リオと里緒奈
「俺はユーリ・ウトー。かつての貧乏傭兵団の頭領ラビットビルとは、同じ魂を持つもの。と言う説明ではかえってややこしい、かな……?」
「きっと、理屈では無いのでしょうね。わたくしでは理解が追いつきませんが、伺いたいことにも問題は生じません。それで良いでしょう」
「ありがとう、メルカさん。その辺の説明、しづらくてさ」
「でも、ユーリ君が聞きたいこと。と言うのは。我が母、マグノリアのことでは無いのでしょう?」
「うん。まぁそうなんだけどね。……その、さ。マァル、元気にしてる?」
「おかげさまで。……騎士も神官もだいぶ前に引退しました。先日、弟に子供が生まれて、いまや良いおばあちゃんですよ」
彼女はまだ40代半ばのはずで、俺の母親より若い。とは言え。
平均寿命が設定上50半ばのこの世界。当然と言えば当然なのだと頭ではわかる。
現実世界は灰色、この世界では異物。俺は何処に立って、なにをすれば良い?
――それで、聞きたいこととはなんでしょう? あまりそう言う風には見えない彼女が、少しだけ前に出て来た気がした。
「この世界へと連れてこられたは良いけど、さっぱりわかんないんだよ。……俺と亜里須はなにすれば良いのか、なにをどうすることを期待されてんのか」
もっとも今のところ。できること自体がほぼ、無いわけで。
「俺達、二人共。ただの使えないヤツでしかない」
試練をクリアしてなお、今でも亜里須がずっと気にしている。当たり前だ。
多少なりともこの世界に縁のある俺でさえ、違和感がある。
何のゆかりも無いアイツにはなおさら、この世界に居る理由が必要だ。
世界とともに灰色になる、それとの二択だ。
と言うのは、いかにも正論に見えて、納得がいかないのは俺も同じ。
俺なんかは特に。里緒奈と一緒に、灰色になって砕け散る方が自然。と言うのもわかる。
でもリオにはっきり、救世主になれ。とこちらに来る前に言われたのだ。
なにもしないで救世主様などと呼ばれても、ケツの据わりが悪いだけ。
名指しで呼ばれたんだから、呼ばれた以上はやることをはっきり知りたい。
「どうやらリオは本当に知らないみたいだし、メルカさんはその辺、何か聞いてませんか?」
「ごめんなさい。――世界を救って下さる可能性のある方を、リオが異界に渡って探し、この支神殿へと帰ってくる。なので法王庁の指示のあるまで、当面のお世話をするよう。……わたくしが聞いているのも、本当にそれが全てです」
「直接法王に会うより他無い、そういう事ですか」
「正直に言えば、教皇様も答えをお持ちで無い可能性がある。……ご自身の意思では無く、あくまで神よりの啓示に従ってリオを異界へと送った。その可能性の方が高い。とわたくしは見ています。――彼女のせいでは無いにしろ。リオの能力が全てに渡って低かったのは周りの皆が当然に知っていることです」
過去形で言ったな、低かった。――今は高い? え。何処が?
――その上で、娘同然に可愛がっているリオを、ご自身の意思で異界へ送るというのは。普通に考えれば無理があるかと。メルカさんはため息を吐いて俯く。
動きにあわせて大きな胸が揺れるが、そんなことより。
……そんなことより?
まさか、この俺に。おっぱいよりも気になることがあるとはね。
「それじゃあ……」
「はい。……直接神に会うよりほか、それを知る方法はないのかも知れませんね」
「……そんな」
設定はあっても、キャラとして設定されていないはずの神に会えるわけが無い。
大精霊は帝国のイベント先回り部隊が探していた以上、ゲームに登場する可能性があったからこそ居たのだろうし。
リオの中のもう一つの人格は確かに神を名乗ったが。
多分だけれど、アレはそう言う意味では違うものだ。
きっとゲームにもそこから派生したこの世界にも。
直接関係のない、いわばバグのようなものでは無いだろうか。
確かにリオは、必要以上にドラマティックな半生を送り、しかもドジっ子巫女。
という如何にもな属性ではあるのだが、アテネー達のように名有りのイベントキャラには見えない。
見えるとすれば。俺の妹、里緒奈のように見える。
そう。少なくともゲーム内の特殊なキャラでは無い。と俺が思う最大の理由がそれ。
イベントキャラが妹と全く同じ顔をしているわけが無い。
帝国軍も法国中央の下級神職、としてしか認識していなかった。
俺がこの世界に来たことで発生したバグ、彼女の立ち位置がもしもそうだったら。
リオが俺を迎えに来たのだから、時間軸が多少おかしくはあるが。
でも。もしも何かの理由で俺がこちらに来ることが確定して、その後リオのキャラが急遽、固まったのだとしたら。
この世界の主観的な時間。これは設定、と言う言葉一つでどうとでも成るものだとおもう。
そして里緒奈とリオは同時に俺の前に居たことは無い。
そう、リオが里緒奈に瓜二つなのは俺のせい。その可能性は高い。
だったら。俺は彼女にどうやって責任を取れば良い……。
ここはゲームの世界、だけど。こうしてリアルの世界でもある。
良いトコのお嬢様だったリオは、巫女になるまでにどれだけ非道い目にあったのか。
「……どうしました? ユーリ君。……気分が優れませんか?」
「あ。いや、別に。……なんでも」
人、一人の人生そのものなんて……。
俺如きに背負えるはず、ないじゃないか!





