともお願いをすることも出来ない。



「でも。僕はお金を持っていないので、魔道士の人に練習のお願いができません」

「相手はわたくしが用意しました。見習いの魔導導士なのですが、彼もやはり力とスピードで来る相手との組み手が必要な時期です」


 彼? メルカ様が見つけてくれた相手は、男性のようだった。

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