表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/470

リアル強制イベント

 妹に似ているが厨二病をこじらせて悪化した、本格派なデンパさんが目の前に居る。


 なまじ妹に似ているので胸元を凝視出来ないのが少し残念だが、ほぼデコボコが皆無であるところまで妹そっくりなので、そう言う意味での残念感は薄い。


 若い女性でありながら、身体を露出して周りの反応を楽しむタイプの変態さんなのかも知れない。

「どうかあまねく世界に救世の光を、ユーリ様」


 いずれ、デンパさんだろうが変態さんだろうが、俺は関わりになる気は無かった。

 こんな状況なら尚のことだ。



 ――当然のごとく、俺は彼女から逃げ回った。

 それから約六時間。俺の意向はともかく。

 いつの間にか逃げていたはずの俺は、彼女の背中を追って走っていた。


 ゲームでの予定の通りに。

 大崩壊が始まって十日。

 この世界はもう終わりであるらしい。

 違う所があるとすれば安全地帯のアナウンスが無い、と言う事くらいだ。


 彼女は灰色が延びる方向を察知出来たし、追い詰められた今も。その侵攻を食い止めるべく、両手を広げ体中、ピンクの光に包まれている。


 そして俺はその光景を全く違和感なく受け止めていた。――どうやら俺もデンパの仲間入りをしたらしいな。



「ユーリ様! もう限界です、私の手を掴んでっ!」

 俺は少女の手を掴む。


 世界を救うなんてそんな突拍子もないこと、俺に出来るわけがない。

 ……でもこんな訳のわからない終わりは嫌だ。だから少女の腕にすがる。

 しかし助かるのには代価が要る。当然ただではない。

 彼女に会ったときからずっと言われているではないか。


「……そして救世のこころざしを言葉に! それを口にしないと魔方陣は起動しない! ……跳べないんです!」

「――俺には、世界を救ったり出来ない。この状況で、ただの落ちこぼれ高校生に! ただのネット中毒の俺に一体何が出来るってんだっ!」


 

「……っ! う、卯棟うとう、くん?」

 いきなり名前を呼ばれて振り向く。クラスメイトの樺藤かばふじが、おびえた様子でこちらを見ている。セーラー服に鞄と、アニメのキャラクターがプリントされたビニールの白い手提げを持って。

 彼女とは同じクラスで二年目だが、話したことがなかったな。


 樺藤は、同じクラスの女子だがあまり印象が無い。

 別に彼女は虐められているわけでも無いし、莫迦ばかでも無い。

 もちろん不細工というわけでもなく、改めてこうしてみるとむしろ可愛い。


 でも彼女にはただ地味で暗い。と言う印象しかない。事実、いつだって休み時間には一人で本を読んでいた。

 セミロングの髪にメガネが似合っている、いかにもな文学少女。


 男子と話しているところなど一度も見たことが無い。二年間一緒のクラスの筈だが彼女の声が思い出せない。


 だが今や、たった一人の生存者である。彼女はまだ動いている(・・・・・)。つまり灰色に飲まれていない。

「樺藤! 無事だったのか!」

「卯棟くん? ……“その子”は誰? う、卯棟くんはいったい、何を。しているの?」


「法王様のケープを着た私が見える!? この方も力を持っていると……? ならばユウリ様、あの人の手を取って魔方陣の上へ! ――そして、救世の決意を言葉に! そうしないと、転移陣が発動しないんです! もう未熟な私の力では……押さえきれません! 時間がないんです!」


 既に色が付いているのは、世界中でこの校舎裏の魔方陣の周り、直系約一〇mの一角だけなのだろう。それに説明は要らない。

 そしてじわじわと色の付いている範囲は狭まり魔方陣に迫る。

 説明されなくともこれだけはわかる、直径にして一m弱の魔方陣に、もしも灰色が触れたら。

 全ては終わりだ。


 風や空気さえ灰色に染まって行くのがわかる。

 せっかく生き残った樺藤までこの灰色に飲み込ませるわけには……。


「樺藤も込みで助かるんだな?」

「もちろんです、この方も救世の力をお持ちです。だったら一緒に跳べますっ!」

 ――ちくしょう! つまりは彼女も救世主としてなら連れて行く、そういう事か!


「樺藤っ! 説明してる時間がないけど、灰色に飲まれたくは、ないよな!?」

 樺原はおびえたように小さく何度も頷く。

「でも、この場は逃げられるかもだけど、……俺と手を繋いだら。その先どうなるか、マジわかんねえんだ! 俺は責任は持てないぞっ!」


 声は聞こえなかったが唇の形は、――いいよ。と動いて、彼女は今度はこくんと一つだけ、頷く。

「ゴメン、……俺はお前を、巻き込んだ。――こっち来いっ!」

 俺は樺藤に手を差し出し、彼女は俺の手を握った。



「わかった、リオ、つったなっ!? ――救世主、俺で良いならなってやるっ! やってやろうじゃねぇか、救世主っ! ただしどうなっても知らねぇからな! あとで使えねぇとか、文句言うんじゃ無ぇぞ!」

「来たっ! ……超時空転移陣アクティベイトっ! 心配要りません、お世話役として私がずっと二人のそばに……! まもなく飛びます! 二人とも、もっと真ん中にっ!」


「かばふじっ! もっとこっちだっ!」

「ぅあっ……!」

 リオの腕を左手に掴んだまま、右腕全体で樺藤の細い身体を抱きしめる形になった。


 こんな時だというのに、


 ――あ、初めて女の子のおっぱい触っちゃった。

 樺藤、目立たないけどやっぱりその辺は女の子であった。そして実は意外と結構な。

 下の方からちょっとだけだし、不可抗力だからこれはさすがに怒らないよな……。


 などと思ってしまうような、そんな人間に救世主など勤まるものなんだろうか。

 だがしかし。そんな事をゆっくり考える暇など、あるわけも無く。


 ――固い感触はブラジャーなのかな? そしてそのライン状の固い部分の上は、当然柔らかく……。



 灰色の世界に魔方陣から青白い光があふれ、やがて全てが白くなって何も見えなくなった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ