お召し替え ~従者の皆さん編 モリガン~
「アリスにリオさん、もう来ていたのか。速かったな。――ん? なんかあったのか?」
アビリィさんと入れ違いで、ごく自然に、何気なく入ってくるのは黒いコートのモリガンだが……。
「マイスターも仮の服とは言え、似合って居るぞ。アリスはまた、変わった服を着ているな」
ボロボロでヨレヨレだった元のコートでは無く、つや消しなのに綺麗な黒い生地。
袖口と裾の部分が多小広がって、スタンドカラーの襟元と袖口からは白いフリルが見える。
すねまでキッチリ長さはあるが、前のものより明らかに歩きやすそうで、でもショートブ-ツがヒール以外ほぼ見えないのだから、むしろ前より裾は長くなったんだろうな。
そして歩く度にチラチラ生足が見える。
今回はコートの中身、なに着てるんだろうコイツ。
そのヒールも更に細くなって上がったようだ。
……女らしさ、なんてことは一切気にしてないモリガンのはずだが。
ヒールには拘りがあるんだな。
服装から行くとMと言うよりは、まんまSの女王様だけど。
「リオさんは昇格したのか、おめでとう。一息に大巫女とはすごいものだな、聞いたことがない」
やはりこの世界の人間には、その辺。服で見分けることが出来るらしい。
しかし、そんなことよりもだ。
「モリガン、お前。その服……」
「そうなのだ。仮の服とは言えアリスまでそんな変わった服だというのに、私は代わり映えが……。どう言うことだと思う? マイスター」
「この莫迦、逆だ逆! ホントに鏡見たのか!? あからさまにおかしいわ! そこまで身体の線が出るコートなんか見たこと無ぇよっ!!」
……しかも浮き上がった線が、ものの見事になにも描いていないというおまけ付き。
見てるこっちが恥ずかしい。どんな羞恥プレイだよ……。
あ、そう言えばコイツの場合は。
「そうか、フィット感が上がっているのだな? ……おぉ、言われればこれはこれで」
失敗した、露出癖があるんだった……。
それならそれで。むしろ喜ぶんだよ、コイツだったら。
「えーと。……メルカさん、服選びの責任者は?」
「わたくしです。皆さんのお好みと特性を参考にしてご用意しました。あのコートは物理攻撃をある程度無効化する上、魔導索敵にかかりづらく、汚れも付きにくい。更には伸縮性に富み、夏に着ていても涼しく、冬は暖かいと言う素材の良さの……」
「あの。……うん、もういいです」
お好み、と言うかもはや性癖だろ!
そこは参考にしちゃダメなところだってば……。
「そうだ、マイスター! 言われて上着の見てくれもすっかり気に入ったのだが、なにより中の服がだな……」
「……う、しまった! 前にも言った! 人前で脱ぐなっ!」
……すこし遅かった。
何かの“事案”の容疑者のごとく、モリガンは自慢げにコートの前をはだける。
「そう言わずに今だけでも良いから見てくれ! こんなに気に入った服は今まで無かったのだ!」
「う、な。これは、お前………。俺には刺激的すぎるから。もう、しまえ」
「……聞いた限り、マイスターなら見慣れているかとも思って居たが」
「んな訳あるか! 誰に聞いたんだよ、そんな話!」
まぁ、一人しか居ないんだけど……。
しかし、なんでこの世界にこんな服が!
「なんだ、ワンピースだし、大変そう。っていうかまぁ。日々、某かの苦労はあるだろうけど。……気に、いってんのな?」
「気に入るどころか。――この良さがわからんと言うヤツが居れば、そいつの感性を疑うレベルだぞ。マイスターもそう思うだろ?」
「ど、どうだろう……」
良さはわからんでも無いが。あまり表だって公言出来んヤツだよ、これ。
気に入ってるそうだし、だったら人前で脱がなきゃ良いよ。もう……。
「……人前で。脱いで見せるなよ?」
「それこそ前にも言った通り、私はいまや身も心もマイスターの所有物だ。もちろんお前以外の男には見せない、その辺はわきまえてるさ」
それはそれで少し困るというか。
「女にも見せるな! 本気で莫迦なのか!?」
つーか、その台詞で頬を染めて俯かないでくれ。ホントに困るから……。
中身はともかく。見た目は美人のお姉さん枠、アテネーとはすこしベクトルが違って、コイツもきつめの美少女。そこはもう、間違い無いわけで。
体の凸凹は無いにしろ、偏見無しで見ればそうとしか言えない。
だから、リアクションに困るんだってば!
「こんなに扇情的かつ慎ましやかに見える、矛盾した服は始めてだ。胸の神聖文字なのか古代文字なのか、これも読めないが、いかにも私を表しているようで気に入っている。……うん、一生大事にする!」
「……せっかくメルカさんが作ってくれたんだ、一生は大袈裟だが、そうしてくれ」
――それで。だ。
「……亜里須。わかってると思うが、後で。話があるからな?」
振り向いたが、伊達眼鏡の奥の目は。微妙に俺の視線からそらされる。
「な、なんの。こと、……かな?」
「まさか本気で誤魔化せるとか思ってないよな? ――この場で俺とお前以外の誰が。スクール水着のデザインを知ってるっつーんだ?」
しかも胸にわざわざ白い布を縫い付けて『モリガン』と少し歪んだカタカナで、しかもマジック風の字体で書いてある。と言う、もろにアニメ仕様。
そもそも。この場でカタカナが読み書きできるのは。――俺以外なら、それはお前しか居ねぇだろ!
「うぁ、あ。こ、こう言うの。もりちゃん。……好きかな、って。思って」
「だいたい。いつ、どうやって、誰に、デザインを伝えたっ!?」
まぁ、それを素材含めてキッチリ再現するメルカさんもメルカさんだが。
この調子だと他の従者の皆さんの服装も、ちょっと不安になってきたな……。
「他の二人のデザインにも干渉してるんじゃ無いだろうな?」
「……もりちゃん、だけ」
「ホントだろうな……?」
こくん、と頷く。
そこまで器用なタチでは無いのは知ってるけどな……。
「メルカさん。あの中の服、ツーピースに直せますか?」
「ワンピースの方が見た目も良いような気がするのですが」
「ほら、アイツは一切考え無しなんでアレだけど。……なんて言うかあの服だと、普段、生活全般に色々大変だろうし」
普段からスクール水着を着て“ちょっとお花摘みに”。なんて、いかにも大変だろうな。とか。
……なぜ俺が。そんなことまで気にしなくちゃいけないんだろう。
スク水を普段着にして苦労する、それはモリガンなのであって俺じゃ無い!
「なるほど、言われてみればそうですね。……予備のこともあります、何処で分割すると不自然に見えないか、つなぎ方も含めて後で考えてみましょう」
……予備も用意してるのかよ。
「……お願いします」





