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「ホントのバカだと思ってんでしょ!?」 Side : AdME Dukedom (Unofficial 3rd force)

所属:AdME(アドメ)公国 (非公式の第三勢力)

灰色世界の追跡者ストーカー珠洲嘉年すずかね 美夜みや



「彼らが王都に入ったのは自分の目で確認したのかしら?」

「はい。……でも、わざわざ僕らが確認する必要ってあるんですか? 見ようと思えばいくらでも見える、んですよね?」


「そー言う意味なら今もみえてるのよ? そうではなくて第三者が確認することで事象が確定する。大事なのはそこなの。私も結局この世界に依存、連動する存在だからさぁ。誰かがその事象を見て確認しないと、私が見たことで、逆にその辺が曖昧あいまいになってしまうの」


「……言ってることが、よくわかんないんですけど」



 大陸ランドの中央部。

 周囲を帝国と法国の国境線に完全に囲まれたほぼ丸い国土。

 どうやって独立できたのか国の設立の経緯なんか、当然知らないが。


 ここは国民が10,000前後しか居ない新興国、アドメ公国。

 私は公国防衛隊総隊長、と言う肩書きに裏付けされて好き勝手が許されて居る。


 公国中央の王宮、最上階。とは言え小さな国なのでお城も慎ましく三階建て。

 その最上階は公王の部屋と、そして今居る祭壇の間しかない。


 本来、供物をあげ火を炊いて神を祀るその祭壇。

 そこにプロポーションを誇示するかの様な、スケスケのコスチュームを纏った女性が寝そべっている。

 おっぱいの先っちょやら股間の部分だけ、微妙にみえないデザインなのが、なんかすごくあざとくみえる。


 その彼女の存在に違和を感じるとするならば、先ず一つ。

 よく目をこらせば身体が地面に着いていない。


 長い透けるような空色の髪、それが床にこぼれてきれいに広がっているのは。

 彼女がわずかに“浮き上がって”居るからだ、と言うのがわかるはずだ。

 他にもみればみるほど、細かいところは色々とおかしいのだけれど。



「ふん! 頭でっかちのオタクが言いそうな台詞。箱を開けるまで猫が生きてるか死んでるわからない、みたいな事を言いたいの? ……うざ」

「ちょっと先輩、相手を……!」


「あら、シュレディンガーの猫、知ってる? ミーアは、知識も考えも無しのお莫迦ばかさんなのだと思って居たけれど」


「バカなのは否定しないわよ。でもね、箱に猫と毒入れて蓋したら大概死ぬ。そんなの、実験するだけ時間と猫の無駄でしょ?」

 同じ殺すなら、その時間を使って三味線にでもした方がよほど良い。

 と、私は常々思っている。


 こう言うのは思考実験、みたいなことを言うのだっけ。

 学者や知識人が使う分には、重みも意味もあるのだろうけれど。

 アニメや漫画で使うとオタクが皆、したり顔で使い始めたりして。


 同じくオタクである私としては、正直横で聞いててウザい。と言うより。

 知ったかのニオイをプンプン感じて、正直に言えばイタい。イタくて聞いてらんない。


 卯棟くんならうざったい、とか言いそうだ。

 まぁ当人が率先して使いそうな気もするが、それならそれで文句は無い。

 彼が使うなら私も真似するまでだから。


「まぁ、この話は実際に実験する。と言うわけではもちろん無いのだけれど」

「いちいちウルサいっ! 思考実験くらい知ってるっつーの……! 私のこと、ホントのバカだと思ってんでしょ!?」

「みゃあ先輩! ケンカする相手はちゃんと選んで……」


「良いのよソゥ。――うーん。私、嫌われてると思ってはいるけれど。それでも今日はいつもにましてご機嫌斜めなのねぇ。……ね。ミーヤ、今日はなんで怒っているの?」

「神様だったら勝手にわかれ!」




 帝国だけで無く、法国だって実はこの国。もの凄く邪魔くさく思って居るはず。

 なんで攻めてこないのか、不思議にすら思う。


 だって、この国の国教はランド全体で信仰されているフェリシニア信教では無い。

 女神教、と言う新興宗教だ。

 法国から見ると邪教徒の住む国なのである。

 しかも女神教。公国外にも、徐々に信者を増やしている。

 

 そしてありがたく拝む対象は、目の前の彼女。と言うことになる。

 もちろん彼女の姿は、普通の人達には見えないんだけれど。


 そして壁には国の旗の隣に女神信教のシンボルマーク、ひらがなの「め」をデザイン文字風にしたマークが書かれた旗が掲げてある。

 このマークも、コイツを拝むのも。


 ――馬鹿げてるわ、ホントに!

 




「それはそれで、やったら怒るくせにぃ。……我が儘なんだから」

 彼女はふわり、と浮き上がると今度は完全に空中であぐらをかく。

 髪の毛の長さは彼女の座高を上回り、先端部は床に付いたまま。


「ちっ……。す、好きなだけストーキングして良い、状況に応じて協力したって良い。……そう言った癖に」

「言った? それ、わたし? ……わたし、言ったかなぁ?」



「それを言ったのは僕だ。――おかえり、ミーア、ソゥ」

「あ、公王様。ただいまです」

「帰りたくなかったのに……」


「先輩っ! 公王様ですよ?」

 声を殺して私を諫めるが。


「……だから?」

 見りゃわかる、明らかに公王だ。

 だからなんだ。



 帰って来たくなかった。

 隣に亜里須がいるという不快な事実はあるのだが、それでも。

 いつまでも彼の背中を眺めていたかったのに。

 彼は二大国家の一角、フェリシニア法国。その王都の城壁の中に入った。


 門の前には門番の戦士。門の中には騎士巫女。更に弓兵が門の上に立ち、獣使い(ビーストテイマー)が猛禽の目と狼の鼻を使って警戒している。

 魔導団の組んだ魔導防壁があるから、携帯型転移陣なんか使えるはずが無い。

 手も足も出ないとはこのことだ。



「彼は、歪んでいるこの世界全体。それを正しい方向にずらしてくれると思って居る。だからこそ起こった事象は、さっき女神が言った様に。この世界以外の第三者が確認をして、事実として確定しないとね」


 ――その為に君達を呼んだのだから。冠をかぶるわけでも無く、特にエラそうな格好もしていない、青年と中年の中間。と言った見た目の公王は椅子に座る。


「私はある意味、この世界そのものだからさぁ。だから何でもできる女神様。なんだけどぉ、なのでかえって何にもできない役立たずでもある、ってわけ。だから私にはミーヤが、どうしても。必要なのよね」


「そしてそのミーヤの面倒を見るソゥも必要だ。だから君らをセットで呼んだ。――それにこの世界、半分はリアルだから彼が死んだら不味い。復活は無いからな」


 半分はリアルだから死んだらお終い。

 そこが一番の問題なのだ。

 だからこそ、卯棟くんだけで無く、亜里須の安否だって気にするのだが。

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