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にじみ出す

 学生服を着て鞄を持った俺と、印象的な白い髪の少女が校舎裏を走る。

「ユーリ様っ! 早く、こっちに!」

「学校まで飲まれ始めた! こうなりゃ、どこに居てもいっしょじゃないのかっ?」

 もう既に学校の校舎も灰色に覆われ、まだ色の付いているものはごく一握り。


 隣を走るのは銀の髪に真っ赤なリボン、スカイブルーの瞳。それ以外は妹にうり二つな少女。

 彼女は右手に槍を持ち、鮮やかな紫の服に白い羽織、黒いケープを翻し俺を先導して走る。

 俺達は敷地の隅へと追いやられていた。

 ――くそっ、学校なんかに来るんじゃなかった! そうすれば里緒奈だって!



 それはある日、とある大学のサーバー室から始まった。

 後に時計の止まった日、と呼ばれる現象。

 全てのものが色と意味を失い、ただの灰色になる。

 元から灰色のコンクリートでさえ、“灰色に色を失った”。

 無機物から始まったこの現象は直ぐに生き物にも及び初め、当然人間にも波及し初めた。



 そう,俺はこの現象を知っている。

 だが、それはゲームの中だけの話だったはず。何故、現実世界リアルへと染み出してきている……?


 そして、その大学と言うのは俺が脱出に使った経路。

 サーバーラックが灰色になったのは、あのイベントの次の日の朝であるらしい。


 ちなみにゲーム内がどうなったのかは、あの日以降ゲームサーバとは繋がらなくなってしまったし、SNSの公式も発信をやめるどころか、アカウントごと消えてしまったのでもうわからない。



 ちょうど今日でゲームサーバーの異変から一〇日目になる。

 一昨日までのニュースによれば、結局ゲームの中に捕らわれた約一、〇〇〇人の内の半分は強制ログアウト処理をしても、意識をとり戻すことは無かった。


 あり得ないことにゲームサーバー内に、意識だけの状態で存在して居る状態だったらしい。

 当然。運営の担当者やITスキルを持つ技術者。無関係の有志の人達が、レスキューのためにサーバーへと向かったのだが。

 実にその1/3が二次遭難、リアルには戻って来れなくなった。


 科学者や専門家達が八方手を尽くしていたが、原状。

 回復の見込みは一切立たず、原因も全くわかっていない。

 わからない、と言う事がわかったに過ぎない。

 そしてサーバー内に存在する人達とのコミュニケーションも、少しずつ取れなくなっていった。



 一方。リアル世界で灰色に飲まれた人達は、そのままオブジェのように固まり、バランスの悪い状態で色を失った人達は倒れて粉々に砕け散った。


 壊れさえしなければ回復するのかも知れない、と言われては居たが誰も確信を持って言っているわけではない。

 回復した例は一度たりとも無かったし、その人達をじっくり観察出来た人も居ないからだ。


 なんとかしようとすれば灰色の中に足を踏み込まざるを得ず、足を踏み入れたが最期自分もオブジェの仲間入りをしてしまう。

 放置以外の選択肢が無い。


 当初、灰色の範囲は一日で一〇mも広がらなかった。だから、人々は特にパニックも起こすことも無く、監視を強めつつ普通の生活を続けたのだ。

 しかしここ3日。現象は、日本全土はおろかインターネット経由で海をも渡り、世界的に灰色が浸食を初めた。


 灰色の浸食スピードは、一昨日朝から更に劇的に上がった。

 今はもう時速では表せないだろう。




 両親は昨日、仕事に出たまま帰ってこなかった。

 だから。明るくなったら人がたくさん居るところへいこう、取りあえずはわかりやすいところで学校へ。という判断は。


 同じ高校へ徒歩で通う高校生の兄妹としては妥当な線だった。と俺は思う。

 基本的に逃げ場が無いのだから。



 そして。出来が良くて可愛い、俺の自慢の妹。里緒奈もまた、ついさっき。

 学校前の横断歩道、その階段を降りているときに唐突に横断歩道の半分が灰色に飲まれた。

 そしてその瞬間、ちょうど妹は手すりに手をやっていた……。


「りおなぁあああっ!」


 笑顔のまま全身灰色に色を失った里緒奈は、階段を転がり落ちた。

 腕がもげ、スカートが砕け、足を無くして地面まで到達した妹は、何一つ痕跡を残すこともなく。粉々に砕け散った。

 回復するわずかな可能性さえ、隣を歩いていた俺の手をすり抜けて塵になった。

 そして歩道橋を降り、俺は呆然と。風に舞う塵をただ見つめていた。




 そこに現れたのが。

 今、校舎の隅。俺の隣に立っている妹にうり二つの少女。

 黒いケープをなびかせ、白く輝く長い髪を風になぶられながら。

 全身から青白い光を放ち灰色の進行を食い止め。

 俺達の足元に魔方陣を浮かび上がらせ。

 どうやら俺以外には見えていない(・・・・・・)少女である。




「里緒奈! 無事、だったのか? ……その格好は。なんのコスプレだ? いつ着替えた?」

 その少女は真っ赤なリボンを揺らし、露出度が高い白と紫の巫女風の服、そしてそれを隠そうというつもりは一切感じられない黒い短めのケープ。

 彼女は、俺と目が合うと。

 右手に担いだ槍を降ろして地面に置き、俺に膝まずき頭を下げ、開口一番。


「私は神につかえし巫女、リオンデュールと言います。――法王様より全権を託され、この世界へ来ました。どうか。今居るこの世界のみならず、我らが世界をお救い下さるご決断を今。救世主ユーリ・ウトー様」

 そう言った。

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